余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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フェリアル・エーデルス

376.幸せに死ぬ方法

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 ドクンと鼓動が大きな音を立てる。
 どうしてライネスがきっかけに……?なんて気になったけれど、お口チャックしてシモンの話に耳を傾けた。
 話を聞くに、どうやら原因は僕とライネスがはわわな関係になったことらしい。シモンは自分が僕の一侍従でしかないことを改めて思い知り、ライネスの為に距離感を今一度考えて……そして、誓約のことを言わないようにとの決断をしたのだとか。

 しかしその問題は既に解決して、ライネスとの話にも決着がついた。だから今はうじうじ考えているわけじゃ云々かんぬんと話すシモンだけれど、僕は全く納得できない。むぅである。


「……僕に遠慮したの」

「え、遠慮というか、何と言いますか……そのぅ……」


 ぷくぅっと頬を膨らませる。ぽかぽかっとシモンを攻撃しながら、じわじわと湧き上がる悲しみに何とか耐える。だめだめ、これくらいのことで泣いちゃだめ。

 そもそもあの誓約は一方的なもの。シモンがやめたいと言うなら、直ぐさま誓約破棄のための方法を探していた。
 けれど今回は、そういう穏便なものとは違う。シモンの命がかかった誓約の件だというのに、またまたシモンは自分を蔑ろにして僕を一番に考えたのだ。

 シモンが僕をそんなにも想ってくれていることは嬉しいけれど、嬉しいけれど……でも、何だか複雑。シモンは、僕がシモンを蔑ろにするような人に見えているのかな、なんて。


「今は!今は全然、馬鹿なこと何も考えてませんから!フェリアル様がやっぱり誓約を再開したいと言うなら勿論そうしますし、その時は公子がどうのこうのなんて何も……」

「僕がする」

「…………はい?」


 あたふたと弁明みたいに言葉を羅列するシモン。その声を遮ってムッとした声で言うと、シモンのあたふた笑顔が途端にぽかんとしたものに変わった。
 そのぽかん顔を見てちょっぴりスッキリ。むふふと頬を緩めてどどどやぁと答える。


「僕が、シモンに誓約する!」


 数秒の静寂の後、シモンの顔色がサーッと蒼白した。
 わなわなと震える姿に首を傾げる。ふむ、何かおかしなことを言ってしまっただろうか。


「フェッ、フェリアル様がっ、誓約を……!?」

「む?うむ。シモンに誓約するよ。シモンがばたんしたら、僕もばたんする」


 シモンが僕にしてくれた誓約を、今度は僕がシモンにする。
 それが僕のけじめで、シモンへの罰でもある。僕とシモンの関係は絶対なのに、ちょっぴりでも疑った罰。僕がどれだけシモンのこと大好きか、思い知らせてあげるのだ。

 僕とシモンはずーっと一緒。それは誰にも覆せない事実で、使命。僕にもシモンにも覆せない。


「意味を分かって言ってるんですか!?隷属誓約ですよ!?俺が死んだらフェリアル様が死んでしまう!フェリアル様には何のメリットも無いんです!」


 肩をガシッと捕まれ力説される。酷く焦った声音を発するシモンにきょとんと瞬いて、ぽんぽんと肩を撫でてあげた。


「わかってるよ。そうしたら、僕が死なないように、シモンは自分のこと今よりもっと大事にできるよね」

「は……」

「僕は、死なないようにシモンを守る。シモンは僕が死なないように、自分を守る。メリット、たくさんだね?」


 にこっと微笑む。シモンの顔は蒼白から唖然とした色になって……ころころ変わる表情がおかしくて思わず吹き出した。
 常にニコニコ余裕そうにするシモンも好きだけれど、こういう人間味のある変化をするシモンも同じくらい大好きだ。

 大好きなシモンを守るためなら、僕は何だってできる。シモンもそうでしょ?


「……フェリアル様には……公子が……」

「シモン。シモンとライネスは同じ人じゃないよ。シモンが死んだ時の悲しい気持ちは、僕でもライネスでもどうにもできないの」


 それはライネスでも同じ。もしもライネスが不慮の事故で死んじゃったりでもしたら、僕はとっても悲しくてどうなるか分からない。
 そういう時、シモンが居れば少しは状況を紛らわすことができるかも。でも、根本的な悲しい気持ちはシモンがいてもどうにもならない。

 同じ人なんていない。大切な人はみんな違う人だから、一人でも欠けちゃいけないのだ。


「替えなんていないの。シモン、シモンはライネスのこと、自分の替えだと思ってるよね」

「っ……それは……」

「だからそんなことが言えるの。思ってなかったら、誓約のことだって、遠慮なんてしないはずだよ」


 シモンは全部同じことにして考えている。だからそうやって悩むのだ。全部別にして考えたら、きっと悩むことなんて何も無いのに。


「僕はライネスが大好きだから、ライネスと一緒ならずっと幸せに生きられる。シモンが大切だから、シモンと一緒ならきっと幸せに死ねるよ」


 真面目な声と表情。瑠璃色の瞳が真剣な色を纏っているのが、シモンの緑の瞳越しによく分かる。
 不意に皇宮の鐘の音が鳴って、そういえばお茶会の約束をしていたんだとふと思い出した。真剣な話をしていただけに、ちょっぴり目的を忘れそうになっていた。危ない危ない。


「そろそろ行かないと、時間に遅れちゃう。影の中、入る?」


 そろっと振り返って問い掛ける。シモンは呆然と見開いていた目を震わせて、やがて微かにこくっと頷いた。
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