291 / 423
【聖者の薔薇園-終幕】
326.もんもん
しおりを挟む不意に目が覚めた。
何だか記憶が曖昧で、頭の中がぽーっとしている。ふらりと起き上がると体に掛けられていた毛布が剥がれて、そこでここが自室のベッドの上であると察した。
ぱちくりとゆっくり瞬きを数回繰り返す。やがて鮮明になっていく意識のまま、視線がシモンを探してきょろきょろと動いた。目が覚めた直後の癖だ。初めの『おはよう』を言う相手はシモンであることが多いから。
けれど、いない。どれだけきょろきょろ見渡しても、夕暮れの日の光が射し込むちょっぴり暗い室内に、シモンの姿は見えなかった。
仕方がないので自分で探すことにして、よいしょよいしょとベッドの中央から端へ。下りようと床を覗き込んだ瞬間、ぶわっと湧き上がった違和感に硬直した。
「う……?」
なんだろう……すっごく、高い。高層ビルの最上階かなと思うくらい、高い。
いつもならひょひょいっと両足を下ろして、すたっと普通に立ち上がる。それなのに、今はそれが出来そうになかった。
恐怖を堪えながら投げ出す両足。ぷらんぷらんと床につくはずの足は、何故かぽてぽてちっちゃくて短くて床までは程遠い。
おまけに心なしか頭が重いし、体もスラッとしているというよりはぽてっとまんまる。ここまで確認してようやく、あれ?なんかちっちゃくない?と全てを悟った。
「し、もん……もん、もん」
声も何だかおかしい。さらさら流暢に言おうにも、何故だか突っかかって舌足らずになってしまう。
もんもんともぐもぐ呟きながら、ベッドの端にしがみついて何とか床へ。着地する時にぽてっとすっとお尻を地面に打ってしまったけれど我慢だ。いたくない、いたくないもの。
んーっ!と力んで立ち上がろうと試行錯誤。どうしても四つん這いからの前屈という体勢から前に進まない。
ぽてぽて足をぷるぷる震わせながら、やがて何とか立ち上がることに成功。両腕を前にぴんと伸ばしたゾンビみたいな姿勢で、よちよちと足を踏み出した。
「もん、もん……し、もんっ」
それにしても、本当にシモンはどこにいるんだ。ケーキを作る為といって消えてから未だ姿を見せない。僕が嫌いになったわけじゃないよねと何だか不安定な情緒のままぶんぶんっと軽く暴れる。
ムーッ!と手当たり次第にぺちぺちぺしぺしして数秒。すぐに謎の怒りが収まったことに安堵して、もう一度よちよち。
ちょっぴり開いていた扉からぽてぽて廊下へ。
シモンが普段使っている厨房は一階だから、まずは階段を下りないと。なんて妙に冷静に考えつつよちよちと進んでいく。
やがて階段が見えてぱぁっと表情を輝かせ、ぽてぽてとことこと小走りで急ぐ。ぬっと覗き込み、何故か一段一段とっても高いような気がしてしゅん……と眉を下げた。
「う、うーっ……もん、もん……」
しばらくその場でよちよちしていたけれど、やがてぬっと決心して踏み出した。
一段目を踏み締めようとしたその瞬間。不意にぐらっと傾いた体と同時に、背後から酷い焦燥に塗れた叫ぶような声がぶわっと届いた。
「フェリアル様ッ!!」
スローモーションの視界。ぐらっと落ちていく感覚がしたけれど、実感が湧かないままぽーっとする。
すると不意に背後からガシッと体を抱き寄せられ、前のめりだったはずの体が後ろ向きにぽすっと倒れた。
ぱちくりしながらぽてっと座り込む体を、背後からぎゅーっと震える腕で抱き締める誰か。
そろりと見上げると、そこには恐怖に滲んだ表情で浅く呼吸を繰り返すシモンの姿があった。
「部屋に戻ったらっ、フェリアル様がいなくなっていて……ッ、どれだけ恐怖したことか……!」
むぎゅーっと強くなる抱擁。シモンが泣きそうな顔で震えるなんて滅多にないことだから、何だかびっくりして……そして、何故かつられて顔を真っ赤にして泣き出してしまった。
「ぅ……うっ、うーっ」
「あっあっ……!ごめんなさいフェリアル様っ、急におっきな声出したからびっくりしちゃいましたねっ……よしよし泣かないで……」
「ぅ、あー……ん、もん、もん……っ」
ほっぺむにむに、頭なでなで。精一杯泣き止まそうと動くシモンのあたふたに涙が止まって、腕の中でぐるりと回転しむぎゅっと正面から抱き着いた。
コアラみたいに隙間なくぴとっと抱き着く僕を、シモンは嫌な顔一つせず寧ろ嬉しそうに抱き締め返す。何故かちゅっちゅっとおでこに口付けられ、なにごと?と思いながらもじっと静止。するとまたもやシモンは嬉しそうににまーっと笑った。
「ぶぅぶぅは終わりですか?もう俺のこと、嫌いじゃないのかな?」
「う……?もん、すき」
「もん?あっ、もんもんって俺のことですか!?」
「もん、もん」
突如ぐふっと呻いて後ろ向きに倒れ込むシモン。鼻血を垂らして安らかな表情を浮かべるシモンに乗り上げ、ぺしっぺしっと攻撃してみる。
へんじがない、ただのしかばねのようだ……。
「おれ…おれ、今日からもんもんです……もんもんでいいです……」
「もん、もん?」
どうやらシモンはもんもんらしい。もんもん、もん、もん。
もんもんっとぺちぺち叩いていると、シモンはやがて大量の鼻血を流して顔面蒼白で意識を失ってしまった。まずい、本当にしかばねになってしまう。
慌ててはわわーっと助けを呼び、誰かが来るまでもんもんをしっかりむぎゅーっと介抱してあげた。
536
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました
無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。
前世持ちだが結局役に立たなかった。
そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。
そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。
目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。
…あれ?
僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。