追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.

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第30話

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 朝の空気は少し冷えていたが、ライトの足取りは軽かった。
 肩に乗ったミリュウが、落ちないように尾で軽く巻き付きながら周囲をきょろきょろと見渡している。

「落ちるなよ。人多いからな」

「ミリュ」

 短く鳴いて、ミリュウは分かったというように喉を鳴らした。

 ギルドへ向かう途中、ライトは自然と自分の身体の感覚に意識を向けていた。
 昨日までと比べて、剣を腰に下げて歩くときの重さが気にならない。足運びも安定していて、段差を踏むときに迷いがない。

(《成長》……確実に効いてるな)

 意識して力を込めているわけではない。
 それでも、最適な動きが自然と選ばれている感覚がある。

 ギルドの扉を押し開けると、いつもの喧騒が迎えてきた。
 受付カウンターにいたミィナが、すぐにライトに気づく。

「ライトさん、おはようございます!」

「おはようございます」

 ライトが軽く会釈すると、ミィナの視線はすぐに肩へ向いた。

「あっ……ミリュウちゃん、おはよう」

「ミュー」

 ミリュウは少し得意げに胸を張り、ミィナの方へ顔を向ける。
 それを見て、ミィナがふふっと笑った。

「元気そうですね。今日はどうされましたか?」

「依頼を確認したくて。それと、昨日の討伐の報告もあります」

「分かりました。少し待ってくださいね」

 依頼板から数枚の紙を抜き取り、ミィナは説明を始めた。
 街道沿いでの魔獣出没。小規模だが、最近数が増えているらしい。

「この辺りの依頼なら、ライトさんなら問題ないと思います。ただ……」

「ただ?」

「ここ数日、同じ種類の魔獣なのに、動きが微妙に違うという報告があって」

 その言葉に、ライトの意識が一段階引き締まる。

「違う、というのは?」

「連携を取るような動きをした、とか。普通ならありえない動きだそうです」

 ミリュウが小さく「ミリュ」と鳴いた。
 まるで警戒するような低い声だった。

「……分かりました。受けます」

「ありがとうございます。気をつけてくださいね」

 ギルドを出て、街道へ向かう途中。
 森が近づくにつれ、空気が少しずつ変わっていく。

「ミリュウ、何か感じるか?」

「リュ……」

 短く鳴いて、ミリュウは前方をじっと見つめた。

 街道から少し外れた場所で、ライトは足を止める。
 踏み荒らされた痕跡。地面に残る爪跡。

《痕跡を記録しました》

 視界に浮かぶ文字と同時に、頭の中に情報が流れ込む。
 数。動線。間隔。

(……三体。距離は近い)

 直後、茂みが揺れた。

 スラッグウルフが姿を現す。
 昨日と同じ種類だが、目の動きが違う。

《敵性魔獣を記録しました》

 ミリュウが肩の上で身を低くした。

「大丈夫だ。すぐ終わらせる」

 ライトが一歩踏み出した瞬間、スラッグウルフが同時に動いた。
 二体が正面から。残り一体が、少し遅れて側面へ回る。

(……やっぱり連携してる)

 だが、慌てることはなかった。

《攻撃パターンを記録しました》

 視界が研ぎ澄まされる。
 踏み込みの角度、牙の軌道、次に来る動き。

 身体が自然に動いた。

 正面の一体を最小限の動きでかわし、剣を横に振る。

「斬撃強化」

 昨日よりも、明らかに軽い。
 剣先がぶれず、狙った位置を正確に切り裂いた。

《斬撃強化(小)の熟練度が上昇しています》

(……来たな)

 間を置かず、二体目が飛びかかる。
 ライトは踏み込み、体重を乗せて振り下ろした。

 今度は、感触が違った。

《斬撃強化(中)に進化しました》

 一瞬、剣に乗る重みが増す。
 斬撃は深く、確実に魔獣を仕留めた。

「……っ」

 自分でも驚くほど、自然だった。

 残った一体が後退する。
 だが、逃がす気はない。

「終わりだ」

 踏み込み、迷いなく剣を振るう。
 三体目も倒れ、森は静けさを取り戻した。

 ライトは剣を収め、息を整える。

(使えば使うほど、積み重なっていく……)

 努力が、そのまま力になる感覚。
 それは、かつて勇者パーティにいた頃には決して得られなかったものだった。

「ミリュウ、どうだった?」

「ミリュ!」

 嬉しそうに鳴き、ミリュウはライトの頬に頭を擦りつける。

「はは、分かった分かった」

 その仕草に、自然と笑みがこぼれた。

 ギルドへ戻ると、ミィナがすぐに駆け寄ってくる。

「無事だったんですね!」

「はい。問題ありませんでした」

「よかった……あ、ミリュウちゃんも元気そう」

「ミュー」

 報告を終え、カウンターを離れるとき。
 周囲の冒険者たちの視線が、以前とは違うことにライトは気づいていた。

(……少しずつ、だな)

 確実に前へ進んでいる。
 誰かの後ろではなく、自分の足で。

 ライトは肩の重みを確かめるように歩き出した。

(次は……もっと強い相手でも大丈夫だ)

 その確信が、胸の奥で静かに根を張っていた。
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