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【聖者の薔薇園-開幕】
263.邪神の胸中(シモンside)
しおりを挟むフェリアル様が制止を振り切って走り出す。
一直線に駆け寄るフェリアル様を見て、マーテルが呆然と目を見開いたのが見えた。さっきまで逃げに徹していたところで突然真逆の行動に出たのだ、驚いて反応が遅れても無理はない。
「っ…リベラ様!!」
咄嗟に神の名を呼ぶ。ただの人間である自分に出来ることは何もない。そう判断しての咄嗟の呼びかけだったが、内心は今まで感じたことが無い程の無力感と自己嫌悪に苛まれていた。
俺ではフェリアル様を守れない。その事実が悔しくて、苦しい。それでも今は自分の無力を嘆いている暇など無い。フェリアル様の結末を最悪なものにしないこと、それだけをただ考える。
「……仕方あるまい。消滅は止めだ。奴を封印する」
消滅ではなく、封印。
それは一体何が違うのかと訝しむ。だがそれでフェリアル様の消滅を避けられるなら何でもいい。とにかく今だけは自分を無理やり納得させて立ち上がった。
だがリベラ様は此方側の困惑を機敏に察したのか、神力を外側に解放しながら例の淡々とした声で語った。
「奴の消滅はフェリアルの消滅と同義だ。だが封印であれば、少なくとも魂が消滅することはない」
消滅と封印。話を聞いてハッとした。その手があったのか。
消滅は文字通り、魂まで完全に消し去るという意味。だが封印となれば話は別。魂を含めた存在そのものをそのままの状態で保持したまま、封じる。全て消えてしまう訳ではない。
この方法なら確かにフェリアル様の消滅も避けられる。だがマーテルが封印された後、消滅はせずともフェリアル様は一体どうなってしまうのだろうか。
「前例が無い故、どうなるかは私にも分からない。だが、これ以外の最善策が現状何も無い以上、実行するしか無いだろう」
躊躇は残るが、リベラ様の言葉通りだ。消滅かそれ以外を選ぶなら、当然それ以外の選択肢を模索するに決まっている。
分かっている。分かっているが…こんな泥臭い方法が最善だなんてどんな地獄だろうか。本当ならもっと単純明快で、簡単な方法があるはずなのに。
「……他の神々は…動いてくれないんですか」
神界が動けば全てが解決する問題なのではないか。無理な事だと分かっていてもどうしても考えてしまう。
そもそも、神の問題に人間を巻き込むことはタブーではないのだろうか。神から人への干渉が禁じられているならば、今の状況こそタブーと言うに相応しいのではないかと不満が募る。
今こそ神界全体が責任を負うべきだろう。怒りなのか何なのか、表情を歪めた途端リベラ様のか細い声が聞こえてきた。
「……神とは薄情な存在なのだ。人情も理解出来ない程、淡白で残酷な者が多い。そうでなければ世界の創造など到底務まらない故に」
「貴方は…どうして違うんですか?」
薄情、人情を理解出来ない、淡白で残酷。リベラ様にも確かにその節が無いとは言えないが、それでも神の特徴にはあまり当てはまらない。
当てはまるのならば、今頃神界から追放などされていないだろう。マーテルという屑に後れを取ることも無かったはず。リベラ様が一度全てを失ったのは、神らしくないその性格が原因だったのではないだろうか。
そうだとすれば、リベラ様は決して薄情でも残酷でもない。寧ろ人間に近い神と言える。何故彼だけは、他の神々と異なるのだろう。
何となく紡いだ問い。リベラ様は珍しく無表情を崩して、困ったような微笑で答えた。
「愛を知ってしまった。それだけの事」
呆然とするマーテルの正面に立つ彼。その小さな背中を見据える瞳には冷淡な色が一切無く、ただ純粋な慈愛だけが籠められていた。
「…何が超越した存在か。愛を理解した途端掌を返す。神も人も大して変わらない」
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