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フェリアル・エーデルス
375.影の誓約
しおりを挟む大公城から戻って来て数日。毎日欠かさず花嫁修業を続け、真のお兄さんへの道を歩んでいた最中。
お花の水やり修行をしていた所にふと現れたシモンが、何やらお高そうな封の手紙を差し出してきた。
「フェリアル様、第二皇子殿下からお手紙が届いていますよ。茶会のお誘いのようですが……」
アランからのお手紙?珍しいなとぱちくりしながらジョウロを置いて立ち上がり、手紙を受け取って封を開ける。皇宮からレオ以外のお手紙が送られてくるのは久々だ。
片手がちょっぴり濡れていたから服の裾でふきふきしようとしたけれど、その寸前にシモンがハンカチをすっと差し出してきたのでそれにごしごし。シモンは本当に気が利く人だ。
乾いた手で改めて手紙を手に取りひらりと開く。確かにアランの筆跡で書かれた手紙には、シモンの言う通りお茶会のお誘いについての内容が書かれていた。
「む、アディくんも一緒だ!」
読み進めるうちに瞳キラキラ。どうやらお茶会の参加者はアランだけじゃなくアディくんも一緒らしい。
数少ない友達のアランとアディくん。二人と同時に会えるなんて嬉しい!と今からにこにこわくわくが止まらない。
「シモン!お茶会行くよ。ぜーったい行くよってお返事書く!」
「……お茶会の場所は皇宮ですか?」
「む?うん、皇宮だよ。もしかしたらレオにも会えるかも!最近会えてなかったから、どきどきするね」
にこにこ。ふにゃあと頬を緩めて言うけれど、シモンは何だか浮かない顔。
どうしたのだろう?と首を傾げると、それに気がついたシモンが僕の頭をぽんぽんと優しく撫でた。よく分からないけれど、気持ちいいから嬉しい。えへへ。
「いえ、何でもありません。お茶会楽しみですね」
シモンの柔らかい笑顔。いつもと同じ優しい笑顔。なのに、何だかちょっぴり警戒心を含んだような、そんな表情にきょとんと首を傾げた。
* * *
数日経って、お茶会当日。
この日をるんるん気分で待ち望んだ僕とは違って、邸の皆は何だか殺伐としていた。
僕が皇宮にお茶会に行くと言った日、何故かお父様たちも兄様たちも眉を顰めた警戒心の滲んだ顔を浮かべていた。シモンと同じように。
ちょっぴり不思議だったけれど、無事にこの日を迎えられたのでよき。
るんるんっと支度を済ませて皇宮に辿り着いた後、不意にシモンに呼び止められてきょとんと振り返った。
「フェリアル様。誰にも内緒で、フェリアル様の影に潜んでもいいですか?」
ふと小声で掛けられた問いに瞬く。突然そんなことを聞くなんて、一体どうしたのだろう。
それに、どんな理由があろうとシモンにそれを聞く必要があるのだろうか。シモンと僕は影で繋がっているのだから、好きな時に僕の影に移ればいいのに。
その言い方だと、まるで自由にいつでもどこからでも僕の影に移ることは出来ないと、そう言っているみたいだ。
色々と気になったから、浮かんだ疑問をそっくりそのままシモンに告げる。すると、柔い笑みがほんの少しだけ困ったように歪んだ。
「……すみません、ずっと言っていなくて。実は……もう俺とフェリアル様の魂は繋がっていないんです」
「……うん?」
「でも、皇宮なんて危険な場所に一人で行かせるのは心配で……何が起きても直ぐに対処出来るよう、今回は初めから影に潜んで……──」
「待って!まってシモン!」
淡々と説明を羅列するシモンを慌てて止める。服の裾を引っ張って待ってを連呼すると、シモンは僕の指示通りスンと口を閉ざした。
「魂が繋がってないって、どういうこと……?僕とシモン、ずっと一緒だよね?ふたりでひとつって……」
目の前が皇宮だと言うのに、構わず声を荒げてしまう。それに初めに配慮したシモンが、問いに答えずひょいっと僕を抱き上げて背後の馬車に戻った。
その間にも僕はシモンをむぎゅーっと強く抱き締める。もう魂が繋がっていないなら、離した途端すぐにシモンが消えてしまいそうな気がしたから。
馬車に戻って、少し中に入った入り口付近に下ろされる。地面に立っているシモンと少しだけ身長が近付いたから、首元に顔を埋めるようにむぎゅっと抱きついた。
「しもん、しもん……どうして言ってくれなかったの。言ってくれたらすぐに、誓約……」
「フェリアル様、落ち着いて。きちんとお話ししますから、ね……?」
よしよしと背中を撫でられてようやく落ち着く。突然の話だったから、驚いて少し冷静さを失っていたみたい。
我に返ってすーはーすーはーと深呼吸。シモンを誘って、誰かに話を聞かれないように馬車の中に入った。
シモンを椅子に座らせて、その正面に仁王立ち。明らかにぷんすかと頬を膨らませている僕に苦笑すると、シモンはいつもの優しい声音で語り始めた。
「初めに言っておきますが、フェリアル様が嫌いになったとかでは断じてありませんからね。俺はいつでもずーっとフェリアル様が大好きです」
その言葉にちょっぴり力が抜ける。有り得ないとは分かっていても、少しは緊張していたみたいだ。
だって、誓約が無くなってそれを黙っていたなんて、まるで僕を嫌っていたみたいだから。いやいや、シモンに限ってそれは無いって普通に分かるけれどね、一応ね、うむ。
「それじゃあ、どうして?」
ぬんっと前のめりになって問いかける。少し近付いた距離、シモンが柔く微笑んで僕の頬を両手で包み込み、穏やかな声音で答えた。
「……公子とフェリアル様の想いに気が付いた時が……きっかけでした」
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