余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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フェリアル・エーデルス

373.お別れ

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「よし、話は終わったな?帰るぞチビ。とっとと帰るぞ」


 大公家の三人とわいわい楽しく話が弾む……というところで突然背後からひょいっと抱き上げられた。むぅ……大公妃さまと花嫁修業について話をするところだったのに……。

 振り返って確認。どうやら僕を抱き上げたのはガイゼル兄様らしい。
 何だか不満そうな表情にきょとんとする僕を、ガイゼル兄様は問答無用で抱っこして馬車まで歩いていく。最初はぱちくりしていたけれど、馬車に乗せられる直前に我に返ってあわわっと抵抗を開始した。


「ガイゼル兄さま、離してくださいっ!ライネスたちとばいばいしてないっ!」

「んなモン良いだろ。とっとと行くぞ」


 何だか早く帰りたがっている様子のガイゼル兄様。
 どうしたのかな、なんて兄様の事情を考えるより先に、ばいばいを言わずに大好きな人達とお別れする状況への悲しみが湧いた。
 思わずうるうると雫を滲ませる瞳をそのままに、ぐすぐすと掠れる声で小さく訴える。


「っ……やっ……ばいばいするのっ……」


 うぅ……っとぐずると途端にガイゼル兄様が慌て出す。ディラン兄様に小突かれたガイゼル兄様に渋々地面に下ろされ、直後にとたたーっと走り出した。


「ライネス!ぎゅー!」


 涙目で両腕を広げ、全力でとたとたっと駆け寄る。
 感動映画のクライマックスを観たみたいにハッと口元を抑える大公妃さまと、うんうんと何やら満足気に頷くパパ。そんな二人を背景にグハッと吐血するライネスにむぎゅーっと強く抱きついた。
 むぎゅむぎゅ。コアラみたいにぴったりくっついて、隙間を全部埋めるみたいにぐいぐいうりうり顔を擦り付ける。


「ライネス、ライネス。だいすき。浮気は、いけないことだからね?」

「う、浮気なんてしないよ!私にはフェリだけだよ!フェリだけ愛してるし、これからもフェリだけが大好きだよ!」


 僕が帰ったあとに、ないすばでぃなお姉さんとライネスが出会ってしまったらどうしよう。シモンみたいにとってもカッコイイお兄さんに出会ってしまったらどうしよう。
 僕みたいなちんちくりん、そんな綺麗な人たちには直ぐに先を越されてしまうだろう。ライネスが僕じゃない人に恋愛的な好きを向けたら……想像するだけで悲しくなる。

 しょぼぼんと眉を下げてそのことを言うと、返ってきたのはとっても熱い即答。あ、あい、愛してるって……えへへ。


「億が一にも無いけれど、もしも私がフェリ以外の人間に現を抜かしたら……」

「たら?」


 億が一の状況への対応策が何かあるのかな、そわそわ。
 緊張しながら耳を傾ける。ライネスはにっこり満面の笑顔を浮かべて答えた。


「私のこと、殺していいよ」


 ぴたっ。時が止まったみたいな感覚って、たぶんこういう時の為にあるのだろう。
 はわ……?と首を傾げて硬直。ライネスの背後にいるパパと大公妃さまは何だか呆れ顔だ。

 ぷるぷる。ぷるぷる。徐々にライネスの言葉の意味を理解して、体がぷるぷる震え始める。ライネスってこういう人だったっけ、うーむ……こういう人だったかも。
 愛がとっても深くて重い。いつもは優しいお兄さんだから、たまに垣間見える本性みたいな部分に、ちょっぴりどきどきそわそわしてしまう。

 ライネスがそこまで言うなら、僕もお兄さんらしく覚悟を決めないと。


「ぼっ、ぼくも、絶対絶対、浮気なんてしないよ。で、でも……もし、しちゃったら……」

「……しちゃったら?」


 ぷるぷる震えながら言葉を紡ぐ。頭をよしよしと撫でるライネスの手に擦り寄り、思い切ってくわっと答えた。


「僕のことっ、けちょんけちょんにしていいよ……!」

「グフッ……!どこまでも可愛い……ッ!」


 ライネス、吐血。今日はシモンみたいに血を沢山ぷしゃーするなぁ……。

 ハンカチで口元をふきふきしてあげて、血塗れじゃなくいつもの素敵なお兄さんライネスに戻す。ふきふき、ふきふき。
 せっせとふきふきしている途中、何やらわなわなと衝動を堪えるように震えていたライネスがバッ!と動き出した。なっ、なにごと!

 むぎゅーっと強く抱き締められあわわと硬直。とつぜんどうしたんだってばよ。


「うぅ可愛い……フェリが可愛すぎて今にも死にそうだよ……」

「なぬっ!ライネス死んじゃだめっ!」


 ちーんと魂の抜けそうなライネスを確保、むぎゅーっ。
 むぎゅむぎゅと擦り寄ると更に魂が抜けていく気がして、慌てておろおろと体を離した。
 ようやく冷静なライネスに戻ってきて一安心、ほっと息を吐く僕をぽんぽん撫でて、ライネスがにこっと微笑んだ。すてき。


「フェリ好きだよ。愛してるよ。私の所にお嫁に来るまで、誰にも目移りしちゃダメだからね?」

「うん。しないよ、大丈夫だよ」

「フェリがお兄さんになる頃には、私はもうフェリから見ておじさんになってるかも。フェリの周りには、素敵なお兄さんが沢山増えていると思う。それでも、私だけ見てくれる?」

「おじさんなライネスも絶対素敵だよ。ライネスも、僕のこと子供だからって好きじゃなくならないで」


 むぎゅむぎゅ、うりうり。
 感動のお別れを繰り広げる僕たちの周囲で、ぐすぐすと涙ぐむ大公妃さまとシモン。何やら力強く頷くパパに、不満気な兄様たち。

 そういえば、パパと大公妃さまは今でもあんなに素敵な姿だ。年齢不詳という言葉が良く似合う、ライネスと並んで立っても大して年の差を感じないくらいの魔性の美形。
 そんな二人から産まれたのだから、おじさんになって云々……なんて心配しなくて良さそうなのに。ライネスは心配症だなぁ。
 きっとどれだけ歳を経ても、僕から見たらライネスは素敵なお兄さんでしかないのに。


「愛してるよフェリ……ッ」

「僕もだいすきだよライネス」


 とっても心配症なライネスをよしよし、むぎゅむぎゅ。
 ぽんぽんと背中を撫でること数十秒、不意に背後から聞こえた声で漸くお別れタイムが終了した。


「なぁ、そろそろ良いか?」


 不満顔を通り越して呆れ顔を浮かべるガイゼル兄様。
 心做しかちょっぴり愛の重いライネスにドン引きしているような様子に苦笑した。そんな顔しないであげて。
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