320 / 423
フェリアル・エーデルス
355.存在価値(ライネスside)
しおりを挟むフェリをベッドに寝かせるシモンを背後から眺める。
二人はいつもこうして眠る前の時間を共有しているのだろうか。赤の他人であれば殺してしまいたい程の殺意が湧くその想像も、フェリの相手がシモンだと考えれば特に不満は湧かなかった。
シモンとフェリは最早、一心同体の存在と言える。関係がどうの立場がどうのと言える間柄ではないのは、他人の私であっても見ていれば分かる。
絶対的な絆で結ばれた二人。そんな二人の形に変化を生んでしまったのは、間違いなく私だ。
初めから最後まで不変であるはずの二人は、私が介入したことで変化を余儀なくされてしまった。
「……大公からのお叱りが無くて良かったです」
「え……あ……そうだね」
小さな声でぐずるフェリを優しく寝かし付けるシモン。手慣れた様子に穏やかな感情を抱く。
そうだ。少し帰りが遅くなってしまったが、父上に大して咎められなくて良かった。大方フェリの首元にあったキスマークに気が付いたのだろう、射殺すような威圧的な視線はかなり危機を感じたが……。
フェリが眠っていたお陰で見逃されただけで、きっと明日は逃れられないだろう。父上のあの嬉しそうな、だが恨ましそうな複雑な感情が入り混じんだ瞳が脳裏から離れない。八つ当たりされなければいいが。
微かに苦笑する。それと同時に、フェリの寝かしつけが終わったらしいシモンが振り返った。
「……すみません。少し、話せますか」
想定内の言葉。勿論躊躇なく頷いて、シモンと共に部屋を出た。
* * *
訪れたのは大公城の庭園。と言っても、あまり奥まで行くと迷ってしまいそうなくらい広いので入り口から程近い場所に。
城内はまだ可能性があるが、こんな時間に庭園を歩く使用人はまずいない。話をするならこの場所が一番良いはずだ。だが少し風が気になるか……北部の者以外にはこの風は少し辛いかもしれない。
魔法で暖かい風を起こす。一定の狭い範囲内に吹かせ続けるくらいならあまり魔力を消耗しない。起こした風をシモンが立つ辺りに配置すると、緑の瞳が軽く見開かれた。
「わ、凄いですね。突然暖かくなりました。ありがとうございます」
不思議そうに手を伸ばして私の風と自然の風の境界線に触れるシモン。何と言うべきか、こういう時のシモンはフェリに良く似ている。従者は主に似るとよく言うが、その類なのだろうか。
「フェリアル様なら、きっと瞳を輝かせてこの風に触れていたでしょうね」
こういう時でも考えるのはフェリのことだけか。少し苦笑する。まぁ全く意外ではないが。
時々、シモンの頭の中身を見てみたくなる。大方予想はつくが、一体どんな構造をしているのかと。やっぱり九割がフェリ関連のことで埋まっているのだろうか。いや、十割か。
シモンは深い所では分かりにくい。一見フェリ至上主義の分かりやすい人間に見えるが、実際は誰よりも分かりにくい。本音の読めない人物だ。
特に、感情が分からない。この世界に対して、神に対して、多くの知人に対して、私に対して……そして、フェリに対して。シモンの感情は、全てが良い所で上手く隠され曖昧になっている。
願望も不確実だ。欲しいものや、望む未来。シモンの考えは本当に、考えれば考える程分からなくなる。
「あ、そうでした。すみません、お祝いの言葉がまだでしたね」
風に触れていたシモンがふと振り返る。柔く浮かんだ微笑みに邪気は無い。心からの笑みに見えるが、実際はどうだろうか。
「無事にフェリアル様と結ばれたんですね。おめでとうございます」
祝いの言葉には心からの安堵と喜びが籠っている。それに少しだけ驚いた。
少しくらいは嫉妬の色だとかが宿ると思っていたのに。そして私は、それを覚悟していたというのに。まさかこんなにも手放しで喜ばれるなんて。いや、これも想定内だが、何となく想定外でもある。
「……あぁ、ありがとう」
君のお陰だよ。そういう類の言葉を口にしようとして辞めた。何となく、その言葉は今この場に向いていないような気がしたから。
短い返答にもシモンは淡く微笑むだけ。その表情を見て、焦燥にも似た何かが湧き上がる。シモンの言葉を待つのではなく、私から何かを伝えなければならないのではないか。不意にそう思った。
「シモンは、その……」
伝える言葉が決まらないままに声を上げる。それさえ既に察しているのか、シモンは静かに凪いだ瞳で黙り込んだ。
その冷静な表情に少し焦燥が紛れる。落ち着いた頭で考えて、その思考を言葉にした。
「……シモンは、これで良かったと本当に思ってる?」
思い返すのは、想いを交わした時のフェリの真っ赤な表情。照れたような、けれどどこか幸せそうな。私はこれ以上ない幸福だと思ったが、シモンはどうだろうか。
フェリの幸福な結末を誰より願うシモンは、今日の出来事に満足しているのだろうか。納得出来ているのだろうか。
少し俯かせた視界ではシモンの表情は見られない。数秒の沈黙の後、案の定感情の読めないシモンの声が返ってきた。
「えぇ。良かったと思いますよ。フェリアル様はこれで、どんな台本にも無かった新たな人生を歩むことが出来る」
どんな台本にも無い新たな人生。この先何が起こるか一切分からない、不確かな人生。
未来も結末も、その時の当人にしか決められない。誰も干渉出来ない。そんな新たな人生を、フェリはこれから歩むことになる。それがシモンの望んだフェリの幸福。
「これで、俺の存在価値も殆ど無くなってしまいましたね」
ふとシモンが語った言葉。それに驚いて息を呑み、慌てて顔を上げる。
視界に映ったシモンの寂し気な表情が忽ち脳裏に焼き付いた。
505
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました
無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。
前世持ちだが結局役に立たなかった。
そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。
そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。
目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。
…あれ?
僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。