追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.

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第66話

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 夜明け前の森は、音が少ない。
 風が枝を揺らす音も、遠くの獣の気配も、すべてが薄く引き延ばされたように感じられる。

 ライトは歩きながら、足元の感触を確かめていた。落ち葉を踏んだときの沈み込み、湿った土の反発、斜面に差しかかったときの重心移動。そのどれもが、以前より遅れなく体に返ってくる。

 アリアが先頭で足を止め、拳を軽く握った。

「前。三……いや、四」

 リオナは即座に杖を持ち替える。
 フィーナは一歩下がり、周囲の木々に指先を触れた。

 霧が低く流れ、視界を削る。
 その中から、鈍い金属音が混じった足音が近づいてきた。

 人影が現れる。
 外套を纏った者が二人。
 その背後、やや離れた位置に、革鎧の男が一人。

 全員が武器を抜く前に動いたのは、相手だった。

 外套の一人が腕を振る。
 小さな光が弧を描く。

 ライトは剣を引き、半歩踏み出す。

「《斬撃強化(中)》」

 刃が空を裂き、投げられた刃を弾き落とす。
 同時に距離を詰め、外套の男の懐へ踏み込んだ。

 反撃。
 短剣が脇腹を狙う。

 ライトは体を捻り、受け流す。
 足が滑らない。
 踏み込みが遅れない。

 剣を振り抜く。

 布が裂け、相手が後退する。

 背後から風が来た。

 切り裂くような圧。
 木々が一斉に揺れる。

 ライトは即座に向きを変える。

「《ウィンドLv2》」

 風をぶつけるのではなく、流れをずらす。
 圧が横へ逸れ、幹を削って霧に消えた。

 革鎧の男が舌打ちし、魔導具を掲げる。

 次の瞬間、熱が走った。

 直線的な炎。
 槍の形をした火。

 ライトは剣を引かず、掌を前に出す。

「《ファイアLv1》」

 炎が正面からぶつかり、火花が散る。
 勢いは相殺され、地面に焦げ跡だけが残った。

 その横から、リオナが踏み出す。

「フレイムボルト」

 小さく圧縮された火が連続して飛び、外套の一人を牽制する。
 相手が身を伏せた瞬間、アリアが間合いを詰めた。

「遅い!」

 一撃。
 鋭い斬撃が相手の足を払う。

 倒れた影に追撃はしない。
 もう一人が距離を取る。

 革鎧の男が再び魔導具を構えた。
 今度は水。

 地面に溜まった湿り気が集まり、刃となって飛ぶ。

 ライトは避けず、踏み込む。

「《ウォーターLv1》」

 水を放つ。
 正面から叩き潰すのではなく、相手の刃の軌道を乱す。

 刃が崩れ、霧となる。

 距離が詰まった。

 ライトは剣を振る。

「《斬撃強化(中)》」

 刃が鎧の継ぎ目を叩き、男が後退する。

 その瞬間、身体に負荷がかかる。
 踏み込み、捻り、連続した動作。

 だが止まらない。

《斬撃強化(大)を獲得。》

 ライトは何も言わず、動きを続けた。

 剣の振りが、わずかに深く入る。

 革鎧の男が撤退を選ぶ。
 合図もなく、外套の男と同時に森へ消えた。

 静寂が戻る。

 アリアが剣を収める。

「ちっ、逃げ足だけはいい」

 リオナが息を整え、杖を下ろした。

「魔導具、粗いけど連携は悪くないわね」

 フィーナが周囲を見渡し、小さく頷く。

「……追っていない。今は、引いてる」

 ライトは剣を鞘に収めた。
 腕に熱が残っている。
 だが動きに支障はない。

 ミリュウが肩で小さく鳴いた。

「ミリュ」

「大丈夫だ」

 短く答える。

 森の奥で、別の気配が動いた。
 直接は来ない。
 だが、見られている感覚は消えていなかった。

 勇者パーティ。
 それとも、別の何か。

 ライトは足を止めず、仲間たちと進む。

 止まる理由は、もうなかった。
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