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フェリアル・エーデルス
377.友達
しおりを挟むシモンと真剣な話に夢中になっていたらもうこんな時間。五分前行動が云々かんぬんとまたアランに怒られてしまう!と慌ててとたとた。
皇宮内を走り回ることは禁止されているし、何よりマナー的に見られるのは恥ずかしい。ぎりぎり早足で通せるくらいの早歩きをして待ち合わせ場所まで急ぐ。
影の中にシモンの気配を感じながら歩くこと数分。途中道に迷いながらもようやく辿り着いたその部屋へ入ると、そこにはそわそわと室内を歩き回るアランの姿があった。
その姿を見てほっとひと息。その呼吸の気配で僕に気が付いたのか、アランがバッと振り返る。瞳に自分の姿が映し出されたかと思うと、アランの表情がくわっと見開かれた。
「フェリアル!よかった……何かあったのかと思った……!」
むぎゅっ!と強く抱きつかれ慌ててアランの体を受け止める。どうしたのだろう、こんなに震えて。時間にはぎりぎり遅れていないはずだけれど……。
きょとんと首を傾げる僕の全身をくまなく確認して、アランは漸く一息ついて安堵の笑みを浮かべた。
「ごめん……少し心配しただけ。久しぶりフェリアル、会えて嬉しい」
にこ、と優しく微笑むアランを見て、思わず僕もふにゃりと頬を緩める。ぎゅーっと抱きついてこくこくと頷いた。
「久しぶりアラン。今日は誘ってくれてありがとう。とっても嬉しい!」
何より、アランの中で僕との友人関係がきちんと続いていた事実。それが本当に嬉しい。
僕の中では同い年の気兼ねない友人のままだけれど、きっとアランやアディくんにとっては、僕への認識が年下の子供に変わってしまっただろうと思っていたから。
二歳の差。小さい差かもしれないけれど、まだ青年と呼ぶ年頃の僕達にとっては大きな差だ。
だから本当に嬉しくて、アランにも少し遠慮を忘れてむぎゅむぎゅ抱きついてしまう。
やがてコホンと咳払いをしたアランが体を離したかと思うと、何やら気まずそうな表情で瞳を揺らし始めた。
「……?どうしたの?」
「いや、実はその……えぇっと……」
もごもご。もごもご。何か言いづらいことでもあるのかなとぱちくり。
瞬く僕を見下ろし、今度は辺りをきょろきょろ。扉越しに廊下の気配を窺うみたいに耳を澄ましたかと思うと、僕の耳に唇を寄せて不意にコソッと呟いた。
「……あのね、実は今日、アディは呼んでいないんだ。お茶会は今度改めて三人で開こう」
「へ……?ど、どうして……」
突然告げられた言葉にドクンと鼓動が嫌な音を立てる。
や、やっぱり僕だけだったのかな。アランとアディくんと友達のままだと思っていたのは、僕だけで……二人はもう僕のことを……。
なんて、確証のない嫌なことをぐるぐる考えていた最中。ふとむにゅっと頬を掴まれたかと思うと、そのままむにゅーっと柔く伸ばされた。にゃにをすりゅ。
「ちょっと、変なこと考えないでよ。僕とアディはずっとフェリアルのこと、す、すっ、好き……だと思ってるから。別に……うん……」
照れ隠しみたいに頷くアラン。真っ赤な顔を見てきょとんとして、やがてふにゃあっと表情がゆるゆるに緩んだ。
うれしい、よかった。二人に嫌われたわけじゃなかったみたいだ。よきよき。
でも、それじゃあどうして?どうしてアランは、わざわざお茶会だなんて嘘の手紙を送ってきたのだろう。
なにか用事があることに変わりないなら、普通に書いて送ってくれればよかったのに。大事な友達のお誘いなら、何だって絶対に受け入れたはずだ。
それをそのまま告げると、アランは眉を下げて「わかってる……」と困ったように呟いた。
「……でも、皇宮は少し嫌な場所だから。要らない噂を立てられる前に、常に対策しておかなきゃいけないんだ」
皇宮は嫌な場所。常に対策。
本来息を抜いて寛げなければいけないはずの自分のお家を、そんな言葉で表すなんて。でも……嫌な場所というのは、ちょっぴりだけわかるかも。
思い出すのは例のお茶会。陛下は少し怖い人だった。
いや、明らかに優しそうな人だったけれど、雰囲気が何だか怖くて……って、だめだめ!大事なお友達の父親なのに、そんなことを思ってしまうなんて。
……でも、もし僕が思っているようなことをアランは毎日思っているのだとしたら……それは、本当に気が抜けない。とても苦しいことだろうと思った。
「フェリアル、公子と婚約したんだって?」
ぐるぐる考え込んでいたとき、ふと掛けられた問いにハッと我に返る。
どうしてアランがライネスとのことを……?とぱちくり瞬く僕をじっと見つめて、やがてアランは「やっぱりそうなんだ……」と小さく溜め息を吐いた。
「……うん、そっか。おめでとうフェリアル。公子とフェリアルの噂、もう帝都にまで届いているんだよ」
「はぇっ、そうなのっ。あ、ありがとアラン。えぇっと、うぅ……」
友達に恋愛事情が筒抜けって、こんなに照れくさいことなのかとあわあわ。頬を染めてもじもじ揺れる。
「……それでね、ごめん。ただの我儘で本当に申し訳ないんだけど……」
「うん?」
もじもじをピタリと止める。
高飛車だのなんだのと勝手なことを言われるアランだけれど、実際はとっても控えめな優しい子だ。そんなアランがはっきり我儘だと口にするなんて、一体どんなお願いごとなのだろう。
首を傾げて待つと、やがてアランがそわそわと視線を彷徨わせながら答えた。
「兄上に……会ってほしいんだ」
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