余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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フェリアル・エーデルス

369.お迎え(後半雅side)

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「にゃあ」


 にゃんこを拾う想定外やパパたちのむふふな空気がありながらも、何とか帰りの準備を終えた時。
 僕と城の人たちが交わす別れの雰囲気をにゃんこながらに察したのか、さっきからユウマの様子がそわそわしておかしい。
 足元に擦り寄って離れないし、僕が歩く度急いでとてとてと着いてくる。何かの拍子に踏んづけてはいけないから、途中でよっこらせと抱き上げた。ちっこいから踏んでしまいそうになる……。


「ユウマ。ユウマはちっちゃいから、あんまりそわそわしてると気付かれずに踏まれちゃうよ」

「にゃあ」

「大丈夫だよ。ほんとにお別れするわけじゃないもの。またきちんと会えるんだよ?」


 肩にちょこんと置かれた肉球がかわいい。ちっちゃな鼻を懸命に擦り付ける姿が可愛くて可愛くて、思わずふすふすともふもふに顔を埋めてしまった。
 ぬぅ……うりうりすんすんするシモンの気持ちが何となくわかった気がする……。


「そうだよユウマ。何ならフェリはうちの子になるから、いつかはこの城に住むことになるんだ。そうしたらずーっと一緒だよ」

「にゃあっ」

「まぁ何にせよ、ユウマの飼い主が万が一現れたら意味がなくなってしまうんだけれど……その場合の為にも、フェリとはたくさん遊んでおかないとね」

「にゃあ……」


 ぺたん、と垂れ下がる耳がとっても儚げ。
 ライネスがよしよしと柔く撫でても全く抵抗する様子が無い。もう大分人に慣れたみたいだ。

 ライネスの言う通り、まだユウマに飼い主が居ないという確証は無い。
 ただ飼い主に何らかの事情があって、この子にご飯を食べさせてあげられなかっただけという可能性も充分あるのだ。
 それでもユウマが空腹なのはいけないことだから、何の対策もせずに「はいどうぞ」と返すわけにはいかないけれど……。


「ユウマ。ユウマのご主人様はどんな人?」

「にゃあっ」

「ぬーん……僕じゃなくてだね……むぅ」


 ご主人さまの話をしてみて、反応が良ければ優しい飼い主の可能性が浮かぶかもと思ったけれど……。
 どうしたものか、どうやらユウマは既に僕のことを飼い主だと思ってしまっているらしい。この淡白さは飼い主に異常があるのか、それとも単ににゃんこが薄情なだけなのか。

 ちょっぴり苦笑するライネスを横目にスタスタ歩いていると、不意に廊下の向こうからシモンとシャルルが慌ただしげに走ってきた。なにごと?


「二人が鬼ごっこしてる」

「うーん……鬼ごっこにしては横並びに走ってるねぇ」


 サラッとしたツッコミを聞きつつ待つこと数秒。ドタドタとやって来た二人が同時に息切れを直してバッ!と顔を上げた。仲良しだねきみたち。


「フェリアル様!ディラン様とガイゼル様が正門に……!」

「……なぬっ!?」


 シモンの第一声にしーんと数秒沈黙し、やがて遅れて襲ってきた衝撃を顕にびっくり仰天。
 どういうこっちゃと慌てる僕に、息切れを完全に治したシモンがかくかくしかじかと説明してくれた。


「実は、帰りが遅いとついさっき伝書鳩が届きまして……返信を送ろうした時にお二人に気付いて……何と言うかその、来ちゃった的な」

「来ちゃった的な……!?」


 そんな軽い感じで言うことではないのよ、とあわあわ。困り眉でピシャーッと硬直。どうしようどうしようと慌てていると、不意に肩にぽんと手を置かれてハッと我に返った。


「落ち着いてフェリ。準備はもう出来ているから、一緒に二人の所へ行こう。シャルル、父上と母上を呼んできて。呉々も空気を壊さないようにね」

「了解です!……ん?空気ってなんすか?」


 ライネスに優しく背を押され平静を取り戻し、とたとたーっと玄関へ向かうことに。
 シャルルが何やら難題を課されていたけれど、今は忙しいのでスルーだ。がんばれシャルル。パパと大公妃さまの間に入ってお呼びしてくるのだ。




