追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.

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第63話

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 夜明け前、川沿いの霧は低く、重かった。

 水面に近いほど冷気が溜まり、足元の石は濡れて滑りやすい。ライトは剣を低く保ち、歩幅を詰めすぎないよう注意しながら進んでいた。背後にはアリア、少し離れてリオナとフィーナ。ミリュウは肩で静かに息を潜めている。

「……音が消える」

 アリアが低く告げた。

 川のせせらぎが、一定の地点で途切れている。自然に起きる減衰じゃない。流れそのものが、どこかで遮られている。

「堰か、装置だな」

 ライトは足を止め、前方の闇を見据えた。

 霧の向こう、川幅が急に狭まる場所に、黒い影が見える。岩を組んだ簡易の堰。その中央に、金属製の柱が立っていた。表面には細い溝が走り、淡く光が脈打っている。

「魔導具ね」

 リオナが小声で言う。

「水を集めて、変換してる。……嫌な作り」

 フィーナが一歩前に出た。目を閉じ、川辺の草に指先を触れる。

「生きものが、近づいていません。ここは……奪う場所です」

 奪う、という言葉が引っかかった。

 その瞬間だった。

 金属柱の根元が、強く光った。

 次いで、空気が震える。

 ――バチリ。

 乾いた破裂音が霧を裂き、次の瞬間、川面を這うように光が走った。

「雷……!」

 リオナが声を上げるより早く、閃光が跳ねた。

 ライトは反射的に剣を振るが、間に合わない。白い線が視界を横切り、肩口から胸元へ走る。衝撃。痺れ。呼吸が一瞬止まる。

 足元の石が弾け、火花が散った。

「っ……!」

 身体が強張る。だが倒れない。踏みとどまった瞬間、胸の奥で何かが弾けた。

《サンダーLv1》を獲得。

 熱と痺れが、ただの痛みとして消えなかった。流れとして、形として残る。雷は叩きつけるものじゃない。走らせるものだ。どこを通り、どこで逃がすか。その感覚が、骨の内側に刻まれた。

「ライト!」

「平気だ」

 短く答え、前へ出る。

 霧の中から、影が現れた。

 鎧姿が三人。川底に足を固定し、金属柱と同じ紋様の入った武具を持っている。中央の一人が、短く命じた。

「排除」

 言葉はそれだけ。

 次の瞬間、左右から雷が走る。一本じゃない。網のように、逃げ場を塞ぐ軌道。

 ライトは剣を構え、踏み込む。

「《ウィンドLv2》」

 足元から風が噴き上がり、身体を押し出す。雷が空を切り、背後で地面を穿った。間合いに入る。

「《斬撃強化(中)》」

 剣が横一線に走り、鎧の継ぎ目を叩く。火花。相手が体勢を崩す。

 だが、残りの二人が同時に杖を振る。

 川の水が跳ね上がり、雷を帯びる。

「水と合わせて……!」

 リオナが即座に動いた。

「ファイアランス!」

 炎の槍が飛び、水面を突き抜ける。蒸気が爆ぜ、視界が一瞬白く染まる。

 その隙を逃さず、アリアが踏み込んだ。

「遅い!」

 一閃。鎧の一人が吹き飛び、川辺に叩きつけられる。

 フィーナが両手を広げる。

 川辺の草がざわめき、淡い光が灯る。傷を負ったアリアの肩に、柔らかな温もりが戻る。

 中央の鎧が、低く唸った。

「……想定より、早い」

 再び雷が集まる。今度は一点集中。避けきれない軌道。

 ライトは剣を下げ、掌を前に出した。

「《サンダーLv1》」

 走らせる。叩き返すんじゃない。流れを合わせ、逸らす。

 雷と雷が触れた瞬間、音が消えた。

 次の瞬間、中央の鎧が弾かれる。制御を失った魔力が逆流し、膝をついた。

 ライトは迷わず踏み込む。

「《斬撃強化(中)》」

 剣が振り下ろされ、武具を叩き割る。

 残った一人は、即座に後退した。堰の裏へ飛び、霧の向こうへ姿を消す。

 追わない。

 ライトは金属柱へ向き直り、剣で基部を叩いた。ひびが入り、光が途切れる。川の流れが、音を取り戻した。

 静寂。

 リオナが息を吐く。

「……雷、もう使いこなしてたわね」

「使われたからな」

 それ以上は言わない。

 アリアが川を見下ろす。

「これで終わりじゃないな」

「ああ」

 ライトは剣を収めた。

 水、風、雷。

 敵はもう、こちらを試す段階を越えている。

 そして――それは向こうも同じだ。

 霧の向こうで、誰かがこちらを見ている気配がした。

 川の音が、再び強くなる。

 夜明けは、近い。
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