追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.

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第35話

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 洞窟の奥へ進むにつれ、足音がやけに大きく響くようになった。

 天井は低く、壁は湿っている。水滴が落ちる音が、一定の間隔で耳に残った。先ほどまでのぬかるみは消え、代わりに硬い岩肌がむき出しになっている。

「さっきの連中……ここに棲んでる魔獣じゃないな」

 ライトは周囲を警戒しながら歩く。

 あの泥の魔獣たちは、洞窟そのものと溶け合っていた。自然発生というより、何かの影響を受けて変質したように思える。

 ミリュウが肩の上で、落ち着かない様子で身じろぎした。

「ミリュ……」

「分かってる。まだ、終わってない」

 その直後だった。

 カン、と乾いた音が洞窟に響いた。

 金属が擦れ合うような、不自然な音。

 ライトは足を止め、剣を構える。

「……人の気配?」

 洞窟の奥、曲がり角の向こうで、影が揺れた。

 次の瞬間、何かが飛んでくる。

 反射的に身を捻る。

 肩口をかすめて、細長い刃が岩壁に突き刺さった。

「投げナイフ……?」

 魔獣じゃない。

 人間だ。

 ライトは息を潜め、壁に背をつけた。

 足音が近づいてくる。複数だ。

 やがて、曲がり角から三つの影が姿を現した。

 全身を黒い外套で覆い、顔は見えない。だが、その動きには迷いがなく、明らかに戦い慣れている。

「……冒険者、じゃないな」

 武装は軽く、動きは静か。討伐目的の集団ではない。

 外套の一人が、低い声で言った。

「いたぞ。まだ生きてる」

「単独か?」

「……竜を連れてる」

 視線が、ミリュウに向く。

 ミリュウが小さく唸った。

「ミュー……」

 ライトは一歩、前に出た。

「ここは俺が調査で入ってる場所だ。用がないなら引き返してくれ」

 一瞬の沈黙。

 次の瞬間、外套の男が笑った。

「調査? こんな奥までか?」

「しかも竜付きだ。運がいい」

 嫌な視線だった。

 獲物を見る目。

 ライトは剣を構え直す。

「……目的は何だ」

「それを教える義理はないな」

 言い終わるより早く、二人が左右に散開する。

 速い。

 同時に、背後から気配。

「っ!」

 岩壁を蹴り、前に飛び出す。

 背中を掠める風。刃が空を切る音。

 ライトは着地と同時に振り向き、剣を振る。

 金属音が響き、相手の短剣を弾いた。

「ほう……」

 相手が一瞬、驚いたように動きを止める。

 その隙を逃さず、ライトは踏み込む。

 剣は重い。だが、動きは迷わない。

 身体が自然と、最適な距離を選んでいる。

 相手が後退し、もう一人が援護に入る。

 投げナイフ。

 ライトは足を止めず、岩を盾にしてやり過ごす。

 洞窟の構造が、頭の中で立体的に把握できていた。

(……見えてる)

 以前なら、ただの暗闇だったはずの空間。

 今は、どこに立てばいいか、どこが危険かが分かる。

 ミリュウが、ライトの肩から跳び、空中で小さく鳴いた。

「ミリュ!」

 視線を向けると、天井付近に、細い亀裂が走っている。

 水滴が溜まり、今にも落ちそうだ。

「……なるほど」

 ライトは一歩、後ろへ下がる。

 敵が追ってくる。

 その瞬間、剣を岩壁に突き立て、強く蹴った。

 ガン、という音とともに、天井の一部が崩れる。

 水と小石が降り注ぎ、敵の動きを一瞬止めた。

「ちっ……!」

 完全な隙。

 ライトは一人に斬りかかり、外套を裂いた。

 中身は、人間だ。

 だが、ただの冒険者ではない。

 相手は歯を食いしばり、後退する。

「……やっぱり、噂通りか」

「何の噂だ」

「この辺りで、変な動きをする冒険者がいるって話だ」

 別の男が、低く笑った。

「竜を連れて、洞窟の奥を一人で進む奴がな」

 嫌な予感が、胸を掠める。

「……誰に頼まれた」

「さてな」

 男たちは距離を取り、再び構え直した。

 まだ終わらない。

 だが、さっきまでとは違う。

 ライトは、はっきりと感じていた。

 この相手たちは、ただの通り魔じゃない。

 自分を狙っている。

 ミリュウが、ライトの胸元に戻り、小さく鳴いた。

「リュリュ……」

「大丈夫だ。離れない」

 ライトは剣を握り直し、深く息を吸う。

 洞窟の奥で、何かが動いている。

 それが敵なのか、それとも――。

 緊張が張りつめる中、ライトは一歩、踏み出した。
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