追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.

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第32話

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 熱を帯びた空気が、洞窟の奥で渦を巻いていた。

 グレイバルが吐き出した炎は、壁に当たって弾け、赤い火花となって散る。岩肌が焼け、鼻をつく焦げた匂いが立ちこめた。

 ライトは地面を転がるようにして距離を取る。

 肩口がじん、と熱を持った。直撃は避けたが、掠っただけでも皮膚がひりつく。

「……っ」

 歯を食いしばり、剣を握り直す。

 真正面から斬り合う相手ではない。あの炎をまともに受ければ、終わる。分かっているのに、身体が一瞬だけ前へ出そうになる。

 それを、止めた。

 視界に入るのは、グレイバルの脚運び。炎を吐いた直後、わずかに体勢が崩れる。その一拍。

(……そこだ)

 考えたというより、そう感じた。

 ライトは低く踏み込み、地面を蹴る。剣が振り上げられる前に、グレイバルの尾が唸りを上げて振るわれた。

 反射的に身を伏せる。

 尾が頭上を通り過ぎ、背後の岩壁を砕いた。衝撃で小石が降り注ぐ。

「ミリュウ!」

 声をかけると、肩に乗っていたミリュウが短く鳴いた。

「ミリュ」

 怯えていない。小さな体は震えているが、目はまっすぐ敵を見ている。

 それだけで、胸の奥が落ち着いた。

 ライトは剣を構え直し、息を整える。腕が重い。足も、わずかに鈍ってきている。だが、不思議と焦りはなかった。

 以前なら、ここで引いていた。

 だが今は違う。

 グレイバルが再び炎を吐こうと、大きく息を吸い込む。

 ライトはその瞬間、剣先を地面へ向けた。

 剣に、熱が集まる。

 赤い光ではない。炎が噴き出すわけでもない。ただ、刃がじんわりと温度を帯びていく。

 次の瞬間、ライトは踏み込んだ。

 グレイバルの炎が放たれるより、わずかに早く。

 剣を振る。

 斬撃が空気を切り裂き、炎の縁をかすめた。

 炎そのものは裂けない。だが、進行方向が僅かに逸れ、洞窟の天井を焦がす。

 グレイバルの目が見開かれた。

 その隙を、ライトは逃さない。

 距離を詰め、胴へ向けて斬り込む。

 硬い感触。だが、弾かれない。

 刃が鱗の隙間に食い込み、浅く血が滲んだ。

 グレイバルが怒号のような咆哮を上げる。

 その声に、洞窟全体が震えた。

 ライトは即座に距離を取る。深追いはしない。今の一撃で十分だった。

(……通る)

 それだけが、はっきりと分かった。

 剣を握る手に、変な力は入っていない。それなのに、さっきより刃が軽い。

 足も、自然と次の動きを選んでいる。

 グレイバルが再び構え直す。だが、その動きは先ほどより、ほんのわずかに遅い。

 ライトは剣を構えたまま、静かに息を吐いた。

 ミリュウが、肩の上で小さく鳴く。

「リュリュ」

「……大丈夫。まだ、やれる」

 自分に言い聞かせるように、そう呟いた。

 だが、決着はまだだ。

 グレイバルは完全には倒れていない。炎も、まだ衰えていない。

 ただ一つだけ、確実に変わったことがある。

 この距離、この時間、この相手。

 もう、逃げるだけの戦いじゃない。

 ライトは剣先を下げず、次の一手を見据えた。

 洞窟の奥で、炎が再びうねり始める。
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