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フェリアル・エーデルス
334.パパのお誘い
しおりを挟む「こんこん。たのもー!」
ライネスの部屋の扉をこんこんノック。
堂々とたのもーして背筋を伸ばすと、数秒の間の後に部屋の中からガタッと物音が聞こえた。何かを落としたような、もしくは何かがぶつかったような鈍い音だ。
その物音だけで室内に閉じこもっている人物の焦燥具合が窺える。大丈夫かなとそわそわしていると、やがて静かになった扉の向こう側から小さく声が聞こえてきた。
ボソボソとしたそれに慌てて耳を澄ます。扉に耳をつけて息を殺すと、いつもよりも自信なさげなか細い声が聞こえてぱちくりした。
「……フェリ……本当に来てくれたんだね……」
何だか声が掠れているような……それに気が付いてぴくりと瞬く。ただ気まずいからという理由だけではない、明らかに体調を崩したその声音にあわあわと焦燥が湧いた。
「ライネス!具合悪いの……?とっても辛そう」
「心配してくれてありがとう……私は平気だよ、ちょっと執務に熱中し過ぎてしまっただけだから」
つまり、仕事に熱中しすぎて疲労が溜まり、体調を崩してしまったと。つまりそういうことなのだなふむふむと瞬時に察しあわあわ。
なんてこった。直前にシャルルのとんでもないお顔を見たばかりなのであせあせしてしまう。ライネスも今、シャルルみたいなおっきな隈が綺麗な顔に出来上がっているのだろうか。心配だ。
そんなに忙しかったなんて知らなかった。何も知らずにドキドキしていた自分が恥ずかしくなり、心の中でぺしっと自分の頭を叩いて反省する。
体調を崩しているのならきちんと休ませてあげないと。そう思いカバンから飴を三つほど取り出し、ライネスの部屋の扉の前へちょこんと置いた。
どうやら顔を見せたくないようだから、無理に扉を開けてと言うのは辞めたほうがいいだろう。静かに飴を置いて立ち上がり、最後に一言だけそっと伝えておく。
「邪魔してごめんなさい。ライネス、飴おいたから食べてね。僕、行くからね、ここ離れるからね」
ぴゅーんと立ち去るので心配しないでねと言外に伝え、シモンを連れてそそくさその場を離れる。
駆け出した数秒後に背後で扉をゆっくり開く音が聞こえたけれど、気付かないフリをして振り返ることなく曲がり角に飛び込んでささっと身を隠した。
ライネスからも死角になったところでしゃがみこみ、息切れを「ふぃーっ」と整える。背中をよしよし撫でてくれたシモンにありがととお礼を言い、切り替えてぴょんと立ち上がった。
立ち上がったところで、不意に「あっ」と大事なことを思い出して硬直した。
「どうしよ……お部屋で休んでなさいって言われたのに……」
「ライネス様に離れるって言っちゃいましたねぇ」
「……いっちゃった」
パパと大公妃さまとの会話を思い出し顔面蒼白。しまった、ほんの数分前に別れたばかりだというのにもう約束を破ってしまった。
正確に言えば約束というほどのことはしていないけれど、それでも部屋で待っていてと言われたのに直ぐに部屋を出るのは何と言うか……なんというか、ちょっぴりアレだ。
すぐに戻るべき?でも、戻ったら絶対にライネスに気付かれてしまうに違いない。
今戻ったらライネスを、あれれ?ここ離れるって言ってなかったっけ?と困惑させてしまうこと間違いなし。今からとたたーっと何事もなかったかのように部屋へ戻ることは出来ない。
それならどうすべきか……。ぐぬぬと考え込んでいると、ふと大きな影が上から覆い被さりハッと顔を上げた。
「やっぱ出てきたか。大人しくしてられねぇとは思ってたが……にしても早かったな」
「むっ、パパ……!?」
さっき別れたはずのパパが何故か目の前に。
びっくり仰天しながら硬直すると、パパは仕方なさそうに笑ってくしゃくしゃと僕の頭を撫でた。
「お前、忙しない奴だからな。休んでろっつっても絶対聞かねぇと思った。探険か?また迷っても知らねぇぞ」
「なっ……!今日は違う!不可抗力!」
「おっ、難しい言葉知ってんなぁ。偉いぞフェリアル、賢い賢い」
「むぅ……」
どうやら僕が大公城を訪れると毎回探険を始めることから、パパは今回もどうせそうなのだろうとここで待ち伏せしていたらしい。何でもお見通しみたいでちょっぴり悔しい……。
でもでも、今回は違う。探険のために抜け出したわけじゃない。今回はライネスが……と紡ごうとした言い訳はパパの呆れたような笑みに一蹴されてしまった。
「分かった分かった。ったくそんなに大人しくしてんのが嫌なら遠慮しねぇで言えよな。別に閉じ込めるつもり無いんだからよ、今は」
今は……?と少し引っかかったけれど、そんな場合じゃないと慌てて頭ふるふる。今はそんなことよりも弁解が先だ。
なんて言えば納得してもらえるかな……なんてぐるぐる考え込んでいると、ふと黙り込んだパパに今度は触れるか触れないかの淡い力で頭をよしよし撫でられた。きょとんと首を傾げて見上げると、そこにはさっきとは打って変わって困ったように微笑むパパのお顔が。
「……ライネスに気ぃ遣ってんだろ。気にすることねぇのに、まぁお前は優しいから気にするなは無理か」
目を丸くしてぴたっと止まる。よく考えたら、とっても敏いパパが僕の行動の理由に気付かないはずがなかった。当然察しているに決まってるよねと気付いてしゅんと力が抜ける。
途端に黙り込む僕をじっと見下ろすと、パパは不意に僕をひょひょいっと抱き上げた。
「むっ……!?」
「そろそろ城の探険も飽きただろ。折角だから街にでも行ってみるか?祭りの直前で騒々しいかもしれんが」
ふとパパが語ったその提案にぽかんと瞬く。
ハッとして言葉の意味を聞くより先に、パパが問答無用でスタスタ歩き出してしまった。
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