余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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フェリアル・エーデルス

356.わがまま(シモンside)

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「おばかっ!!」


 目を見開く公子を静かに見据えて黙り込む。その直後、突如庭園に響いた声にハッと息を呑んだ。
 公子も同様に肩を揺らして振り返る。どうやら彼も、突然現れた気配には気付いていなかったらしい。
 視線の先を追う。トピアリーの裏から飛び出してきた小さな影、目を凝らしてその正体を悟った。


「フェリアル様……?」


 ベッドに入った時と同じ格好の薄着で息切れを整える姿。寒さのせいか真っ赤になったふくふくのほっぺを見て、途端に心配と焦燥が湧き上がる。何を言わずとも察したのか、公子が俺に掛けていた温風の魔法をフェリアル様にも起こした。

 いつもなら不思議そうに風に触れるであろうフェリアル様。だが今はそれよりも別の何かに意識が引っ張られているのか、そもそも温風に気付いてすらいないようだ。
 涙目で唇をへの字に結んだフェリアル様が駆け出す。公子を探していたのか……?と浮かんだ思考はすぐに打ち消された。
 小さな体が真っ直ぐこちらへ向かってきて、やがてとすっと胸に軽く衝撃が走ったのだ。


「なっ……」

「おばかっ!ばかばかっ!シモンのばかっ!」


 飛び込んできた小さな体を反射的に受け止める。ぎゅっと抱き締めると、フェリアル様は囲われた中でぽかっぽかっと俺の胸を叩き始めた。
 痛みを感じさせないよう、無意識に力を緩めているのだろう。叩くというより当てると言ったほうが正しい力加減に思わず頬が緩む。手加減なんてしなくても、フェリアル様の攻撃は本気の力でも痛みなんて感じないというのに。

 鼻を啜る音。涙の滲んだ瞳を擦る小さな手。ふくふくの頬に伝う雫に、小さな体で必死に俺に縋りつくその姿。全て。全てが愛おしい。


「ばかぁ……っ」


 縋る手から力が抜ける。ずるっと崩れ落ちるように地面に座り込んだフェリアル様を慌てて支えて、俺も同様に地面に膝をついた。


「フェリ、どうして……」


 気付くと公子もすぐ傍に来ていた。フェリアル様の背中に手を添えて、ぐすぐすと愛らしく泣く様子を見下ろし眉を下げる。彼もかなり動揺しているようだ。
 無理もない。俺も同じく少し困惑している。ついさっき眠りについたはずのフェリアル様が、眠気には基本逆らえないはずのフェリアル様が、自らの足で俺達を追いかけてきたのだから。

 どうして。公子の言葉にフェリアル様が反応する。ぐすっと嗚咽を零すと、か細い声でへにゃりと沈みながら答えた。


「……ねんねんころりが……元気、なかったから……」


 ピタッと固まる俺と公子。ねんねんころりが……なんだって?
 涙を流したせいか普段よりも更にふっくらしてしまったほっぺ。それをもごもごとぷるぷるさせながら、フェリアル様は拗ねた子供のように呟いた。


「ねんねんころり……いつもはもっと、元気で、優しいの。でも、さっきはちょっぴり悲しそうだった……ねんねんころりーって、悲しそうだった……だから、変だなって、おめめぱっちりした」


 いや、違う。分かっている。今はシリアスな場面だ。もっとシリアスにしゅんと肩を落とすべき。分かっているのだ。分かっているのだが……おい、可愛すぎるだろ。おめめ?ねんねんころり?
 可愛すぎる。ねんねんころり、ねんねんころりーって言ったのか?おい!可愛すぎるだろ!


「追いかけたの。シモン、おかしかったから。ライネスに話があるって、言ってたから……お話、こっそり聞いてたの」


 二人も居て尾行に気が付かなかったなんて、どれだけ油断していたのかと自分に呆れる。
 大公城の敷地内だからと気が緩んでいたのか、それとも別の感情やら何やらに気が逸れていたのか。どちらにせよフェリアル様の侍従としてあるまじき油断だ。反省しなければ。

 それにしても、まさかフェリアル様が俺の異変に即座に気が付いていたとは。
 昔から鈍感なのに重要なところでは感情の変化に機敏になる。そんなフェリアル様の察しの良さが発揮されたのだろうか。だとすれば、さっきの状況はフェリアル様にとって『重要な場面』だったということ。俺の異変が、フェリアル様にとっては重要な……。


「そしたら、そしたらっ……シモンが、あんなこと言うから、いうからぁ……っ!」


 ぽたぽたと大粒の涙を次から次へと零すフェリアル様。ふっくらした頬を両手で包んで拭っても一向に涙は止まらない。寧ろ手のひらから溢れてばかりで、地面にほんの小さな水溜まりが出来そうな勢いだ。

 あまりに直球な泣き顔と涙が見るだけでも辛くて、苦しくて、胸がきゅっと締め付けられる。
 つられるように瞳を滲ませた俺を見上げ、フェリアル様はくしゃっとした表情で語った。


「……シモンがすること、全部正しいっ……だから、間違ってるのは僕なの……わかってるの。でも、でもねっ……ごめんね、シモン。ごめんね……っ」


 縋り付くようにぎゅうっと抱き着いてくるフェリアル様を抱き締め返す。頭を下げて謝罪を繰り返すフェリアル様に心が痛んで、慌てて頬を包んで顔を上げさせた。
 きっと今、ここまでフェリアル様を悲しませているのは俺だ。泣かせているのは俺だ。だとすれば、こうして頭を下げて謝らなければならないのは俺の方なのに。

 呆然とする俺を見上げて、フェリアル様は自嘲気味にふにゃりと微笑んだ。


「僕は悪い子だから……シモンが僕から離れたいって思ってても、うんって言えないの……間違ったこと思っちゃうの」


 俺がフェリアル様から離れたいと思っている……?
 まさかの言葉に言葉を失う。一体どうしてそんな有り得ない事を考えたのかと、そう問う前にフェリアル様が弱々しく呟いた。



「シモンと離れたくない……ずっと一緒にいてほしいって、わがまま思っちゃうの……」


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