追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.

文字の大きさ
65 / 69

第65話

しおりを挟む
 朝のギルドは、思ったよりも騒がしかった。
 まだ日が高くない時間だというのに、ホールには人が多い。夜明け前の騒動が、すでに街中に伝わっているのだろう。冒険者たちの声が低く混じり合い、落ち着かない空気が漂っていた。

 ライトは扉を開けると同時に、いくつもの視線を感じた。
 肩のミリュウが小さく鳴き、周囲を見回す。

「ミリュ……」

「気にするな」

 短く声をかけ、カウンターへ向かう。

 ミィナはすぐに気づいた。表情が一瞬だけ引き締まり、すぐ奥へ声をかける。

「ギルドマスター、ライトさんたちです」

 数呼吸も待たず、グランが姿を見せた。

「戻ったか」

「はい。川沿いで交戦しました」

 簡潔に伝える。
 数、位置、相手の動き。余計な感想は挟まない。

 グランは地図を広げ、指で川の線をなぞった。

「水路を使って探りを入れてきたか。想定より早いな」

「相手の動きも変わってきてます」

 アリアが腕を組む。

「引き際が綺麗だった。前より判断が速い」

「学習している、ということだ」

 グランの声は低い。

「だが、それはこちらも同じだ」

 視線がライトに向く。

「動き、どうだった」

「問題ありません」

 そう答えた瞬間、グランはわずかに目を細めた。

「……違うな。問題ない、じゃない。余裕が出ている」

 ライトは否定しなかった。

 事実だからだ。

 踏み込み。受け身。剣を振るう軌道。
 戦闘中、迷いが減っている。判断に余白がある。

「今日の依頼は一旦保留だ」

 グランは地図を畳む。

「今は個別対応より、線で動く必要がある。連中は街道、水路、集落を点で繋ぎ始めている」

「……包囲網か」

 リオナが呟く。

「近いな」

 グランは頷いた。

「だから、お前たちには少し違う仕事を頼む」

 その言葉に、空気が引き締まる。

「街道北。廃れた採石場がある。最近、人の出入りが増えた」

「罠の匂いがしますね」

 フィーナが静かに言った。

「分かっている」

 グランは迷いなく続ける。

「だが、放置もできん。様子見でいい。深入りはするな」

「了解しました」

 ライトは一礼した。

 ギルドを出ると、街はすっかり朝だった。
 露店が並び、人の声が増え、昨日までの不穏さが嘘のように見える。

 だが、足を止めた瞬間、ライトは違和感を覚えた。

 呼吸が、楽だ。

 重さがない。
 剣を腰に下げていても、身体の芯が安定している。

 宿へ戻る途中、アリアがちらりとこちらを見る。

「……なんか、立ち方変わったな」

「そうか?」

「前より、地に足がついてる」

 言われて、気づく。

 無意識に、重心が低い。
 剣を振るうときの構えと、歩くときの姿勢が自然と繋がっている。

 部屋に戻り、荷を整える。
 ミリュウをベッドに下ろすと、小さく丸くなった。

「ミリュ」

「すぐ戻る」

 短く告げ、椅子に腰を下ろす。

 剣を膝に置き、柄に触れた瞬間だった。

 手応えが、変わった。

 重いのに、扱いやすい。
 刃の先まで、意識が通る。

 息を整え、ゆっくりと立ち上がる。

 小さく剣を振る。

 空を切る音が、以前より澄んでいた。

 もう一度。

 踏み込み、腰を入れ、刃を走らせる。

 違和感はない。
 むしろ、余計な力が抜けている。

 ライトは剣を収めた。

 胸の奥に、静かな確信がある。

 今日の戦いで、何かが積み重なった。
 派手な変化じゃない。だが、確実に前へ進んでいる。

 扉の外で、リオナの声がした。

「準備、できた?」

「ああ」

 アリアが笑う。

「面倒な場所ほど、早めに見ておいた方がいい」

 フィーナは静かに頷いた。

「気配が、集まっています」

 ライトは扉を開ける。

 外は快晴だった。

 だが、北へ向かうほど、空はわずかに曇っていく。

「行こう」

 短く告げ、歩き出す。

 剣の重さを感じながら、それでも足取りは軽かった。

 まだ見えない敵が、確実にこちらを見ている。
 だが、今のライトは知っている。

 追われるだけの立場では、もうない。

 次に刃を交えるとき、
 その差は、はっきりと形になる。

 その予感だけを胸に、ライトは街道へ踏み出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ

天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。 彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。 「お前はもういらない」 ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。 だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。 ――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。 一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。 生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!? 彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。 そして、レインはまだ知らない。 夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、 「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」 「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」 と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。 そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。 理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。 王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー! HOT男性49位(2025年9月3日0時47分) →37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)

