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フェリアル・エーデルス
333.とつげき!
しおりを挟む「ここ、誰のお部屋?」
視線の先にあるのは丸っこくて白が基調になっている、見るからに一級品だと察せる高価な家具で統一された広い部屋。大公城に入って真っ先に案内された場所。
瑠璃色のレースが施された天蓋が特徴的なベッド、脚が肉球になっているアンティーク調の椅子。沢山のふわもこなクッションに、転んでも絶対に怪我をすることが無さそうな厚いもふもふラグ。
正直とっても好みの、わくわくどきどきを誘う雰囲気のこのお部屋。
気になって一体誰の部屋なのか聞いてみると、パパはぱちくり瞬いて当然だろと言わんばかりの声音で答えた。
「……?誰って、お前の部屋に決まってんだろ」
ぽかん。数秒フリーズする。
当然のように頷く大公妃さまと、困惑気味の僕を不思議そうに見下ろすパパ。数歩下がった場所にいるシモンをちらりと一瞥してみるけれど、シモンも特に驚いた様子はない。びっくりというより、何だか呆れたような表情だ。
どうやら状況についていけていないのは僕だけらしい。慌ててパパ達と部屋を交互に見て状況把握。ふむふむ、なるほどわからんでござる。
うーんとえぇっと。つまりきっとこういうことだ。
この部屋は元々大公家の誰かのものだったけれど、今は使われていない空き部屋。僕が訪れた時にちょうどこの部屋が空いていたから、滞在する間はここを使ってねーという感じ。つまり客室、ということだろう。
客室にしては豪華すぎる事実からは華麗に目を逸らし、僕ってば賢いふんすふんすと胸を張る。
なんて。そんな一時の現実逃避は長くは続かなかった。パパが一瞬でその考えを両断してしまったのだ。
「内装はお前をイメージして慎重に作った。気に入らなければ遠慮なく言え、すぐ直してやる」
ぐっと親指を立てて得意気に口角を上げるパパ。満足そうなところ申し訳ないけれど、またもや状況の把握から置いていかれてしまった僕をどうか待ってほしい。
「ど、どうして、僕のお部屋……?」
「ん?どうして?どうしてだとよ、アグネス。フェリアルの奴、変なこと聞いてくるぞ」
「そうね。フェリちゃんったら、随分おかしなことを聞くのね。城にフェリちゃんのお部屋を作るのは当然のことなのに」
不思議ねぇなんてほわほわ語り合う仲良し夫婦。その流れでサラッと世間話を始めているところ申し訳ないけれど、どうしての質問に答えてくれないだろうか。
割と本気で困惑している僕をよそに、結局質問は脳内から流れてしまったのか答えず世間話に花を咲かせる二人。諦めてとことこ近寄り、マイペースな二人の話をじっと聞いてみる。
どうやら僕に出すお菓子について語り合ってくれているらしい。けれど何やら雲行きが怪しい。
マカロンかケーキかどちらを出すかで軽く口論を繰り広げるパパと大公妃をあわあわ仲裁。お願いだから僕のおやつが原因で夫婦喧嘩なんてしないで……。
「僕、飴あるよ。みんなで飴たべて落ち着こう?飴おいしいよ」
くーるだうん、くーるだうん。カバンから飴を取り出し二人にひょひょいっと配る。
マカロンもケーキも美味しいけれど、ちょっぴり衝動的になってしまった時は飴が一番。なめなめしている間にクールダウンが出来るからだ。
案の定飴を舐め始めた二人の顔から徐々に剣呑さが消えていき、最後には二人で言い過ぎたごめんねの仲直りタイム。よきよき。
それにしても、ラブラブしたかと思えば喧嘩をして、そうだと思えばラブラブして。何だか忙しない夫婦だなぁと二人を見上げる。いわゆるけんかっぷる、というやつだろうか。
何にせよ喧嘩をしていても仲の良さが常に隠し切れていないから安心。パパと大公妃さまにはずっと仲良しでいてほしい。喧嘩するほど何とやら、と言うから大丈夫だろうけれど。
「……とても美味しい飴ね。フェリちゃんがくれるからかしら、どんな飴細工よりも美味に感じるわ」
無表情を緩めた大公妃さまにありがとうとお礼を言われそわそわ。僕が渡すものだから美味しく感じる、なんて。とっても嬉しい言葉を与えられて胸がぽかぽか温まった。
大公妃さまはパッと見だと冷たい氷のような女性だけれど、実際は大好きなホットミルクみたいに優しくて温かい人だ。掛ける言葉にも相手を包み込むような温もりがある。
えへへと頬を緩ませながらどういたしましてともじもじ返す。すると突如微かに悶絶しだした二人にわしわしと頭を撫でられあわわっとなった。まるで猫を可愛がる時みたいな悶絶具合だ。
「取り敢えず少し休め。ここまで長旅だったから疲れたろ。この部屋のモンは好きに使っていいからな」
「はぇっ……?」
「あ、ちなみに隣はライネスの部屋だぞ。将来のことを考えて隣にしといた。気が利くだろ」
本当に僕の部屋なんだ、と。パパがサラッと告げる言葉でようやく実感が湧いてきた。
確かに遠い北部への移動はちょっぴり疲れたなぁ……なんて考えながら部屋を見渡し、それと同時にパパが呟いた不意の言葉にぴしゃっと固まる。得意気に笑っているところ申し訳ないけれど、どういうことだってばよ。
いや、まてよ……隣の部屋にライネスがいるとな……?
「ぱ、ぱぱ……大公妃さま……」
「ゆっくり休みなさいフェリちゃん。お腹が空いたら近くの使用人に声を掛けるのよ。好きなもの何でも言いなさい、何でも作らせてあげるから」
まってまって、近くにライネスがいる状況でどこかに行ってしまわないで。そんなことを思いながら眉を下げて伸ばした手は虚しく宙を切った。
それよりも何だかパパに似てきた大公妃さまの言葉に圧倒されて、おおっと後退る。流石大公妃さま、パパの奥さんって感じだ……。
ぽつんと立ち尽くす僕を交互によしよし撫でた二人がじゃあのと去っていくのをじっと見送る。
今日はちょうどお祭りの日。夕方になったらお祭りへ行く準備の為にまた二人に会えるらしいから、それまで道中の疲労回復のために大人しく休んでいよう。
姿が見えなくなるまで二人を見送り、静寂が広がった空間の中ぽそりとシモンの名を紡ぐ。すぐにさささっと傍についたシモンを振り返り、隣の部屋を指さしながらコソコソ尋ねた。
「シモン。中に、ライネスいる?」
「えぇ。先程から此方の会話に聞き耳を立てる気配がひしひしと」
き、ききみみ!?と目をぐるぐるさせる。どうしようどうしようとその場をちょこまか動き回り、これから何をすべきかと必死に考える。
聞き耳を立てていたということは、ライネスは少なくとも僕の様子を窺っているということ。この状況でそんなライネスを置いてぐっすり休むことは出来ない。それなら、どうする?
当然、すべきことは決まっておろう。ででんっ。
「突撃する……!」
題して、突撃!隣のライネス大作戦。
その名の通り隣のライネスの部屋に突撃する大作戦だ。作戦でも何でもないという批判は受け付けないのである。まる。
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