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フェリアル・エーデルス
371.げきおこ兄さま
しおりを挟む「つーかお前ら門番の役割分かってんのか。普通に通してどうすんだ」
しばらくライネスを揶揄い続けたパパだけれど、やがて飽きたのか不意に思い出したのか、呆れ顔を今度は門番の騎士たちに向けて呟いた。
ずっと安全地帯でにこにこしていた騎士たち、突然のピンポイント攻撃にあたふた。おっきな声の「すんませんッ!」が庭園に響き渡った。よく通る声じゃのう。
「止めたんですが、ですがその……お二人がとても強くてですね……」
「この俺に言い訳を聞かせるつもりか」
「滅相もございませんッ!全て我々の責任でございますッ!」
ございますっと相方の言葉を繰り返す騎士。同じ役割を担っているだけあって仲良しみたいだ。ほほえましい。
うむうむと眺めるだけでは二人がちょっぴり可哀想だったので助け舟を出すことに。
実際、本気を出した兄様たちを止めるなんて余っ程の実力者じゃないと不可能だ。彼らの言い分は言い訳と断言するほどでもない。
「パパ、パパ。門番さんたちを無視して入ってきちゃった兄様たちにも責任はあるよ。あんまり怒らないであげて」
背後から聞こえる「フェリ……!?」やら「おいチビ!?」という困惑の声を華麗にスルー。兄様たちもしっかり反省するのよ、ぷんすか。
眉を下げて言う僕を見下ろし、パパがぎゅっと抱き上げる腕を強める。わしゃわしゃと頭を撫でられ優しい声を掛けられた。
「怒ってねぇよ。お前の兄貴達の制止に苦労するのは分かる。ただ、仕事を全う出来なかった責任は少なからずあるだろ?これが敵なら相当な戦犯だったしな」
「む……うん……」
尤もな返答にぐうの音も出ず頷く。
兄様たちのやらかしのお陰で、騎士たちが本来無かったはずの責任を負うのは何だか申し訳ない。けれど、パパの言葉は正論だ。全く否定出来ない。
それなら、とその言い分を受け入れて振り返り兄様たちに視線を向ける。むぅっと眉を寄せてぴしゃっとお説教をひとつ。
「ディラン兄様、ガイゼル兄様。騎士さんたちにごめんなさいして。迷惑かけたら、ごめんなさいしないといけないんだよ」
僕の言葉にまたもやピシッと硬直する二人。ぐぬぬといったように眉を顰める二人だけれど、僕がムッと唇をへの字にすると慌てた様子で謝罪を口にした。
「……申し訳ない」
「悪かったよ!」
しょぼぼんツーンと謝るディラン兄様と、顔を真っ赤にして謝るガイゼル兄様。ガイゼル兄様に関しては怒っているのか照れているのかちょっぴり分かりづらい。
流石に貴族に頭を下げられたら困惑してしまうのか、騎士たちがあわあわと慌てた様子で首を振る。何だかさっきよりも更に萎縮させてしまったみたいだ。ごめんよ。
ごめんなさいできてえらい、と兄様達の頭をなでなで。その時さりげなくパパの腕の中からひょいっと持ち上げられ、ディラン兄様の腕の中にぽすっと収まった。なぬっ。
「おいガキ、何をする」
案の定と言うべきか、身軽になったパパがムッと眉を顰めてディラン兄様を睨み付ける。兄様はその睨みを受けても怯える様子を見せず、ツーンとした無表情で淡々と答えた。
「……私の弟です」
ディラン兄様の敬語だ、レアだ。わくわくっとゆらゆら体を揺らす僕をぎゅーっと抱き締めるディラン兄様。そんな兄様の言葉を聞き、パパはまたもやムッとする……わけでもなく、ハッと得意気に口角を上げた。
「それを言うなら、フェリアルは俺の息子だぞ」
「何を……それは貴方がフェリに無理やり言わせているだけでしょう。ただの呼び名であって本当の父親ではない」
「いいやただの呼び名じゃねぇよ。フェリアルはうちの嫁になるんだ。何故なら愚息がフェリアルの夫になるからな。俺は義父だ」
「…………は?」
