最弱スキル《リサイクル》で世界を覆す ~クラス追放された俺は仲間と共に成り上がる~

KABU.

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第四章:「大陸統一戦争」

第44話:炎帝の再会

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 戦いの翌朝、ラグナ平原にはまだ焼けた匂いが残っていた。
 黒く煤けた土が霜柱みたいに割れて、風が通るたび細かな灰が舞い上がる。
 蓮は片膝をつき、掌を大地へ。淡い緑光がひび割れを縫い合わせ、炭化した層の下から生き土を引き上げる。
 「……水脈、繋がった。これで植生が戻る」
 「よし」リアが尻尾を振り、肩で息をする獣人たちに短く指示を飛ばす。「苗床、こっちへ運べ!」
 セリナは魔導具に記録を刻んでいた。「再生範囲、南西ブロック完了。……けれど蓮、魔力の減衰が早いわ。昨日からの連続稼働、身体の芯まで使ってる」
 蓮は小さく頷く。「無理はしない。今日は“基礎”だけやる」
 リアが片耳をぴくりと立てた。「なぁ、さっきから風が熱い」
 言われて、蓮も気づく。土の焼ける匂いではない、生の炎の温度。空気の層が遠くで揺れている。

 地平に、赤い筋が走った。朝焼けより深い、血のような色。
 セリナが魔眼を開く。「炎素の濃度、異常。……あれは“人の炎”じゃない」
 「いや、あれは――」蓮は目を細める。「真司、か」



 歩いてくる火柱は、人の形をしていた。
 焔を縫い込んだ鎧、焦げ跡に滲む金の瞳。炎が肌の上を泳いでいるのに、焦げ臭さはない。精練された熱だ。
 「久しぶりだな、蓮」
 声は乾いて、やけに懐かしい。
 「真司」蓮は立ち上がった。「ここはもう戦場じゃない。俺たちは――」
 「知ってるさ。“再生同盟”。壊れたもんを直して、捨てられたもんを拾い上げる旗」
 真司は鼻で笑う。「綺麗だな。けど、綺麗なだけの旗は風に破れる」

 リアが一歩前へ。「用件は?」
 「確認だ。お前らの掲げる“再生”が、俺の炎で焼いても立っていられるか」
 セリナの杖先に微かな光。「……話し合いで済むのなら」
 「話は昨日、十分した。俺は拳で確かめるタイプだ」

 リアが獣の目で睨む。「ここで暴れる気か、あんた」
 「暴れるんじゃない。“確かめる”んだよ、狼娘」

 蓮は深く息を吸い、短く言った。「いい。だが条件がある。周囲二百歩、民間人の退避が完了するまで待て」
 真司は肩をすくめ、拳を下ろす。「三十呼吸くれ。待つ」
 リアが舌打ちしつつ走る。「全員下がれ! ここから外輪へ!」
 セリナが光壁を展張し、防御陣を重ねる。「半径二百歩、結界三層。これ以上の出力は蓮の補助が要る」
 蓮は頷き、光の輪を地に刻む。「《再構成・環境制御》――熱の逃げ道、設定」

 風向きが変わる。炎が昇るべき天へと誘導され、低層は冷たい流れが巡る。
 リアが戻って親指を立てた。「準備、完了」
 真司は拳を静かに握る。炎が音を立てて収束した。「じゃあ、始めようか」



 最初の一歩は、真司が踏んだ。
 地を穿つ衝撃と同時に、拳から尾を引く火蛇が放たれる。
 「《烈環・焔走》!」
 熱が地面を走り、焼けた草が灰に変わる前に、蓮が剣を半月に振るった。
 「《リサイクル・アーク》」
 焦土片と空気中の微細金属が光の刃として再構成され、炎蛇の胴を切り裂く。ほどけた炎素は、上空へ逃がす熱路に吸い上げられた。
 「ほう」真司が目を細める。「炎の“死に方”まで管理するか」
 「燃やすのは自由だが、焼き尽くす権利はない」蓮の靴裏が土を蹴る。間合いを潰して剣を斜めに。金属と炎の火花が弾けた。

 真司の膝が跳ね、低い回し蹴りが来る。蓮は柄で受け、反発で肩を流す。反撃の肘を入れた瞬間、炎の鞘が弾け、逆に衝撃が跳ね返る。
 「《逆燃(カウンターバースト)》」
 体内で圧縮していた熱が一瞬だけ外へ噴き、物理打撃の勁力を反転させる技だ。
 蓮は一歩退きながら、焼けた袖口を見下ろした。皮膚は赤く、すぐさま再生が始まる。
セリナの声。「蓮、皮下熱が溜まってる!」
「分かってる。表層で回す」

 リアが横合いから援護に入る。「オラァ!」
 真司の肘を双剣で払い、そのまま背後へ回り込む。
 「いい目だ、狼」真司が笑い、腕を振る。「《火環・返し》」
 低く走る火輪がリアの足元を狙い、彼女はひらりと跳ねた――が、着地の瞬間に炎が噴き上がる。
 「《遅燃》を仕込んだか」セリナが即座に氷符を投げ、遅延起動した火核を凍結させる。
 蓮は二人を背で庇った。「ここは俺の勝負だ。手出しは最低限に」
 リアが歯を鳴らす。「……わかった。死にかけたらぶん殴ってでも止めるからな」



