302 / 423
フェリアル・エーデルス
337.はぷにんぐ
しおりを挟む結局、手袋とマフラーと帽子をそれぞれ十個ずつ購入したところでようやくお店を出ることが出来た。
コートは冬が本格的に近付いてから!という僕の説得で渋々その通りに。成長期だからね、冬になる前にうんとおっきくなるかもしれないからね。うんうん。
店員さんたちとシモンの満足気な笑顔とは裏腹に、僕の顔はげっそり疲れ切った感じの表情。お買い物は楽しいけれど、流石に何十個も買うとなると疲労の方が勝ってしまう。
とは言え目的のもこもこ手袋はゲットできた。お店を出てすぐにわくわくしながら手袋をしてみると、冷たい風が完全に防がれてぽかぽかに。うーむよきよき。
もこもこ手袋のおかげか疲労は意外とすぐに回復して、るんるん気分で街を散策。
お祭り直前でうきうきムードの街をシモンを連れて歩いていると、ふと正面から如何にも柄の悪そうな男の人たちが進んできた。それぞれ細い片手剣や大きな両手剣を持っているから、冒険者か何かだろうか。
何だか嫌な空気を感じながらも気にせず進むと、不意に集団の一人と視線が合った。
「……!」
気の所為だろうか。目が合った男性は僕を見ると一瞬目を見開いて、次の瞬間獲物を見つけたように瞳を輝かせて口角を上げたような気がした。
やっぱり踵を返して道を変えるべきだろうか……そう思った時にはもう遅かった。
剣を持った集団が賑やかに笑い合いながら横を通り過ぎた……と同時に、突然大きくよろめいた男性の一人が僕の方に倒れ込んできたのだ。
「うおッと!」
わざとらしい声を上げながらよろめいたのは、ついさっき目が合ったあの男性。
突然の出来事にビクッと硬直するしか出来ない。そんな僕の正面にスッと移動したシモンが、無言で男性を受け止めて直ぐにグッと押しのけた。
「っ、シモン……!」
シモンも彼から感じる嫌な予感に気が付いていたのだろうか。僕の方に男性が倒れ込んだ時も驚いた様子ひとつ見せず、淡々と受け止めたように見えたけれど。
何はともあれ、とにかく今はシモンの心配が最優先だ。
まさか直前で邪魔が入るとは思わなかったのか、男性は受け身を取ることも出来ず勢いよくシモンに倒れ込んだ。そのせいでドンッと鈍い音が鳴ったけれど、シモンは突然ぶつかられて大丈夫だろうか。
慌てて駆け寄りシモンの手をそっと掴む。眉を下げて上目で問うと、シモンはにこやかに頷いた。
「シモン、大丈夫……?」
「大丈夫ですよフェリアル様。そんなことより、フェリアル様は大丈夫ですか?お怪我はしていませんか?」
そんなことって……とは思っけれど口を噤む。シモンはきっと僕が頷くまで僕の無事を確認し続けるだろうから。
そうだと分かっているから、少し不満げな顔をしながらもこくりと頷く。よかったと呟きほっとしたように息を吐いたシモンを見て、なんだか胸がきゅっとなった。
「おいおい、お貴族様は謝罪も出来ねぇってか!?」
早く行こう、と言おうとした時にふと響いた怒声。
あまりに突然その大声が響いたものだからびっくりして、思わずビクッと肩を揺らしてシモンに抱き着く。シモンはさっと僕を背後に隠して、叫び声を上げた男性にスッと視線を向けた。
案の定、またもや騒ぎを起こしたのは例の目が合った男性。シモンに押しのけられたことが気に入らないのか、瞳が血走ってとっても怒っている様子だ。
謝罪……謝罪?ぶつかってきたのは彼の方だし、そもそも明らかにわざと倒れ込んできたはず。どうして男性がこんなに怒っているのかと、困惑しながらシモンの服をきゅっと握る。
「……謝罪とは?貴方が勝手に倒れただけでしょう。危うく此方の主に怪我を負わせるところでもあった。謝罪をしろと言うのならそれは此方のセリフです」
僕の心中を代弁するように冷静に語るシモン。それに小さく頷きながら様子を窺っていると、男性は怒りで顔を真っ赤にしながら唾を飛ばすように叫んだ。
「あぁ!?そっちのガキがクソチビの所為で見えなかったんだよ!避けてやろうとして倒れたんだっつの!そのチビの所為だろうが!」
「むっ!ちびじゃないもん!」
聞き捨てならない言葉が聞こえて思わずぷんすか前に出る。
のしのしと地団駄を踏んでぷくっと頬を膨らませると、まさか僕が言い返してくると思わなかったのか男性がびっくりした様子で呆然と黙り込んだ。
びっくりしただろうそうだろう。僕はちびという言葉には敏感なのだ。なぜならちびじゃないから。おっきなお兄さんだから。ぷんすかぷんすか。
一度言い返すと何だか勇気が湧いて、さっきはびくびくして言えなかったことも一緒に口に出てしまう。くわっと叫んだ言葉にその場に居る全員が息を呑んだ。
「シモンに謝って!ぶつかったのはお兄さんでしょ!シモンにごめんなさいして!」
頬を紅潮させて「フェリアル様……!」と感極まった様子で呟くシモンはスルーだ。今はちょっぴり恥ずかしいからシモンの方を見れない。
ぷくぷくしながら男性の謝罪を待つと、やがて返ってきたのはさっきよりも更に真っ赤っかになった怒りの形相。ぷっちんさせてしまった、そう気付いた時には遅かった。
「ッこのチビ……ッ!!」
だからちびじゃないもん、と反論する間は無かった。
男性が思い切り振り上げた拳がスローモーションで視界に映った瞬間、シモンが表情を強張らせて前に出た。
