余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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フェリアル・エーデルス

338.あやしい人

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 ちーんする男性を淡々と起こして連行していく軍服の騎士達。一体何処からこの数の騎士が現れたのか……呆然としている間に男性の仲間たちも続々と連行されていき、喚く声と共に全員がその場から去っていってしまった。
 いや、正確には初めに『捕らえろ』と指示した男性ともう一人、合わせて二人の騎士を残して全員が、だけれど。


「ローズ!トラード!」


 騎士に連行される男性達を無表情で見据える見慣れた美人さん。
 ライラックの髪が靡く彼の方に駆け寄ると、それを受け止めるように目を細めた彼がよしよしと頭を撫でてくれた。初めの頃にぎこちないものとは変わり、大分よしよしが手慣れていることに気付いて何だか感慨深い気持ちになる。
 あれから子供たちとの交流が深まって、人との関わりも増えたのかなぁなんて推測ができるから。

 片腕を相変わらずだらんと垂れ下げた彼と、その斜め後ろに立っていた眼帯の彼。一緒に柔く口角を緩めた彼らが声を上げた。


「……少し背が伸びたか、フェリアル」

「フェリちゃんおひさ!」


 再会早々嬉しいことを言ってくれるローズにむぎゅむぎゅ抱き着き、にっこり笑顔を浮かべるトラードと軽くハイタッチ。うむうむ、二人とも変わった様子が無くて何より。


「二人とも、どうしてここにいるの?」


 むぎゅむぎゅから名残惜しく離れながら問い掛ける。きょとんと首を傾げる僕の頭をまたまたローズがよしよしと撫でた。なんだろう……この撫で方、子供を撫でる時のものというより犬猫を可愛がる時のアレに似ている……ローズからパパと同じ人種の匂いがする……すんすん。


「……祭りの警護に回された。ついでに北部での任務を遂行しに来た」

「さっきの奴ら、最近俺らが追ってた人攫いだったんだよ。金持ってそうな人間を攫って身代金稼いだり、奴隷商に売ったり色々やっちゃってる奴らでさ」


 ローズの淡々とした簡潔な説明にサラッと補足するトラード。この流れも何だか久々に感じて、懐かしさに目元を緩めながらなるほどなるほどと頷いた。
 頷いて、はっとした。いまなんと……さっきの人たちが、人攫い?お金を持っていそうな人をさらって、お金を稼ぐ悪い人たち……?

 がくがくぶるぶる。途端にぷるぷる震え始める僕をひょひょいっと抱き上げたシモンが冷静に会話を続けた。


「公爵家のご令息であり皇太子殿下の親友であり魔塔の信仰対象であり大公家の嫁であり神の愛し子でもあるフェリアル様を狙った大罪人ですので、くれぐれも極刑でお願いしますね」

「……、……あぁ。任せろ」

「なんか、改めて文字に起こして分かったけど本当すっげぇ肩書き持ってんのなフェリちゃん」


 よく噛まずにいえるね、なんて現実逃避した考えしか浮かばない僕を抱き上げてふんすとお怒りの様子を見せるシモン。さっきはとても冷静に見えたけれど、実際はかなり激おこだったみたい。

 怖かったですねぇよーしよしとむぎゅむぎゅしてくるシモンの顔に両手ぺしっ。小さな子供を宥めるような態度にちょっぴりムッとしてしまった。ぜ、ぜんぜん怖くなんてなかったよ、よよ……?
 ぬんっと腕の中から抜け出して地面に着地。そういえば二人にお礼を伝えていなかったな、と思い出してスタスタ駆け寄り頭を下げた。


「さっきは助けてくれてありがとう」

「……仕事だ。気にするな」

「そーそ。フェリちゃんみたいな可愛い子供たちが安心して歩けるような街にするのが治安部隊の仕事だからねーって、ローズが言ってるよ」


 今の、ローズの言葉の補足だったのか……とちょっぴり驚き。あの短い言葉にそれほど感動的な意味が含まれていたなんて。
 こくこくと無言で頷くローズの反応を見る限り、どうやらトラードの補足は間違いではないらしい。すごい、トラードはローズ専門の通訳みたいだ。


「……それはそうと、フェリアル。さっきからお前を監視しているアレは捕らえなくても良いのか」

「うん?」


 僕を監視しているあれとは何ぞや?とローズの指さす先を追って振り返る。
 お店の角に身を隠してそーっとこちらの様子を窺う一人の男性。ローブを着込んでフードを被ったその人は明らかに周囲から浮いている。そしてローズの言う通り、僕の方をじっと監視しているように見えた。

 びっくりして硬直。僕が気付いたことを彼も察したのか、慌てた様子で周囲をきょろきょろ。知らないふりしてスンと空を見上げる彼に何だか気が抜けた。少なくとも危ない人ではないようだ。
 シモンにそっと視線を送ると、すぐに僕の指示を悟ったのか頷いてスタスタと彼の元へ。ぽんぽんと肩を叩かれた彼がびっくりしたように振り返り、シモンと何やら一言二言交わした後に諦めた様子でとぼとぼこっちに歩いてきた。


「……えぇっと、どちらさま……」


 どちらさまですか。その言葉は途中でぱたりと途絶えた。フードを取って顕になった彼の正体に息を呑んだからだ。
 艶々の黒髪に不安に揺れる金色の瞳。お守りを持つように飴をひとつ握り締めた彼にぱちくり瞬いてぽかんとしてしまった。


「ラ、ライネス?」

「……やぁフェリ……良い天気だね、ははっ……」


 苦笑を浮かべたライネスが気まずそうにそう語った直後、晴天だった空からぽつりぽつりと小雨が降り出した。

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