スキル【ファミレス】を使っていたら伝説になりました。

キンモクセイ
ファンタジー
スキル「ファミレス」を手にした。 ハズレスキルかと思い、主人公の思うがまま行動している。 そんな時に1人の少女と出会い、運命が変わる。

【完結】料理人は冒険者ギルドの裏で無双します

vllam40591
ファンタジー
東京の超一流レストランで命を削り、ついには過労死してしまった天才料理人・椎名栄作(29歳)。目を開けば、そこは魔法と魔物が存在する異世界「アストラル大陸」だった。 偶然にも毒蜘蛛に噛まれた少年を救ったことで、栄作は自分に特殊能力「味覚分析」が宿っていることを知る。触れるだけで食材の全てを理解し、その潜在能力を引き出せるこの力は、異世界の食材にも通用した。 石造りの町アーケイディアで冒険者ギルドの料理人として雇われた栄作は、やがて「料理魔法師」という稀有な存在だと判明する。「魔物肉」や「魔法植物」を調理することで冒険者たちの能力を飛躍的に高める彼の料理は評判となり、ギルドの裏で静かに"伝説"が生まれ始めていた。 「この料理、何か体が熱くなる…力が溢れてくる!」 「あのシェフのおかげで、SS級の討伐クエストを達成できたんだ」 戦うことなく、ただ料理の力だけで冒険者たちを支える栄作。 しかし古き予言の主人公「料理で世界を救う者」として、彼は「死食のカルト」という邪悪な組織と対峙することになる。 鍋と包丁を武器に、料理精霊を味方につけた栄作は、最高の一皿で世界の危機に立ち向かう。 現代で認められなかった料理人が、異世界で真価を発揮し「グランドシェフ」として成長していく姿を描いた、笑いと感動と食欲をそそる異世界美食ファンタジー。

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。

アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚… スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。 いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて… 気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。 愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。 生きていればいつかは幼馴染達とまた会える! 愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」 幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。 愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。 はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?

兄が【剣聖】、妹は【聖女】になった双子の転生者はのんびり冒険者やってます♪

雪奈 水無月
ファンタジー
「兄は剣聖、妹は聖女──でも、転生理由は女神の“うっかり”でした。」 平凡な放課後が、空に走る黒い亀裂で終わりを告げる。 与えられたのは最強の力と、新しい世界イングレイスでの第二の人生。 しかし、転生直後に待っていたのは──濃い霧と、不気味な視線。 手を離したら、もう二度と会えない。 これは、剣と癒しで道を切り拓く兄妹の冒険の始まり。

異世界で目が覚めたら目の前で俺が死んでました。この世界でオリジナルの俺はとっくに死んでたみたいです

青山喜太
ファンタジー
主人公桜間トオル17歳は家族との旅行中、車の中ではなく突然なんの脈絡もなく遺跡の中で目が覚めてしまう。 混乱する桜間トオルの目の前にいたのは自分と瓜二つ、服装さえ一緒のもう一人の桜間トオルだった。 もう一人の桜間トオルは全身から出血し血を吐きながら、乞う。 「父さんと、母さん……妹をアカリを頼む……!!」 思わず、頷いた桜間トオルはもう一人の自分の最後を看取った。 その時、見知らぬ声が響く。 「私のことがわかるか? 13人の桜間トオル?」 これはただの高校生である桜間トオルが英雄たちとの戦争に巻き込まれていく物語

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
*読者のみなさま  この作品をお読みいただきありがとうございました。こちらの作品は1月10日12時をもって非公開とさせていただきます。 『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

スキル【幸運】無双~そのシーフ、ユニークスキルを信じて微妙ステータス幸運に一点張りする~

榊与一
ファンタジー
幼い頃の鑑定によって、覚醒とユニークスキルが約束された少年——王道光(おうどうひかる)。 彼はその日から探索者――シーカーを目指した。 そして遂に訪れた覚醒の日。 「ユニークスキル【幸運】?聞いた事のないスキルだな?どんな効果だ?」 スキル効果を確認すると、それは幸運ステータスの効果を強化する物だと判明する。 「幸運の強化って……」 幸運ステータスは、シーカーにとって最も微妙と呼ばれているステータスである。 そのため、進んで幸運にステータスポイントを割く者はいなかった。 そんな効果を強化したからと、王道光はあからさまにがっかりする。 だが彼は知らない。 ユニークスキル【幸運】の効果が想像以上である事を。 しかもスキルレベルを上げる事で、更に効果が追加されることを。 これはハズレと思われたユニークスキル【幸運】で、王道光がシーカー界の頂点へと駆け上がる物語。

処理中です...