シモンが殴られてしまう。それを察して慌てて止めようと飛び出した瞬間、ふと視界から男性が消えた。
文字通り、消えたのだ。ドカッ!と鈍い音が鳴った直後、瞬きの後に男性はいなくなっていた。
「む……?」
ぎょっと動きを止めるシモン。無事なシモンの様子にほっとしつつきょろきょろすると、少し離れた場所にちーんと倒れる男性の姿が。
なにごと、とぱちくりきょとん。時間が止まったような静寂の後、それを打ち破るように冷静な声が淡々と聞こえた。
「……捕らえろ」
459
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました!
えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。
※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです!
※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
キュートなモブ令息に転生したボク。可愛さと前世の知識で悪役令息なお義兄さまを守りますっ!
をち。「もう我慢なんて」書籍発売中
BL
これは、あざと可愛い悪役令息の義弟VS.あざと主人公のおはなし。
ボクの名前は、クリストファー。
突然だけど、ボクには前世の記憶がある。
ジルベスターお義兄さまと初めて会ったとき、そのご尊顔を見て
「あああ!《《この人》》、知ってるう!悪役令息っ!」
と思い出したのだ。
あ、この人ゲームの悪役じゃん、って。
そう、俺が今いるこの世界は、ゲームの中の世界だったの!
そして、ボクは悪役令息ジルベスターの義弟に転生していたのだ!
しかも、モブ。
繰り返します。ボクはモブ!!「完全なるモブ」なのだ!
ゲームの中のボクには、モブすぎて名前もキャラデザもなかった。
どおりで今まで毎日自分の顔をみてもなんにも思い出さなかったわけだ!
ちなみに、ジルベスターお義兄さまは悪役ながら非常に人気があった。
その理由の第一は、ビジュアル!
夜空に輝く月みたいにキラキラした銀髪。夜の闇を思わせる深い紺碧の瞳。
涼やかに切れ上がった眦はサイコーにクール!!
イケメンではなく美形!ビューティフル!ワンダフォー!
ありとあらゆる美辞麗句を並び立てたくなるくらいに美しい姿かたちなのだ!
当然ながらボクもそのビジュアルにノックアウトされた。
ネップリももちろんコンプリートしたし、アクスタももちろん手に入れた!
そんなボクの推しジルベスターは、その無表情のせいで「人を馬鹿にしている」「心がない」「冷酷」といわれ、悪役令息と呼ばれていた。
でもボクにはわかっていた。全部誤解なんだって。
ジルベスターは優しい人なんだって。
あの無表情の下には確かに温かなものが隠れてるはずなの!
なのに誰もそれを理解しようとしなかった。
そして最後に断罪されてしまうのだ!あのピンク頭に惑わされたあんぽんたんたちのせいで!!
ジルベスターが断罪されたときには悔し涙にぬれた。
なんとかジルベスターを救おうとすべてのルートを試し、ゲームをやり込みまくった。
でも何をしてもジルベスターは断罪された。
ボクはこの世界で大声で叫ぶ。
ボクのお義兄様はカッコよくて優しい最高のお義兄様なんだからっ!
ゲームの世界ならいざしらず、このボクがついてるからには断罪なんてさせないっ!
最高に可愛いハイスぺモブ令息に転生したボクは、可愛さと前世の知識を武器にお義兄さまを守りますっ!
⭐︎⭐︎⭐︎
ご拝読頂きありがとうございます!
コメント、エール、いいねお待ちしております♡
「もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!」書籍発売中!
連載続いておりますので、そちらもぜひ♡
悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました
水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。
原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。
「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」
破滅フラグを回避するため、俺は決意した。
主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。
しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。
「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」
いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!?
全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ!
小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。