余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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フェリアル・エーデルス

370.きすまーく

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 荷物は全てシモンの影の中。軽い身でとたとたーっと走って正門へ向かうと、そこには見覚えのある馬車が停まっていた。
 城の門番らしき騎士達と向き合い、何やら言い争っているらしい二つの人影。煌めく金髪を確認して声を上げた。


「ディランにいさまっ、ガイゼルにいさまっ!」


 僕の声に反応して振り返る金髪の二人と門番の騎士達。とたたーっと駆け寄る僕の姿を視認するなり、騎士達と言い争っていた二つの人影が物凄い速度で走り出した。
 それを慌てて門番たちが追おうとするけれど、二人の俊敏さには敵わないようで追い付くことが出来ない様子だ。


「フェリ……!」

「チビ!」


 初めに僕の元に辿り着いた人影の一人……ガイゼル兄様がひょひょいっと僕を抱き上げる。少し遅れてやってきたディラン兄様も、無表情を淡く緩めて背中からむぎゅーっと僕を抱き締めた。
 両側から抱き締められてまるでサンドイッチみたいだ、むぎゅーっ。


「フェリ、大丈夫か?貞操は無事か?公子に何か酷い事はされていないか?」


 後ろからディラン兄様にうりうりすんすん。すーはーすーはーと匂いを嗅いでいる様子にきょとんと首を傾げた。何かおかしな匂いでもするのかな、くんくん。
 すんすんするディラン兄様を横目に、僕を抱き締めてほっと一息つくガイゼル兄様。首元に顔を埋めたかと思うと、数秒も経たずに何やらバッ!と顔を上げた。なにごと。

 様子のおかしいガイゼル兄様に、ディラン兄様も直ぐに気が付いたらしい。けれど、訝し気に「ガイゼル?」と呼ぶディラン兄様にガイゼル兄様が返事をする様子はない。どうしたのだろう。


「おいチビ……何でこんなモン付けてんだ?あ?」


 黙り込んでいたガイゼル兄様が不意に呟く。ギロッと首元を睨み付けられビクッと肩を揺らした。ななっ、一体なにごとでござるか。
 ビクビク震える僕をぎゅっとしながらディラン兄様も僕の首元を覗き込み、何やらピタッと停止。柔らかい無表情が徐々に色を無くした冷酷な無表情に切り替わる様子にまたがくがくぶるぶる。
 何かいけないことでもしちゃったのかなそわそわ……と瞳を揺らす僕を見上げ、ディラン兄様が重低音の怖い声でふと呟いた。


「……フェリ。一体誰が無垢なフェリに印なんてものを付けたんだ?」

「しるし……?」


 しるしとはなんぞや……?と涙目でぷるぷる震えて首を傾げる。兄様達が一体何に怒っているのかわからない……どうしようしょぼぼん。
 僕が困惑しているのを察したのか、ガイゼル兄様がわなわな震えて顔を真っ赤に強く声を上げた。この場合は照れているんじゃなくて、怒りで真っ赤になっているだけだ。お顔が般若みたいでとっても怖い。


「キスマークだよキスマーク!誰だこんなモンお前に付けた輩は!?」

「……きす、まーく?」


 屈強なガイゼル兄様の口から飛び出したメルヘンな言葉にピタッと硬直。
 きすまーく、きすまーく……キスマーク?遅れて言葉の意味を察し、ゆっくりと手を持ち上げて首を擦った。触れてもよく分からないけれど、この辺りにキスマークがついている、だと……。


「きすまーくって、ちゅーのやつ?」


 グハッと突然呻いて悶え苦しむ兄様達。何やら「不意打ちッ……!」と遺言みたいに呟いてばたんきゅー。その隙に腕の中からすっぽり抜け出し、シモンやライネスの傍へとたとた逃亡する。
 何だか気まずそうに顔を逸らすライネスと、それをジトッとした目つきで見つめるシモン。どうしたのかなとぱちくりしながら、首を指さして二人にもわくわくっと教えてあげた。


「みてみて。僕の首、きすまーくついてるの。ちゅーのやつだよ。ちゅってすると赤くなるの」

「フェリアル様。あまり可愛い説明をすると死人が増えるので、ちょっぴりお口チャックしましょうか」


 にこやかに語るシモンにぱちぱち瞬いて素直にこくりと頷く。シモンがそう言うならそうしよう。
 周囲をきょろきょろ。うーむ、確かに何故か周りの人たちがみんなばたんきゅーしている。門番さんたちはグハッと膝をついているし、シモンはニコニコと余裕気な表情だけれど鼻血が垂れている。うーん、シモンはいつものことか。


「……何だこの屍の山は。奇襲か?」


 シモンの鼻血をハンカチでふきふきしている最中、不意に聞こえた声にハッと顔を上げる。
 最近よく見る呆れ顔をまたまた浮かべたパパが、蹲る騎士達と兄様たちを見下ろして淡々と呟いた。何だかもう動揺も困惑も感じられない。この状況にも慣れ切った様子だ。


「またフェリアルが死人を出したのか。今度は何しやがったんだ。ハグか?キスか?」

「パパ。パパあのね、僕の首にきすまーくついてるの。ちゅってするとね、赤くなるんだよ」

「そうかなるほどな。状況は大体理解した」


 とたとた近寄るとすぐにひょいっと抱き上げられ、パパに首元を覗き込まれた。


「ふぅん。ヘタレのくせにこういう事はちゃっかり済ませてんだな。口は動かねぇのに手は出ちまうってか」

「……本当、貴方にそっくりね」


 愉快気に笑うパパと小さく呟く大公妃さま。扇子で口元を覆った大公妃さまのお顔が何だかさっきより紅潮しているように見える。気のせいかな。


「で?最後までヤったのか?」

「まだしてません!フェリの前でそういう事言わないで下さい……!」

「さいごまで……?」


 パパがニマニマと口角を上げて揶揄うようにライネスに問い掛ける。最後までとは……?と首を傾げたけれど、ライネスにぎゅっと耳を塞がれてパパの説明を聞くことは出来なかった。

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