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フェリアル・エーデルス
372.花嫁修業
しおりを挟むキスは無闇にするものじゃない。結婚はまだ認められない。要約すると、兄様達が言いたいのはざっくりこの二つらしい。
ちゅーが出来ないのはしょんぼりするだけ。けれど結婚を認められないのは何故なのだろうと眉を下げる。兄様達のことだから、きっとぱちぱち拍手で祝福してくれると思っていたのに。
僕が至らないせいなのかな。ライネスみたいなかっこいい素敵なお兄さんには、僕みたいなちんちくりんは見合わないということ?むぅ……確かに、そう考えると僕も自信が無くなってくるけれど。
ライネスくらいの素敵なお兄さんになるにはどれほどの時間が必要なのか。
今はまだ認めて貰えないみたいだけれど、いつかライネスに追い付けたら兄様達も認めてくれるかな。そんなことを悶々と考えていると、悩み込む僕に気が付いたらしいディラン兄様がそっと僕を下ろしてしゃがみ込んだ。
目線が合わさって、ちょうど真正面にカーマイン色の綺麗な瞳が煌めく。ぱちくり瞬くと、ぽんと優しく頭を撫でられた。
「なにも絶対に認めないと言っている訳じゃない。いつか認めるにしても……不服だが。ただ、今はまだ、認められないというだけだ」
「どうして……?僕がちんちくりんだから……?」
「ちんちくりん?誰が可愛いフェリにそんなことを言ったんだ。フェリは最高に可愛いぞ。だが如何せん、年が年だからな」
とし……年齢?
年齢がどうしたのかと首を傾げる僕に、ディラン兄様が言葉を選ぶように視線を彷徨わせてゆっくりと答えた。
「……フェリはまだ子供だ。もしかすると、その気持ちが憧れだったり、色々と……恋愛感情ではない可能性が少なからずある」
「……?どうして?僕、ライネス好きだよ……?」
恋愛感情じゃないかも、なんて。どうしてそんな悲しいことを言うのだろう。
他でもない大好きなディラン兄様にそれを言われたのが何だかとっても悲しくて、思わずしょぼんと視界が滲んでしまう。まるでディラン兄様に、僕の気持ちを疑われてしまったみたいで。
「ち、違うんだフェリ。泣かないでくれ、可愛い目が腫れてしまう……」
冷静な無表情を崩してあたふたし始めるディラン兄様。そんなディラン兄様の頭を呆れ顔でコツンッと小突くガイゼル兄様の構図、何だか普段と真逆で珍しい。
ぐすぐすと潤む瞳を軽く擦って、泣いてないよ、泣かないよと表情筋に力を籠める。ディラン兄様をあわあわさせるのは本意じゃない。僕が泣いたら心配させちゃうから、悲しくても我慢しないと。
「フェリの想いを疑っている訳じゃない。ただ、子供の内はどうしても視野が狭くなる。それに、知識にも疎い。フェリが賢い子だというのは大前提だが、それでも兄様は少しだけ心配だ」
「しん、ぱい……?」
「結婚を約束するという事は、フェリが大人の仲間入りをする事と同義なんだ。だがフェリは純粋な子だから、突然大人がするような行為を実践するとなると……少し、混乱してしまうかもしれない」
「僕、もうお兄さんだよ。大人の仲間入りできるよ」
「そうだな。フェリはお兄さんだ。だが、まだ公子のような立派な大人には後少し遠いといった所だろう。立派な大人になってからの方が、フェリも安心して公子の元に嫁げるんじゃないか?」
立派な大人になってから……。
確かに、ディラン兄様の言う通りだ。今の僕じゃまだ足りない。ライネスの隣に立つなら、ライネスの隣に立つ人間として相応しい人にならないと。その相応しい人に、僕はまだなれていない。
むぅ……やっぱりディラン兄様はすごい。さっきは早とちりしてぐすぐすしてしまったけれど、今は違う。キラキラッと憧れの視線を兄様に向けてそわそわ。
兄様はいつだって、僕のことを心配してたくさん考えてくれているのに。どうして僕はほんの一瞬でも、兄様の僕への愛情を疑ってしまったのだろう。やっぱり兄様だいすき。ぎゅーっ。
「わかった。僕、あとどれくらいで立派な大人になれるかな」
「そうだな。少なくとも成人する頃には、立派な大人になれているんじゃないか?最低でも、高等部を卒業しなければ真の大人……真のお兄さんには近付けないと思うぞ」
「むっ……しんのおにいさん……」
何だかわくわくどきどきな単語にキリッと真剣な表情を浮かべる。真のお兄さん、とな。
ふむふむ、確かにベテランお兄さんを超えた真のお兄さんになれば、かっこいい素敵なライネスの隣に立つに相応しい大人になれるかもしれない。
そうと決まれば!とライネスの元へとたたーっ。キリリッとカッコいいお兄さんの表情を浮かべ、ライネスにぴしっと宣言した。
「ライネス!結婚は僕が真のお兄さんになってからだよ。それまではきちんと大人のなんとかかんとかなるものを勉強する。だから、ちゅーも結婚も今はしないよ」
「待ってフェリ!キ、キスもだめ……?」
「ちゅーもだめ。ちゅーしたら、ライネスと結婚したくなっちゃうからだめ」
指でばってんして言うと、ライネスが「グハッ!」と突然吐血した。なにごとかね、大丈夫かね。
パパからスッとハンカチを渡されて口元をふきふきするライネス。うむ、重傷ではなさそうなのでよし。慌ただしく兄様たちの元へ戻り、恐る恐る最終確認をする。
「ディラン兄様。ガイゼル兄様。今は、結婚認められない?」
「認められない」
「認めねぇぞ」
「それじゃっ、僕が大人になってっ、真のお兄さんになったら認めてくれるっ?」
「……認める」
「……認めてやる」
何だか渋い返事だけれど、認めてくれるようなのでよし。やったーわーいわーいと喜ぶ背後でパパ達の声が聞こえた気がした。
「残念だったなライネス。フェリアルが嫁いでくるのは大分先になりそうだぞ」
「……私だって、まだちっちゃなフェリを後戻り出来ない立場に置くつもりはありませんでしたし」
「ほんとかよ。ぶっちゃけ既成事実作ってとっとと結婚してやろうとか思ってたんじゃねぇの」
「それは私じゃなくて父上の話でしょう。私はフェリの自由な未来を最優先に考えているので」
何やら話し込むライネスたちの元へとたとたっと駆け寄る。パパと大公妃さまの前に立って、ごめんなさいと一礼。
なんだなんだと困惑する気配を感じて頭を上げ、ドキドキする鼓動を何とか抑えながら上擦った声を上げた。
「け、けっこん、まだ出来なくてごめんなさいっ!大人になって、真のお兄さんになったら、もう一度ライネスくださいしてもいい、ですか……っ」
真っ赤な顔で何とか最後まで言葉を紡ぐ。ぽかんとしていた二人の表情がやがて緩んでいった。
かちこち。緊張で硬直する僕をよーしよしと撫でたパパが、ニマニマ顔でうむと頷いた。
「おう待ってるぜ。別にしなくてもお前になら普通にくれてやるがな」
「パパと大公妃さまにだめって言われないように、頑張って修行する!します!」
「駄目とか絶対言わねぇけど、まぁ頑張れ」
「花嫁修業頑張ってねフェリちゃん。私も手伝ってあげるからいつでも来なさい」
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