追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.

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第62話

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 川沿いへ向かう道は、昼でも人通りが少なかった。荷車は街道を使い、歩きの行商も避ける区間だ。湿った土の匂いが濃く、風が通るたびに草が倒れる。水音は近い。流れは穏やかだが、幅がある。

 ライトは先頭を歩かない。アリアが半歩前に出て、左右を確認する。リオナは後方を警戒し、フィーナは川側へ意識を伸ばしていた。ミリュウは肩で身を低くしている。

「倉庫群は、この先だ」

 アリアが指で示す。木立の向こうに、低い屋根がいくつも並んでいるのが見えた。廃棄された資材置き場だ。壁は朽ち、窓は塞がれている。

 足を止める。

 気配が多い。

 数だけじゃない。上下に散っている。川の対岸、屋根の上、倉庫の影。視線が重なる。

 リオナが息を詰める。

「……張ってる」

 答えは短い。

「正面から行く」

 ライトはそう言って、一歩踏み出した。

 次の瞬間、川面が跳ねた。

 水が弾け、細い線となって飛ぶ。

 ライトは剣を抜き、斜めに踏み込む。

「《斬撃強化(中)》」

 刃が水線を断ち、飛沫が散る。だがそれは合図だった。

 左右から影が動く。

 屋根の上から風が落ちる。切り裂く流れ。

 ライトは足を止めず、地面を蹴る。

「《ウィンドLv2》」

 身体が流れに乗り、風の芯を外す。裂けた空気が背後を抜けた。

 同時に前方、倉庫の影から火が走る。

 リオナが即座に反応する。

「ファイアランス」

 細く圧縮された炎が直線を描き、詠唱を始めた敵を貫いた。倒れた影の向こうで、別の魔導具が光る。

 地面が揺れた。

 水が集まり、足場を崩しに来る。

 フィーナが前に出る。

 地に触れ、静かに力を流す。

 ぬかるみが固まり、踏み込める。

 アリアが跳ぶ。

「行くぞ!」

 刃が閃き、近接の一人を叩き落とす。鎧の継ぎ目を正確に狙い、深く踏み込まない。倒れた敵は動かない。

 川側から新たな影。

 杖を構え、水を引き上げる動き。

 ライトは間合いに入る。

「《ウォーターLv1》」

 掌から放った水が相手の視界を塞ぐ。瞬間、距離を詰める。

「《身体強化Lv1》」

 踏み込みが強くなる。剣が振り抜かれ、杖が弾き飛ばされた。

 敵は退く。だが逃げない。

 合図が飛ぶ。

 屋根の上、さらに奥。

 重い足音。

 鎧が違う。さっきまでの斥候とは別だ。

 前に出てきたのは、黒い外套の男。装備は簡素だが、視線が鋭い。

「……ここまで来るとはな」

 声は低い。

 リオナが小さく舌打ちする。

「指揮役ね」

 男は笑わない。

「勇者どもが嗅ぎ回ってる。時間はない」

 その言葉に、ライトの視線が一瞬だけ動く。

 川向こう。

 気配が増えた。

 別の集団が近づいている。

 アリアが言う。

「挟まれるぞ」

「分かってる」

 ライトは前へ出る。

 逃がさない。

 男が手を上げる。

 水と風が同時に動く。

 複合。

 ライトは息を吸う。

「《ウィンドLv2》」

 横へ流す。

「《ウォーターLv1》」

 芯をずらす。

 完全には防げない。衝撃が来る。だが足は止まらない。

 リオナが続く。

「フレイムボール!」

 爆ぜる炎が、男の集中を切った。

 その瞬間、アリアが踏み込む。

 一撃。

 男は後退する。即座に撤退の合図。

 倉庫群に霧が広がる。

 気配が散った。

 ライトは追わない。

 川向こうから、別の足音が近づいている。

 鎧の重さが違う。

 規律のある歩き。

 見覚えのある気配。

 カイルだ。

 勇者パーティが、川を越えてくる。

 ライトは剣を収めない。

 視線だけを向ける。

 交差する一瞬。

 言葉はない。

 だが、互いに理解していた。

 ここからは、別の戦いになる。

 背後で、フィーナが静かに息を整える。

 リオナが杖を構え直す。

 アリアが笑う。

「……面倒だな」

「上等だ」

 ライトは前を向いた。

 川の音が、少しだけ大きくなった。
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