余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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【聖者の薔薇園-開幕】

262.望む結末に

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「む…想定以上に深刻だな」


 ルルの口から紡がれた言葉にぴしゃりと固まる。いつものキザな口調は一体どこへ…と困惑を顕にすると、ルルは真っ黒な瞳を細めて溜め息を吐いた。
 人間味のある仕草をするけれど、どうしてか不思議と感情の類を一切感じない。空っぽの人形が動いているみたいな、人ならざる何かを感じる無表情だ。

 この違和感は一体何なのだろう。怪訝に首を傾げると同時に、マーテルが不意に焦燥混じりの声を上げた。


「なんでお前が…!どうやって神界から…ッ!!」


 神界?きょとんとしながらもう一度ルルをちらりと見つめる。
 よーく見てハッとした。この雰囲気…リベラ様にそっくりだ。真っ黒な瞳も人間味のない無表情も、何よりこの口調も。

 でもどうしてルルからリベラ様の気配が…?
 ぱちくりする僕の元にルルがすたすた歩いてくる。何やら騒がしくしているマーテルは完全スルーだ。


「どうしたものか。これでは奴との繋がりを絶つことが出来ない」

「は…っ、出来ないってどういう事ですか!フェリアル様はどうなるんです!?」


 淡々とした表情を微かに歪めて呟くルル。それにしても本当にリベラ様みたいだ。

 そんなルルに蒼白顔で声を上げるシモンをよしよし宥めようとするけれど、シモンの表情は更に悲痛に歪むばかりでどうしようもなかった。
 マーテルとの心中は覚悟していたから僕は特に悲しくないけれど、僕の無事を信じるシモンは別だろう。最悪の結果を示唆されて表情を絶望で歪ませるシモンを見ると、何も感じないはずなのに胸がきゅーっと締め付けられた。


「……遅過ぎた。これではどうしようもない」


 ルルが僕の胸元をじっと見据えて低く呟く。
 遅すぎた…って、もう少し早ければ何か違う結果もあったのだろうか。そうだとしてもやることは変わらないから、やっぱり後悔なんてものは湧かないけれど。それにしても、どうしてルルはそんなことが分かるのだろう。
 僕の魂が見えるのだろうか。ルルはすごい人だけれど、魂を目視するほどの能力なんて持っていたっけ?ますますリベラ様に似ているルルに疑問が湧く。

 当人なのに呑気な思考を巡らせる僕の横で、シモンが不意に小さく震え始めた。
 どうしたのだろうと視線を移しぎょっとする。シモンの余裕気な表情は一切消え失せて、ルルを睨み付ける瞳には強い怒りが滲んでいた。


「どうしようもないって何ですかっ…元はと言えば貴方たち神の問題でしょう!?神が仕出かした事なのだから同族の貴方達が責任持って何とかして下さいよ!!」


 殆ど叫ぶような声だった。
 シモンにぎゅっと抱き締められる間にも、指先から徐々に体が消えていく。腕の感覚はもうほとんど無くなっていて、気付くと意識もぼやける頻度が増えていた。
 どうやらそれはマーテルも同様らしく、視線を向けてみるとその姿は見るからに弱まっていた。攻撃を仕掛ける力すら残っていないようで、ルルを恨めしそうに睨むばかりで何かしてくる様子は無い。

 ぼーっとする頭でゆらゆらと瞳を動かす。不意にルルの真っ黒な瞳と視線が合った。
 その瞳にはやっぱり人間味が感じられない。けれどシモンが叫んだ直後から、無表情に少なからず色が含まれた気がする。そんな気がするだけだけれど。


「私もそうしたいのは山々なのだが、神界からは追放された身だ。他の神に介入することは出来ない。神界側が動かない限り、どうしようもない」


 もう会話を聞くことすら億劫になってきた。確実に意識が溶けてきている。
 ふと見上げた先に空に広がる光の糸が見えて、その瞬間だけ不意に頭が冴えた。マーテルが言っていた帝国中に魅了を撒く計画を思い出す。


「っ……」

「フェリアル様…?」


 力が少しだけ戻る。透明化が足からじゃなく手からで良かった。足さえあれば、彼の元へ歩くことが出来る。

 ぼやけた頭では思考も鈍る。ルル達が何を揉めているのかは理解が追い付かなくて分からないけれど、それでもまだ確かなことは少なからず残っている。
 マーテルを倒す。倒して、長い物語に結末をつける。その先にマーテルの呪いを残すことだけは許しちゃいけない。

 あの光の巣が完成してしまう前に。
 それだけ考えて、消えかける体にぐっと力を籠めて立ち上がった。

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