追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.

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第31話

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 森の外縁部を抜けた先、岩肌がむき出しになった谷間に、熱を帯びた風が流れていた。
 草木はまばらで、地面のあちこちに黒く焼けた跡が残っている。

「……ここ、焦げ臭いな」

 ライトが足を止めると、肩に乗ったミリュウが小さく喉を鳴らした。

「ミリュ……」

 警戒している。
 それだけで、この先に“何かいる”と分かった。

 次の瞬間だった。

 岩壁の陰から、低く重い唸り声が響く。
 空気が揺れ、熱が一気に濃くなる。

 現れたのは、獣型の魔獣だった。
 全身を覆う赤黒い外殻。関節の隙間から、熔けた金属のような光が脈打っている。
 吐息だけで、地面の小石が白く燻った。

 火属性魔獣
 灼岩獣グレイバル

 ギルドで聞いた名前が、自然と頭に浮かぶ。

「……なるほど」

 スラッグウルフとは、明らかに格が違う。

 グレイバルが前脚を踏み込んだ瞬間、地面が爆ぜた。
 砕けた岩片と一緒に、熱波が襲いかかる。

 ライトは即座に後退し、剣を構えた。

 次の一撃は、正面からだった。
 爪が振り下ろされ、直撃する前に、熱だけが皮膚を焼く。

 避けきれない。

 腕をかすめた瞬間、視界が一瞬白く弾けた。

《火属性魔力を記録しました》
《ファイアLv1を獲得しました》

 痛みはある。
 だが、思考は止まらなかった。

 火が、分かった。

 燃える、という現象ではない。
 魔力が圧縮され、解放されるまでの流れ。
 熱が広がる速度と、消える境界。

 理解してしまった。

 ライトは歯を食いしばり、後方へ跳ぶ。

「ミリュウ、離れるぞ!」

「ミリュ!」

 ミリュウが肩から飛び降り、岩の陰へ転がり込む。

 剣を振る。
 斬撃強化を乗せた一太刀が、グレイバルの前脚を捉えた。

 だが、刃は深く入らない。
 外殻が熱で歪み、衝撃を逃がしている。

「……効きが浅いな」

 グレイバルが吠え、口から炎を吐いた。
 だがライトは、もう慌てない。

 炎そのものを見ていない。
 発生する直前の魔力の動きだけを見ていた。

 半歩ずれる。
 炎はかすめるだけで、背後の岩を溶かした。

 地面が赤く染まり、熱で足場が不安定になる。

 まずい。

 このまま正面から削り合えば、体力が先に尽きる。

 グレイバルが距離を詰めてくる。
 熱をまとった体当たり。

 ライトは剣を横に構え、受け止めた。

 衝撃と同時に、熱が腕を焼く。
 だが、その瞬間だった。

 魔力の流れが、はっきりと見えた。

 火になる前
 爆ぜる前
 圧縮されている一点

 ライトは歯を食いしばり、剣を捻る。

 斬るのではない。
 押し流す。

 衝突した魔力が乱れ、炎が発生せずに霧散した。

 グレイバルが一瞬、動きを止める。

 効いた。

 致命傷ではない。
 だが、確実に通じた。

 ミリュウが岩陰から顔を出し、声を上げる。

「ミリュ!」

「分かってる。まだ、倒せない」

 グレイバルが体勢を立て直す。
 全身の外殻が赤く光り、周囲の温度がさらに上がった。

 本気だ。

 ライトは剣を握り直し、静かに息を整える。

 火は使わない。
 効かないからだ。

 だが、火を知った。
 だからこそ、次の一手が見えている。

 足元の地面が、じわりと軋んだ。

 ここからが、本当の勝負だった。

 グレイバルが吠え、再び突進してくる。

 ライトは踏み込んだ。

 剣を握る手に、さっきまでとは違う感触がある。
 理解した火の流れが、確かに身体の中に残っていた。

「……来い」

 次の瞬間、轟音と熱が谷を満たした。

 
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