追放されたお荷物記録係、地味スキル《記録》を極めて最強へ――気づけば勇者より強くなってました

KABU.

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第65話

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 朝のギルドは、思ったよりも騒がしかった。
 まだ日が高くない時間だというのに、ホールには人が多い。夜明け前の騒動が、すでに街中に伝わっているのだろう。冒険者たちの声が低く混じり合い、落ち着かない空気が漂っていた。

 ライトは扉を開けると同時に、いくつもの視線を感じた。
 肩のミリュウが小さく鳴き、周囲を見回す。

「ミリュ……」

「気にするな」

 短く声をかけ、カウンターへ向かう。

 ミィナはすぐに気づいた。表情が一瞬だけ引き締まり、すぐ奥へ声をかける。

「ギルドマスター、ライトさんたちです」

 数呼吸も待たず、グランが姿を見せた。

「戻ったか」

「はい。川沿いで交戦しました」

 簡潔に伝える。
 数、位置、相手の動き。余計な感想は挟まない。

 グランは地図を広げ、指で川の線をなぞった。

「水路を使って探りを入れてきたか。想定より早いな」

「相手の動きも変わってきてます」

 アリアが腕を組む。

「引き際が綺麗だった。前より判断が速い」

「学習している、ということだ」

 グランの声は低い。

「だが、それはこちらも同じだ」

 視線がライトに向く。

「動き、どうだった」

「問題ありません」

 そう答えた瞬間、グランはわずかに目を細めた。

「……違うな。問題ない、じゃない。余裕が出ている」

 ライトは否定しなかった。

 事実だからだ。

 踏み込み。受け身。剣を振るう軌道。
 戦闘中、迷いが減っている。判断に余白がある。

「今日の依頼は一旦保留だ」

 グランは地図を畳む。

「今は個別対応より、線で動く必要がある。連中は街道、水路、集落を点で繋ぎ始めている」

「……包囲網か」

 リオナが呟く。

「近いな」

 グランは頷いた。

「だから、お前たちには少し違う仕事を頼む」

 その言葉に、空気が引き締まる。

「街道北。廃れた採石場がある。最近、人の出入りが増えた」

「罠の匂いがしますね」

 フィーナが静かに言った。

「分かっている」

 グランは迷いなく続ける。

「だが、放置もできん。様子見でいい。深入りはするな」

「了解しました」

 ライトは一礼した。

 ギルドを出ると、街はすっかり朝だった。
 露店が並び、人の声が増え、昨日までの不穏さが嘘のように見える。

 だが、足を止めた瞬間、ライトは違和感を覚えた。

 呼吸が、楽だ。

 重さがない。
 剣を腰に下げていても、身体の芯が安定している。

 宿へ戻る途中、アリアがちらりとこちらを見る。

「……なんか、立ち方変わったな」

「そうか?」

「前より、地に足がついてる」

 言われて、気づく。

 無意識に、重心が低い。
 剣を振るうときの構えと、歩くときの姿勢が自然と繋がっている。

 部屋に戻り、荷を整える。
 ミリュウをベッドに下ろすと、小さく丸くなった。

「ミリュ」

「すぐ戻る」

 短く告げ、椅子に腰を下ろす。

 剣を膝に置き、柄に触れた瞬間だった。

 手応えが、変わった。

 重いのに、扱いやすい。
 刃の先まで、意識が通る。

 息を整え、ゆっくりと立ち上がる。

 小さく剣を振る。

 空を切る音が、以前より澄んでいた。

 もう一度。

 踏み込み、腰を入れ、刃を走らせる。

 違和感はない。
 むしろ、余計な力が抜けている。

 ライトは剣を収めた。

 胸の奥に、静かな確信がある。

 今日の戦いで、何かが積み重なった。
 派手な変化じゃない。だが、確実に前へ進んでいる。

 扉の外で、リオナの声がした。

「準備、できた?」

「ああ」

 アリアが笑う。

「面倒な場所ほど、早めに見ておいた方がいい」

 フィーナは静かに頷いた。

「気配が、集まっています」

 ライトは扉を開ける。

 外は快晴だった。

 だが、北へ向かうほど、空はわずかに曇っていく。

「行こう」

 短く告げ、歩き出す。

 剣の重さを感じながら、それでも足取りは軽かった。

 まだ見えない敵が、確実にこちらを見ている。
 だが、今のライトは知っている。

 追われるだけの立場では、もうない。

 次に刃を交えるとき、
 その差は、はっきりと形になる。

 その予感だけを胸に、ライトは街道へ踏み出した。
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