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フェリアル・エーデルス
340.おかしな侍従と大公子
しおりを挟む「……お前ら、何だその恰好は」
「貴方達。取り敢えず雨の匂いを落として暖まって来なさい」
雨から逃れるように大公城へ戻ってすぐ。こうなることを予期していたかのように玄関ロビーで仁王立ちしていた呆れ顔のパパと、それに付き添うように立っていた無表情の大公妃さま。
びっくりしながらも『どうしてここに?』なんて聞く余裕すら無かったので、大人しく二人の言葉にこくりと頷く。ライネスと一緒にとぼとぼその場を離れるついでに、シモンも主に鼻血で濡れていたので一緒に連れて行くことに。とぼとぼ。
横目で見た窓には雨の痕跡がしっかり残されていて、さっきまで降っていた土砂降りの雨の存在を強く感じた。
てるてる坊主の舞をぱたぱた踊ってしばらく経ち……なんとその間、奇跡的なことに雨の勢いがいきなり弱まってきたのだ。
あんなにどんより厚かった雨雲もどこかへ行ってしまい、天気雨のような現状。それに加えてちょっぴりわくわく楽しみしていた虹が二重で出来上がっている。レアイベント大量発生中だ。
不思議なこともあるものだなぁと思いながら廊下を進んでいると、ライネスがふと僕の視線を追って微笑んだ。
「よかったね。神様がフェリのお願いを聞き届けてくれたみたいだ」
「これはサービスしすぎな気もしますけどねぇ」
「あの舞を見せられたら何でもしてあげたくもなるよ」
それは確かに、と何やら納得した様子のシモンと頷くライネス。きょとんと瞬いて会話を聞き流し、そういえばと不意に思い出したことを口にした。
「ローズとトラードは大丈夫かな」
「二人なら、一応声は掛けてみたけど……これから警備だからサボれないって断られたよ」
「サボってそうな見た目してるのに意外と真面目ですよねぇ」
さっきから何だかふわふわしているシモンをコラッと窘める。
確かにトラードはチャラチャラした見た目だからそう思っちゃうのも無理はないかもしれないけれど……でもでも!ローズは結構真面目そうだよ。着崩しているトラードと違って軍服もキチッと着込んでいるし。
何はともあれ今日は二人にたくさんお世話になった。ありがとうだけじゃ終われないから……とシモンを見上げる。
「シモン。今度、二人にお礼のプレゼントしに行くよ。とくにトラード」
トラードには随分迷惑をかけてしまった……と反省の溜め息。シモンがキラキラ笑顔で「了解です!」と返事をするのを見て苦笑した。
そんな他愛無い話をしながら向かった先は大公城の浴場。それぞれの部屋の浴槽にお湯を張るには時間が掛かり過ぎるから、常にお湯が張った広い浴場の方を使えとパパに指示されたのだ。
脱衣所に入ってすぐにきょろきょろ辺りを見渡し、初めに目に入った籠を引っ張り出して椅子に置く。躊躇なく服を脱ぎ始めると、なぜかライネスとシモンがあわあわ瞳を揺らしだした。
「フェッ、フェリアル様!?も、もうちょっと恥じらいとか、そのぉ……」
「仮にもそういう行為をした相手に躊躇なく裸を晒すのは如何なものかというか、その……」
もごもごと聞き取りにくい声で何やら呟く二人。なになに?と首を傾げると二人は頬を染めてこちらに背を向け「……なんでもないです」とか細く答えた。
それにきょとんとしながらも気にせずぬぎぬぎ。すっぽんぽんになって二人に近付き、まだ上着すら脱ごうとしない二人をちょんちょんと突く。
すると二人が驚いたように振り返り、僕の姿を視界に入れるとまたもや頬を赤く染めてぶんっと顔を逸らした。
「僕、もう脱いだよ。二人は脱がないの?」
来ないなら一人で入っちゃうよ、と言うと途端にあわあわ慌て出す二人。僕が一人で湯浴みをするのはどうしても駄目らしい。
子供じゃないから転んで怪我をしたりなんかしないし、ましてや湯舟の中でぐーすかすぴーしてゴボゴボ溺れるなんてこともないのに。心配症だなぁと思いながらも二人が服を脱ぐのを待つ。
すっぽんぽんで仁王立ちして待っていると、不意にシモンが脱ぎかけた上着を丁寧に着直してそそくさと扉へ。どこにいくの?と問うと仮面にも見えるにっこり笑顔を浮かべて答えた。
「いえ。よく考えたら俺侍従なので。緊急事態で直ぐに動けるように、俺はやっぱり外で待機しておきます」
どこか含みのある笑顔に首を傾げる。いつも通りのシモンのはずなのに、一瞬だけ何だか妙な雰囲気を感じたような。気のせいだろうか。
普段なら僕の湯浴みには絶対についてくるはずなのに。公爵家での湯浴みじゃないから躊躇っているのかな、それともライネスがいるから遠慮している?
ともかく、シモンがそういうのなら仕方ない。それじゃあライネスと二人で行こうかなと思い振り返ってぎょっとした。
ライネスが焦ったような表情を浮かべ、シモンの裾を掴んで引き留めていたのだ。
「っ……いや、私が出るよ。フェリもシモンが居ないと不安だろうし。ね?フェリ」
「うん?僕はライネスと二人でも……」
大丈夫だよ?と紡ごうとしてハッと口を噤む。散々鈍いと言われる僕でも、ライネスの笑顔から突き刺さる硬い空気は察することが出来る。これは大丈夫だと言っちゃいけないところなんだ。
むぐっとお口チャックして数秒。沈黙の後、初めに声を上げたのはこの中で一番冷静な表情をしているシモンだった。
「流石に公子を追い出すのは此方の無礼になるので。それに……」
スッとライネスの耳元に口を寄せて何かを呟いたシモン。内緒話みたいにヒソヒソ話すってことは、僕には知られたくないことなのかな。なんだかさみしい……。
しょぼんと待つこと数秒。シモンが口を閉ざしたと同時にハッと目を見開いたライネスが、息を吞んでシモンに視線を向けた。
「シモン、君は……──」
ライネスの言葉が最後まで紡がれるのを待つことなく、シモンがさっさと扉に向かう。ちらりと振り返ったシモンに、何やら意味深なジェスチャーで『がんばれー』と伝えられて首を傾げた。ただの湯浴みなのに、一体なにを頑張るというのか。
「それじゃあ何かあったら呼んでくださいねっ!」
さらば!と手を振って廊下に消えるシモン。やっぱりいつもと何かが違う気がする……もんもん。
とは言えずっとこうして突っ立っているわけにもいかないので、呆然と扉を見つめているライネスの手をきゅっと握ってちょちょいっと引っ張る。
「ライネス。すっぽんぽんだから風邪引いちゃう。早く行こう」
「えっ!?あ、そうだね。フェリすっぽんぽんだったね」
早くあったまろうね、とあわあわ服を脱ぎ始めるライネスをぱちくり一瞥し、とたたーっと浴場に向かった。
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