 * * *




「ん?んんー?あれれー。こりゃあ大変だー」

「どうかしたのか、ネムよ」


 最近のマイブーム、水晶でフェリアルの動向を見物していたネムがふと声を上げた。
 典型的な神らしい淡白なネムにしては珍しく、フェリアルへの執着は未だに薄くならない様子。
 ネムでもこうなのだから、孤独に耐え切れず手を伸ばしたリベラやマーテルの心中は如何程だったか。今となっては考えるだけ無駄なのだが。


「みやびさまー、こりゃあ大変だよー。ゼウス様を呼ばなくて大丈夫かなー」

「む?何だ、一体何の騒ぎなのだ」


 ゆったりとした口調ながらも、これまた珍しく焦りを顕にするネム。これは普通では無いと察し水晶に近付くと、ネムがそれに映った何かを指さしてとんでもないことを口にした。


「この猫からマーテルの気配を感じるよー。魂は完全に消滅させたって、言ってなかったっけー」


 マーテルの気配だと?有り得ぬ、奴の魂が完全に消滅する瞬間は我もこの目で確かに見届けた。
 魂が消滅したからには、当然転生というのも有り得ない。消滅した魂は永久に形を成す事が無いのだから。奴の気配など、感じることなど絶対に……。


「……マーテルの気配がする」

「でしょでしょー」


 水晶に映し出された一人の少年と一匹の猫。
 相も変わらず愛らしい笑顔のフェリアルと、フェリアルに抱かれる小さな子猫。痩せ細った姿は痛々しく、あの優しい子なら確実に手を述べるであろうということが鮮明に窺える。

 そんな子猫から感じる懐かしい気配。だがこれは魂の気配と言うよりは、もっと別の力による気配だ。


「魔力だ。下界に残っていた奴の魔力の粒子が集い、執念によって仮初の姿に具現化したのだ」

「んー?ぼく、難しいことわかんないー」


 つまりだな、とぐーすかネムをデコピンして起こす。つまらないからと直ぐに寝ようとする癖を何とかせんか。


「この猫はマーテルの魔力の集合体。つまり魂ではない故に、奴の意思は篭っておらず危険は無い」


 理論的に言ってしまえば、何ら問題は無い。
 なぜなら魔力とは至る所に漂っているもので、この猫もその一つと言ってしまえば特段珍しいことでも無いからだ。

 もはや空気の一部と言って差し支えない程、魔力の身近さは一般的なもの。
 とは言え同種の魔力が執念によって集い具現化することなど普通は有り得ないのだが……危険が無いことは確か故何とも言えぬ。


「それじゃあこの猫は、せーかくにはマーテルってわけじゃないってことー?」

「うむ。そういう事になる」


 ほえーと気の抜けた声を上げるネムに眉を下げる。本当に話を聞いておるのかこのぐーすか神は……。


「なーんだ。じゃーただの猫でしかないねー。心配して損しちゃったー」

「心配したのか?」

「そりゃーするよー。フェリアルになにかあったら悲しいものー」


 あのネムが心配とは。長く生きてみるものだなと神ながらにふと思う。
 ぽん、と頭を撫でてやると直ぐに眠たげに目を細めるネム。枕をぎゅっと抱き締めたネムが呟いた一言が、やけに胸に重く沈んだ。


「それにしても、ほーんとすごい執着心だよねー」


 意思がないはずの魔力だけが残っても尚、奴のフェリアルへの執着心は決して消えない。
 死んでも尚厄介、とは奴の為の言葉ではなかろうか。そんなことを思いながら、一応の報告の為その場を後にする。


「特に問題は無いと思うが、一応リベラ達にも伝えておこう」

「いってらっしゃいみやびさまー」


 お前は来ないのか、と苦々しく頬が緩んだ。いつものことだが。
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