 剣と拳が、三度、四度、五度――火花を増やすたび、周囲の地形が変わった。
 砕けた石は蓮の意志で壁に、溶けた砂は真司の炎でガラスに。
 攻防の最中、真司がぽつりと呟く。「なぁ蓮。お前の《リサイクル》ってさ」
 「戦闘中の雑談か」
 「昔っから、そういうの得意だろ」
 拳が飛び、剣が受ける。ほぼ同時に、真司の声が続く。
 「壊した本人の罪は、どこへいく」
 蓮の視線が微かに揺れた。
 「物は直る。街も直る。だが、俺が燃やした命は戻らない。お前の“直す”で、俺の罪はどこへ捨てられる?」
 蓮は一拍遅れて答える。「捨てない。捨てるのをやめるために、俺はこれを選んだ」
 「なら――」真司の足元が爆ぜる。「俺ごと、拾え!」

 炎柱が立った。
 「《炎帝解放・八重焔》!」
 八重の火輪が同心円に展開し、中心へ向かって収束する重圧が空気を押し潰す。
 セリナが警告する。「重層圧縮、臨界近い! 蓮、受け止めるな!」
 蓮は剣を地へ突き、円環の陣を重ねた。
 「《再構成・環(リング)》……“抜け道”を作る」
 圧を逃がすリングが次々に出現し、八重焔の力線を上方へ偏向する。
 直撃は逸らした――だが、余剰熱がリングに蓄積する。
 「くっ……!」蓮の手の甲に焦げ色が走る。反射的に再生が起動し、皮膚が白へ戻る。
 真司の足元に爆ぜた火花。「やっぱ、本気のお前は面白ぇ!」



 呼吸が荒くなり、汗が額を伝う。
 蓮は剣を引き、肩で息をした。
 真司は逆に、炎を少し絞って間合いを測っている。互いに“次が山”だと分かっていた。
 リアが低く囁く。「蓮、あんたの目、まだ折れてないな」
 「折れるわけにはいかない。ここで折れたら、“直す”が嘘になる」
 「……上等」

 セリナが短く詠唱する。「補助結界、再展張。――蓮、最後はあなたの意志で」
 蓮は剣の鍔に指を滑らせ、刻んだ。
 「《リサイクル・コード:連結(リンク)》――破壊履歴、俺の中へ」
 戦場に残る“壊れ”の記憶が、光の糸になって集まってくる。砕けた刃、割れた盾、焼けた土、折れた誓い。
 真司が目を細める。「それ、全部背負う気か」
 「背負うためにここにいる」蓮が踏み込んだ。「終わらせるために」

 真司が吼える。「じゃあ燃やし尽くしてやるよ、全部!」
 炎が竜骨のように立ち上がり、空を噛む。
 「《炎帝・昇華(アスセンション)》!」
 蓮は剣を掲げ、環を連ねる。「《再生陣・多重環(ポリリング)》!」

 炎と光が、同時に解き放たれた。



 轟音。
 結界が悲鳴を上げ、外輪の大地が一瞬だけ白く焼ける。
 リアは腕で顔を庇いながら前へ一歩踏み出した。「蓮!」
 セリナが結界の継ぎ目へ魔力を押し込む。「持たせる……ここで落とさない!」
 中央、光と炎の核――互いの技が噛み合い、押し引きの均衡に入る。
 真司の炎は破壊そのものではない。己の内側の、燃え残った悔恨と誇りの燃料だ。
 蓮の光は修理ではない。壊れの履歴を認め、それでも繋ぎ直す意志そのものだ。

 均衡が、ほんのわずか傾いた。
 炎が一枚、光の輪を焼き切る。
 同時に、蓮の光が炎の根を一本、掴んで引き剥がす。
 「まだだ!」真司が吼え、出力を一段上げる。
 「ここで――止める!」蓮が応じ、環の回転数を上げる。
 圧が跳ね上がり、空が裂けた音がした。

 次の瞬間、核が爆ぜ――視界が白に塗り潰された。



 風だけが、先に戻ってきた。
 灰が雪のように降る中、結界の縁でリアが前のめりに走る。「蓮! 返事しろ!」
 光の靄がすっと引いて、中央に二つの影が立っているのが見えた。
 どちらも膝をついていない。まだ、立っている。
 真司の鎧は半ば剥がれ、肩口から血が垂れている。
 蓮の剣は根元でひび割れ、呼吸は荒い。だが、眼は消えていない。

 真司が口角を上げた。「――まだだろ」
 蓮も頷く。「ああ。ここからだ」

 同時に、二人が踏み込んだ。
 拳と刃がもう一度、ぶつかる――

 その瞬間、外輪の監視塔から警鐘が鳴り響いた。
 「報告! 王国の斥候隊、接近! 火刑術式を――!」
 セリナの顔色が変わる。「まずい、第三勢力の介入!」
 リアが牙を剥いた。「邪魔すんじゃねぇよ!」

 だが二人は止まらない。
 真司の拳が、蓮の胸を抉る軌道で迫る。
 蓮の剣が、真司の肘を外から払う軌道で閃く。
 次の打突で、どちらかが膝をつく――

 白光と紅焔が、視界いっぱいに弾けた。

 決着は、まだ来ていない。



 風は熱を運び、旗ははためいた。
 誰もが息を詰める中、二つの影が再び向かい合う。
 炎は萎えていない。光も弱っていない。
 戦いは続く。
 そして――結末は、次の話へ。
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