208 / 423
【聖者の薔薇園-開幕】
243.暗殺者と悪魔の子
しおりを挟む「どこも敵だらけだなぁ…」
「……あの変態が派手な事を仕出かすからだ」
人気のない廊下の影から表の様子を窺う。侵入者が現れたとかで警備が厳重になっているのか、トラードの言う通りどこもかしこも聖騎士だらけだった。
「つーかよフェリちゃん。聖者んとこ行くなら別に捕まっちまっても良いんじゃないのか?」
「ううん。それじゃだめなの」
きょとんと純粋な疑問を尋ねてくるトラード。それにふるふると首を横に振ると、二人はぱちくり瞬いた。
トラードの言葉は尤もだ。聖騎士達に捕まってしまえば、きっと最終的には聖者に会うことになるだろう。むしろ、今ここで名乗りを上げて捕まってしまった方がずっと楽に違いない。
それでも、その方法を選んではいけない。聖者の…マーテルの様子を見て、ひとつ学んだことがあるから。それだと聖者はいつまでも話すら聞いてくれないだろうって、僕はもう分かっているから。
連れていかれた、じゃだめなのだ。僕が自分の意思で会いに来たってことを、証明しないと。
「マーテルは言葉が理解できないの。おばかさんなの。だから行動で証明するの」
「ほんと聖者には辛辣なのねフェリちゃん…」
まずは僕がマーテルと対話する意思があるということを、彼に示す。連れていかれてそれを言うなら、きっと彼は信用しない。その場限りの言い訳にしか聞いてくれない。
だけど、僕の方から会いに来たなら?それなら言い訳だなんて思えないはず。まずそこから、マーテルとの対話が出来るようにならないと。
彼に、僕と対話する意思を作ってもらわないと。
「マーテルに会いたいから会いに来たって、そう言ってあげないといけないの」
真剣な色が瞳に籠る。二人は茶化すような雰囲気を完全に消して、やがて顔を見合わせたかと思うと仕方なさそうに眉を下げて微笑んだ。
トラードの大きな手がぽんと頭に乗っかって、くしゃくしゃと髪を乱すように撫でられる。あわわっと目を瞑ると、頭上から優しい声が降ってきた。およそ暗殺者のものとは思えないほどの。
「分かった。協力するよ。どうせ俺らは…後戻り出来ないくらい入れ込んじゃったしね」
「……」
そう言って意味深な視線をローズに向けるトラード。ローズは相変わらず無口無表情のまま、ただじっと僕を見下ろしている。
その言葉はどういう意味なのだろう。気になったけれど、聞くのはやめた。二人だけに通じる言葉なら、僕が知る必要はない。
よし、と覚悟を決めて息を吐いた途端、不意に後頭部にトラードとは違う大きな手が回って目を見開く。声を上げる間もなくむぎゅっと抱き締められたかと思うと、暖かい手が不器用なぎこちなさで頭をぽんぽん撫でた。
そうして耳元で響く低い声。
「……お前、死ぬ気だな」
ぴくっと硬直する。肩に顔を埋めたままじっとしていると、今度は短い溜め息が聞こえてきた。
ふくっとした頬にライラックの髪がさらりと触れる。擽ったさに身を捩った瞬間、ぎゅっと身を包んでいた抱擁が呆気なく解けた。
「……死ぬ人間はそうやって、凪いだ目をする。今のお前のように」
「……」
「……まぁ良いんじゃないか。お前が決めたなら文句は無い。但しやるなら最後までやり切れ」
中途半端は許さない。淡々とそう語るローズに笑みが零れた。
こういう一貫しているところがローズらしい。中途半端を許さない真面目なところはローズの信条なのだろう。だからローズは絶対に僕を止められない。
それは信条に逆らうことになってしまうから。そしてトラードも同様に、ローズがそう決めたなら否定出来ない。
二人の関係はよくわからなくて、複雑に見えて、その実本当は単純明快だ。第三者の僕だから分かる。二人は何だか…複雑に考えすぎているみたいだけれど。
とにかく、二人が背を押してくれるなら心強い。これが他のみんなならこうはならなかっただろうなと、必死の形相で僕を止める彼らの姿を想像して苦笑した。
「そんじゃどうする?もう隠れて突破は無理だよ、騎士達が多すぎる」
壁の影から様子を窺うトラード。それにうーんうーんと唸りながら考えていると、ふとローズがあっさりと単純な策を口にした。
「強行突破だ。立ち向かう騎士共はその都度殺せばいい」
「……お前…マジか…」
他に何がある?と言わんばかりに首を傾げるローズ。ドン引きした様子のトラードが溜め息を吐き、ぐぬぬと唸って頷いた。
「まぁそれしかないよな、秘密通路だってもう使えねーし…」と仕方なさそうに呟くトラード。ローズにひょいっと抱き上げられ慌ててむぎゅっと抱き着き、なにごと!と顔を上げる。ローズが無表情のまま淡々と答えた。
「……お前は絶望的に走る速度が遅すぎる。黙って俺に抱かれていろ」
「がーん!」
足が…遅い…?
嘘だ、僕はずっと自分の足の速さを誇ってきたというのに…。シモンだって僕が走る度『馬より速いです流石です天才です!』と絶賛していたよ、とローズに告げると呆れ顔が返ってきた。
「……あの侍従がお前の能力を否定するような言葉を吐くと思うか」
「……。…おもわない…」
ちーん…しょぼぼん…。
沈んだ空気を纏う僕を改めてぎゅっと抱え直したローズ。トラードの「こんな時に何ふざけてんだ行くぞ」という声でハッと切り替えた。
420
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。