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フェリアル・エーデルス
339.てるてる坊主
しおりを挟むライネスと再会してすぐに振り出した小雨。それは僅か数秒で土砂降りの大雨に変わった。状況の理解が遅れる中、外に出ていた住民達が慌てた様子で屋内に駆け込むのを呆然と見つめる。
我に返ったのはライネスにひょいっと抱き上げられ軒下に移動した直後。その数秒の間にずぶ濡れになった全身を見下ろして、みんなでどんより肩を落とした。
「……最悪だ。今朝洗ったばかりの服が濡れた」
「また洗ってやるからそう拗ねんな。それより、もしかして公子サマは雨男か何かなのか?」
「私が雨男なら今頃北部は雪に埋もれて水没しているよ」
「フェリアル様を濡らしてしまうなんて、俺としたことがッ……!」
ハンカチやらローブの裾やらで髪や顔を拭き、ぶつぶつと各々呟く様子をぼーっと見つめる。
ライネスにはふわふわハンカチで顔を拭われ、シモンには髪をわしゃわしゃと拭かれる贅沢なひと時。なんだか至れり尽くせりで申し訳ない。
地面にそっと下ろされ、この短時間で出来上がった小さく浅い水溜まりに足をぺしゃぺしゃ。揺れる水面をじーっと眺め、次にキラキラ瞳を輝かせて空を見上げた。
そうだ。雨が降ったということは、止んだ後はあれが現れるということ。
「きれいな虹、見られるかな」
「気になる所そこなんだ……」
「虹にわくわくしちゃうフェリアル様きゃわわっ」
「こういう時に大人のネガティブと子供のポジティブが正直に現れるよね」
「……トラード、大人の夢も希望も潰すような発言をするのは控えろ」
雨雲がもくもくする空を見上げてそわそわ体を揺らす。はやく晴れないかなー虹さんまだかなー。
「こりゃ今夜の祭りは中止かもなぁ……」
「最悪開催されるとしても、このまま雨が降り続いたらメインの花火は間違い無く中止になるだろうね」
ふとトラードとライネスが語った何気ない呟きにぴしゃっと硬直。い、い、いまなんと……?
北部に来た一番の理由はパパ達に会うためだけれど、僕はこっそりお祭りも楽しみにしていた。特にメインイベントの花火!ライネスと一緒に見たいと思っていたのに、このままじゃ中止になるなんて……。
せっかくもう一度ライネスと花火が見られるとわくわくしていたのに……しょぼぼん。
がっくし肩を落とす僕にすぐさま気が付いたらしいシモン。慌てた様子でトラードとライネスの呟きを遮り、僕の隣によっこらせとしゃがみこむ。にこっと優しい笑顔を浮かべたシモンが言った。
「フェリアル様。城に戻ったらてるてる坊主、作りましょうか。てるてる坊主を代理人にして、神様に晴れて下さいーってお願いするんです。フェリアル様のお願いならきっと神様も応えてくれますよ」
「説得力ありすぎだろ」
「確かにフェリの願い事なら神も叶えてくれるだろうね」
「……花火の心配は必要無さそうだな」
てるてる坊主!その手があったか!と両手ぱちん。流石シモン、賢い。
つくるつくるっとぴょんぴょん跳ねる僕にへにゃあと頬を緩めると、シモンは不意に立ち上がりトラードの元へ。胸ポケットから小切手らしきものを一枚取り出すと、それをトラードに渡しにこっと微笑んだ。
「それじゃあ、小さめの布とリボンをいくつか買ってきて頂けますか?」
「あぁうん……うん!?それじゃあとは!?」
びっくり顔のトラード。そりゃそうである。
キラキラ笑顔のシモンに一瞬流されてしまった様子だけれど、すぐに持ち直してクワッと目を見開いたトラードに苦笑した。ついにトラードものらりくらりシモンの餌食に……なむなむ。
シモンはきょとんと首を傾げておめめぱちくり。トラードが「いやびっくりなのは俺の方だが!?」と更に困惑した様子を見せる。そりゃそうである。
「え、まてまて。君が買いに行けばいいだけの話なんじゃ……」
「え?俺はフェリアル様のお傍を離れられないので無理ですけど」
「ですけどとは!?あっ、じゃあアレ!君のとこ侍従もう一人いたっしょ!?そいつに頼めば良くね!?」
「駄犬のことを言っているなら、それも無理ですね。あの馬鹿は今謹慎処分を受けてるので」
「えぇ……何したのあのワンちゃん……」
突然のダメージを与えられるグリード。
そういえば僕を赤ちゃんにしてしまった件で罰を背負わされているんだったっけ。きゅーんと頼りない鳴き声を上げるわんちゃんを想像してちょっぴりそわそわしてしまった。だめだめ、これは罰なんだから。
目の前を落ちる雫を見つめながらぷるぷると首を振る。隣に立っていたライネスが不意に僕のケープのフードを引き上げて頭をちょこんと隠した。そうだ、フードがあるから被ればよかったんだ。
「……フェリアルのてるてる坊主の為なら仕方ない。トラード、侍従の代理で買ってきてやれ」
「お前フェリちゃんに超甘くない!?前からそんなだったっけ!?」
ローズのとどめもあり、トラードはやがて諦めた様子でトホホ……と小切手片手に走っていった。なんだかごめんなさいだ、申し訳ない。
トラードが戻ってきたら飴をたくさんあげよう、と決意して不意に水溜まりを見下ろす。さっきからぺちゃんぺちゃんと揺れていた水面をじーっと見つめて、またもやあることを思い付いてしまった。
ふと浮かんだ発想にわくわくしながらフードを目深に下げて出来る限り顔を隠す。ケープを中からふわっとさせるように両手を広げ、ぱたぱたと飛び跳ねた。
「……?フェリアル様?そのきゃわわすぎる踊りは一体何ですか?」
鼻血をたらーっと垂らしながら聞いてくるシモン。もう鼻血に慣れ過ぎたからなのか分からないけれど、あまりに冷静すぎてちょっぴりびっくりだ。
シモンの鼻血が悪化しないうちに話してしまおう、と少し照れ照れしながらちっちゃく答えた。
「てるてる坊主してるの。ゼウス様とリベラ様に、晴れてくださいってお願いしてるんだよ」
ほっぺたを赤くしながら言った瞬間、シモンが鼻血に塗れながらも安らかな表情を浮かべてちーんとご臨終してしまった。
「あ、シモンが死んだ」
「……穏やかな死に顔だ」
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