余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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フェリアル・エーデルス

331.お手紙

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「パパからのお手紙!」


 封から漂う重厚な雰囲気。金の刺繍が施された黒色の封と、赤い蝋は大公家の印。
 手紙の差出人はフレデリック・ヴィアス、パパの名前だ。
 この封の差出人がライネスではなくパパなのはとっても珍しいこと。思わずガタッと立ち上がってわーい!と万歳してしまった。

 ぽやぽやーっと歓喜のぴょんぴょんをすると、棚のホコリを真剣な表情で拭いていたシモンがハッとしたように振り返ってパチパチパチ!と大きな拍手。ニッコニコの笑顔を見て僕までにこにこ。
 ふかふかソファにぽすっと腰掛けてわくわくしながら開封し中の手紙を取り出す。二つ折りの手紙を開いた途端見えた綺麗な文字の羅列にはわっと息を呑んだ。
 普段の俺様っぽい印象とは違い、文字はとっても繊細で滑らか。僕が書く丸っこい字とは大違いのお手本みたいな文字だ。


「うちのちっこい嫁、フェリアルへ……」


 いつまで経っても変わらないパパからの呼び名、ちっこい嫁。せめてそろそろおっきな嫁に変えてほしいその一文から始まった手紙をそわそわと読んでいく。
 手紙の割と序盤辺りで、大公家からの手紙をライネスではなくパパが書いて送った理由が明らかになった。


『ライネスがお前との関わりを渋っている。例の件で照れているらしい。愚息は俺の子のくせに奥手なヘタレだ、きっとこれからも渋り続けるだろう。どうだ?ここは一度、お前からヘタレに会いに来ないか』


 手紙だからかかなり散々なことを言われているライネスを想い苦笑する。
 とは言えこんな言い方だけれど、本心はライネスのことが心配なのだろう。これがパパなりの優しさだということは分かっている。
 きっとこれはライネスのみに対するものじゃなく、僕に向けても言っているのだ。例の件で照れてどうにも彼と関われない、気まずい気持ちになってしまっている僕に向けても。

 パパはそんな僕達を見かねてこの手紙を書いてくれたのだろう。
 本当はまだちょっぴり恥ずかしい気持ちが残っているけれど、こうして背を押してくれる手紙を読んでしまったからにはそうも言ってられない。
 ぐらぐら揺れていた覚悟をピシッと決めて、これは行くしかない!とふんすふんす息巻いた。


「大公からのお手紙、何が書かれていたんです?」


 ふと背後から聞こえた声にビクッ!と肩を揺らしつつ振り返る。シモンが突然死角から現れるのはよくあることだ。すぐに落ち着いて手紙を掲げ、書かれた内容を見せてあげる。


「あぁ、例の件で……なるほどなるほど。確かにもうすぐ北部は祭りの時期ですし、丁度良いかもしれませんね」

「おまつり?」


 ぱちくり。シモンが語った言葉に首を傾げる。
 話によると、どうやら北部では毎年この時期に大きな祭りが行われるらしい。主にヴィアス領の城下町で露店やら何やらが開かれ、別の領地からお忍びで貴族が訪れるほど有名な祭りなのだとか。
 露店は昼から開かれるけれど、この祭りの本番は夜。ヴィアス領の観光地レーベルク大草原からおっきな花火が上がるのだが、これが帝都の祭りに劣らないくらい立派なものなのだとか。


「花火……」


 ぽつりと呟く。思い出すのはライネスと見たあの花火だ。
 祭りだからかいつもより浮足立った感覚と、ふわふわ夢心地みたいな気持ち。いつもよりもっともっと魅力的に見えたライネスの……って、こほんこほんっ。とにかく、あの日の花火はとっても綺麗だった。
 もう一度花火が見られるなんて。それだけでも北部に行く意味は十分ある。どきどき高鳴る胸を抑えつつ、ふむふむと手紙を読んでいたシモンにわくわくとしがみついた。


「シモン!僕、お祭り行きたい!ライネスたちに会いに行く!」


 ぴょんぴょん跳ねながらシモンむぎゅー。
 行きたい行きたい!と騒ぐ僕をふにゃりとゆるゆるの笑顔で抱き締めたシモンが、即答でおっけーと肯定の言葉を口にする。それにやったーと万歳していると、不意に部屋の扉がバンッ!と勢いよく開け放たれた。


「話は聞かせてもらったクマ!クマもお祭りついていくクマ!」

「え、ダメですけど」

「ガーンックマッ!!」


 突如現れたクマくん。そんなクマくんとシモンの即落ち二コマに苦笑した。
 すんとした顔のシモンを見上げ、クマくんはぐぬぬ……と歴戦の猛者みたいに這い寄っていく。どすどす、と床が揺れるくらいの地団駄を踏んで抗議し始めた。


「なんでクマ!つれていけクマ!クマもお祭り行きたいクマ!」

「いや、ダメです。貴方絶対やらかすじゃないですか、色々と。いくつ前科あると思ってるんです?人混みの中でポカやられるのはちょっと」

「ポカなんてしねークマ!」


 うわーんうわーんクマ!と床を転がり回るクマくん。ちょっぴり憐れ。
 部屋の中で泣きわめくおっきな熊さんとそれを冷徹な顔で見下ろすシモン、それを困った様子で見つめる僕。何だかカオスな空気の中、開いた扉からとことこ現れたのはもう一人のもふもふ。
 長い耳をぴくぴくさせながら現れたもふもふは、転がり回るクマくんにぴょーんと飛びついてキックを繰り出した。


「ぶぇックマ!」

「いい加減にしろぴょん。フェリくんを困らせるなぴょん」


 そう言ってクマくんの上でぴょんぴょん跳ねるのはウサくんだ。
 ウサくんはえぐえぐと号泣するクマくんをよしよし撫でて、仕方ないなとばかりに溜め息を吐いた。


「ウサが一緒に遊んでやるぴょん。それで我慢しろぴょん」

「うぅ……クマと一緒に遊んでくれるクマ?」

「仕方ないから遊んでやるって言ってるぴょん。分かったらもう泣くなぴょん」

「うっ、えぐっ、うわーんクマ!流石腹黒ウサギ!そういうところだけは嫌いじゃないクマ!」


 ちょっぴり失礼なクマくんとイケメンウサくん。おっきな体の熊さんがちいさな体の兎さんにいい子いい子される光景はシュールだけれど、何はともあれカオスな状況が解決したようでよかったよかった。
 ほっと息を吐く僕を振り返り、シモンが困ったように微笑んで言った。


「……旦那様に、お出かけの許可を頂きに行きましょうか」

「うむ……」

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