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フェリアル・エーデルス
341.らいねすのらいねす
しおりを挟む「フェリ、走っちゃダメだからね。転んじゃうからね?」
「分かってるよ。大丈夫だよ」
とたたーっと浴場に向かった僕に追い付いたライネス。両肩をそっと掴んで、何やら心配そうな表情で念押ししてくるライネスにこくこく頷く。それくらい分かっているのに、心配性だなぁ。
やっぱりライネスは僕のことを小さな子供だと思っている?ちょっぴり悲しいけれど……でも、ライネスくらいの大人のお兄さんからしたら、僕はいつまで経っても子供なのかもしれない。ライネスと同い年のシモンにも、毎日のように小さな子供扱いされているし。
僕はライネスにとって、ずーっと小さな子供でしかない……改めて思うと、なんだかあれだ。なぜだか、ちょっぴり寂しい。でも、僕はもう大人だからって、目を向けられなくなるのもなんだか、悲しいんだよなぁ。
矛盾する気持ちに首を傾げる。はて、結局僕はライネスにどう見られたいのだろう。謎だ。
「おいでフェリ。背中洗ってあげる」
「……!うん、ありがとう」
僕もライネスの背中ごしごしするよ。そう言ってライネスの正面に背を向けてぴしっと立つと、鏡に写った彼がふふっと柔らかく笑った。
ぴしゃーっと降ってくるお湯。きゅっと目を瞑ったり何なりして何とか体と髪をごしごし洗い、手の届かない背中だけ残ったところで椅子にすたっと座らされた。
小さめのタオルで顔だけ柔く拭われ、瞑っていた目を開けられるように。こういう些細なことに一早く気が付いてフォローするところが、ライネスのとっても良いところで好きなところだ。
「ちょっとだけ触るよ。擽ったかったら遠慮なく言ってね」
こくこくっと頷いてちょっぴり俯く。ライネスが背後にいることが痛いほど分かるこの状況、反響していつもより鮮明に聞こえるライネスの声。なんだかそわそわして、鏡が見れない。
そわそわする僕には気付いていない様子で、ライネスは手際よく背中を洗っていく。肩やら背中の筋やら見逃しやすいところは大きな手で丁寧に撫でられるから、そういう時だけちょっぴり体を強張らせた。
怖いとかそういう理由じゃなく、何かを耐えるためだ。何を耐えているのかは自分でもわからない。
「フェリは小さいから、洗う場所が少なくてすぐに終わっちゃうね」
「……ん」
耳元で響くライネスの声。かぁっと赤くなる耳朶に気が付いてゆらゆらっと頭を軽く振り、髪を一束流して赤いそこを隠した。
返答の言葉を紡ぐことすら難しい。油断すれば上擦ってしまいそうな声を出すのが恥ずかしくて、返事とも言えない声を一文字だけ発して黙り込んだ。
「よし、それじゃあ流すよ。気になるところとかは無い?」
「……ない。だいじょぶ」
じゃーっとお湯によって流されていくあわあわ。全て流れ終えたところでぶんっと勢いよく立ち上がると、ライネスが慌てた様子で「転んじゃうよ!」と声を上げた。
走っているわけじゃないのだから転ぶはずない。とにかくこの状況から一刻も早く抜け出したい。その思いでだいじょぶだいじょぶと笑って一歩踏み出す。
あわあわを流したばかりだから、いま床はとっても滑りやすくなっている。それに気が付いたのはズルッと足を滑らせた後だった。
「はわっ!」
ずるっすってんころりーん!とはならなかった。
床に体を打ち付ける前に、ふわっと力強い何かにぎゅうっと包まれる。ぐるぐる回る目ん玉が、ほっぺをむにゅっと伸ばされたことによってくるっと戻ってきた。
「フェリ?転ぶから気を付けてって、何度も注意したよね?」
「っご、ごめんなひゃい……」
むにゅーむにゅむにゅと伸ばされ揉まれるふくふくほっぺ。あわわーっと涙目になりながらごめんなさいをすると、ライネスは長い溜め息を吐いて仕方なさそうに微笑んだ。
「怒ってるわけじゃないからね、それは分かるよね?」
「うん……心配、してくれた」
「そう。フェリに何かあったらって、考えただけでそわそわして気が遠くなりそうなんだ。私の為にも、きちんと注意して自分の体を大事にしてほしいな?」
「ん……うん。ごめんなさい。ありがと」
ライネスがそわそわしちゃうならダメだ。しっかり注意して、怪我をしないようにしないと。
恥ずかしいだとか、そんなこと思っている場合じゃなかったのに。しょぼんと反省してライネスにぎゅーと抱き着く。いっそ気にならないくらいぎゅっぎゅして、照れ照れを誤魔化す作戦だ。
むぎゅむぎゅと肩に顔を埋めてくっつくこと数秒。ふとライネスの体がピシャッと硬直したことにきょとんと首を傾げた。
「……?ライネス?どうしたの?」
「ぅ、あ、いやっ……ううん、ちょっと離れようか、フェリ……」
突然体を離されそうになり、びっくりしてむぎゅっと抱き着いた。どうして急に離れようなんて言うのだろう。
そんなことを言われたら逆に意地になってしまうのが人の性というもの。ぎゅーぎゅー抱き着いてコアラみたいに足も腕も絡めると、頭上からライネスの「うッ」と呻く声が聞こえてハッとした。
ぷるぷる、そんなに強くぎゅーしすぎたかなぷるぷる。
「ライネス、だいじょうぶ……うん?」
「っ……」
顔を覗き込もうとした時。ふとお腹の辺りに感じた違和感にぱちくり瞬く。真っ赤な耳だけを晒してそっぽを向くライネスにきょとんとしながら見下ろすと、そこにはとんでもない光景が広がっていた。
「はわ、わぁ……」
ライネスのライネスが天井を仰いで……いや、これ以上はなにも言わないでおこう。あわわ、あわあわそわそわ。
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