突然話に巻き込まれた気配にそわそわ、どきどき。
パパが言った『フェリアルの夫』という言葉にかぁーっと頬を染める。ライネスが僕の夫、ライネスが僕の旦那さま……はわわっ。それじゃあ僕はライネスの妻?ライネスのお嫁さん……はわわわっ。
「馬鹿な……結婚は両者の同意が無ければ成立しません。フェリが公子との結婚を承諾したとでも?」
「その通りだ。フェリアルが愚息との結婚を認めたんだ。これを見ただろ、フェリアルと愚息はもうキスをする仲だぞ」
「ちょっ、父上!」
ディラン兄様愕然、パパにやにや、ライネスあわあわ。ガイゼル兄様も何やら魂が抜かれたみたいに白目を剥いているし、大公妃様に関しては良い天気ねーとばかりに空を見上げている。飽きちゃったのかな。
そんなカオスな状況の中、ここは話題の中心にいるらしい僕が何とかせねばとそわそわ動き出す。きすまーくをじっと見つめられる感覚が何だか恥ずかしくて、首を手で隠しながらおろおろと声を上げた。
パパに説明させちゃだめだ。ここは当人の僕がしっかりと兄様達に説明しなければ。
「ディラン兄様、ガイゼル兄様。あのね、僕ライネスが好きなの。ライネスとお付き合いすることになったの。恋人になったからね、結婚もするの」
「待て待て待て!恋人!?結婚!?俺らが居ない所でなに重要な話進めてんだアホチビ!」
わっと突然ガイゼル兄様が大声を上げたことでビクッと肩を揺らす。びびっ、びっくりした。
アホチビとはなにごとかとふんすふんすしつつ、確かにいきなり過ぎたかなと反省してコホンと一つ咳払い。うーんとえぇっと、どこから話せばいいんだろう。
花火の夜を思い出し顔を真っ赤に染める。なんとかもごもごと口を開いて、小さな声で順を追って説明することに。
「僕、ずっと前からライネスが好きだったの。ライネスも、僕のこと好きだったの。僕がね、ライネスといるとドキドキするのって言ったら、ライネスがむぎゅってして、大好きだよって言ってくれたの。それで、ちゅーして……」
「待て!一応聞くが、そのキ、キスは無理やりされたんじゃないのか?お前もちゃんと了承したのか?」
気になるとこそこなのねとちょっぴりあせあせ。ガイゼル兄様の問いにぽぽっと更に顔を真っ赤にして、もじもじしながらこくこくと頷いた。
「ぼ、ぼくが言ったの。ちゅーする?って聞いたの。そしたら、ライネスがちゅーしていいの?って。うんって言って、ちゅーしたの」
「お前から!?チビから誘ったのか!?」
「ち、違うの!好きって言ったらちゅーするんだよ。お姫様と王子様、お姫様と騎士さまは、好きって言ったらちゅーって、キスしてたもの」
「お前そりゃ絵本の話だろ!ピュアか!ピュアピュアかてめーは!別にキスまでしなくて良いんだよ!つーかすんな!兄様がまだ認めてねぇだろうが!」
肩をぐわんぐわんと揺らされあわあわ。目が回ってしまう……。
と言うか、キスまでしなくていいとはどういうことだ。好きって言ったらキスするのに。それでめでたしめでたしなのに。ガイゼル兄様は変なことを言うんだなぁ……。
「だめだよ。告白のあとはキスするんだよ。お姫様と王子様、いつも好きって言ったらちゅーしてめでたしめでたしだもの」
「それで済むのは絵本の中だけなんだっつーの!現実でキスまで持ち込んだらその後もヤる雰囲気になっちまうんだよ!危ねぇことすんなアホチビ!」
「そのあと……?」
眉間を指で抑えて声を発せない様子のディラン兄様と、わーわーと声を上げるガイゼル兄様。
少なくともライネスとの結婚を祝福してくれているようには見えない兄様達の表情を見てしょぼんとしながら、混乱する頭を何とかすべくガイゼル兄様の言葉を整理することにした。そのあととは何ぞや……。
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