最弱スキル《リサイクル》で世界を覆す ~クラス追放された俺は仲間と共に成り上がる~

KABU.

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第四章:「大陸統一戦争」

第48話:エルフの叛乱

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 バルグの鉄臭い風が背中から離れていく。
 再生連合の旗は東へ向きを変え、緑の稜線を目指して翻った。そこがエルフ領――《エルフェリアの森》。セリナの故郷だ。



 メルディナ本営の円卓。蓮、リア、セリナ、そして各隊の指揮官たちが集う。
 報告を読み上げる伝令の声は掠れていた。「エルフェリアにて武力衝突発生。女神教会の聖印部隊が介入。一部のエルフが“秩序回復”の名目で教会側に合流」
 室内に重い沈黙が落ちる。
 蓮が短く問う。「死傷は」
 「民間人の避難路で衝突……被害拡大中です」
 セリナの指が膝上で微かに震えた。彼女は目を閉じ、しかし声は静かだった。
 「森の東門《ペリオン》と南門《ラーカ》は封鎖。西の古道だけが開いているはず。……でも、教会は“森を知らない”。地の流れを読み違えれば、森に呑まれる」
 リアが椅子を蹴るように立ち上がる。「助けに行く。……文句あるか?」
 「ない」蓮は即答した。「ただし、戦い方は変わらない。救出最優先。誰も捨てない」
 セリナが息を呑み、正面から蓮を見た。「ありがとう。……この借りは、私の命で返すわ」
 「命で返すな。帰ってきてくれればいい」



 濃い緑が空を覆う。エルフェリアの外縁に足を踏み入れた瞬間、空気の密度が変わった。土の匂いが濃い。
 「風の層が二重だ」蓮が呟く。「迷いの結界が生きてる。……セリナ、先導を」
 「任せて」
 彼女の杖先が苔の上を撫でると、枯葉が舞い、細い鹿道が自ずと姿を現した。
 リアが鼻をひくつかせる。「……火の匂い。近い」
 次の瞬間、森の奥で光がはぜた。悲鳴。甲冑の触れ合う音。矢の唸り。
 「急ぐぞ」蓮は走り出す。後衛の連合兵が続いた。

 開けた小谷に飛び出すと、そこは混沌だった。
 白銀の鎧に聖印を刻んだ教会兵が盾壁を組み、炎の聖句を唱える。対するは緑のローブを纏ったエルフ戦士たち。だが彼らの陣形は二つ――互いに矢を向け合っている。
 「内輪揉めだと……?」リアが唸る。
 セリナの横顔が強張った。「“純血派”が、教会と手を結んだの」

 蓮は合図を出す。「前線、非殺傷で押さえる。救護班は谷底へ。火の線を切る――《リサイクル・環境制御》」
 掌から広がる薄緑の陣。熱は高木の上へ誘導され、下草の水分が一斉に立ち上る。乾いた炎が湿り、舌のように弱っていく。
 「森を燃やすな。ここは“生きている」
 教会の聖騎士が怒号を飛ばす。「異端の術だ! 女神の秩序に逆らうものを討て!」
 リアが蹴り込んで盾ごと吹き飛ばした。「吠えてろ、聖職者」
 「リア、殺すな!」
 「分かってる! 手加減の達人だぞ、あたしは!」



 そのときだった。
 向かい側の樹間から、一団のエルフが姿を現した。先頭の男は金の髪、氷のように澄んだ眼差し。
 セリナが息を飲む。「……兄様」
 エルフ戦士団長、リュシオン・エルフェリア。森の守りの象徴であり、セリナを追放した本人。
 彼は高枝から飛び降り、軽やかに着地すると、妹を正面から見据えた。
 「セリナ。生きていたか」
 セリナは杖を握る手に力を込める。「どうして教会と……森を売るの」
 「我らは売らぬ。守るためだ。森は女神の園。異端を許せば、腐る」
 視線が蓮へ移る。
 リュシオンは一拍、静かに息を吸い――
 「……貴様は敵だ! 女神の秩序を壊す者よ」
 谷に緊張が満ち、矢の軋みが一斉に強くなる。

 蓮はその敵意を受け止め、ただ一言返す。「敵か味方かは、今はどうでもいい。森の命が先だ」
 リュシオンの眉がわずかに動く。
 セリナが兄の前に半歩出た。「兄様、聞いて。蓮は奪わない。“繋ぎ直す”だけよ」
 「女神の業を真似る僭越だ」
 「違う。祈りを道具にして、人を殺すのが僭越よ」
 兄妹の視線がぶつかる。森の風が止んだように感じられた。



 教会側の神官が詠唱を終えた。「《聖炎槍》!」
 白い火柱が列を成して降り、樹冠に火が走る。
 蓮は地を叩いた。「《リサイクル・換流》」
 燃焼の熱が土に吸われ、谷底の枯れ枝が湿る。火は生木に爪を立てる前に、蒸気へと姿を変えた。
 「不可侵の森を穢すな」蓮の声は低かった。
 リアが横合いから突っ込み、聖騎士の肘を正確に打ち抜く。「あんたらの相手は、私だ!」
 セリナは風の結界を広げ、民の退避路を開く。「港道《ミラス》へ! 子どもと老人を先に!」
 連合兵の担架が次々と走る。女も男も、エルフも人間も関係ない。泣き声が森に混じって細く長い道になる。

 リュシオンが見ている。硬い横顔に、微かな揺らぎ。
 「……人間を先に逃がすのか」
 セリナは振り向かない。「“誰も”先に逃がすの。――昔からそう教えられたわ。森は、弱い者のための場所だって」
 「ならば、我らは何を守ってきたのだ」
 「樹皮だけ」
 短い言葉だった。けれど、鋭かった。



 戦況が一変する。教会が後詰めを投入。重装の聖装歩兵が楔の陣で谷へ降りる。
 「押し潰される!」前線の兵が悲鳴を上げる。
 「圧を割る!」蓮が叫んだ。「セリナ、風を――リア、右から撹乱!」
 「了解!」
 セリナの詠唱。「《導風の輪(サークル・ヴェント)》!」
 谷地形に沿って風路が描かれ、聖装歩兵の重心が少しだけ上へ持ち上がる。微細な浮力――それだけで、重歩兵の足は鈍る。
 リアの双剣が音もなく走り、盾の縁を叩き落とす。
 「残念。重いほど、倒しやすいんだよ!」
 蓮は散らばる金具と折れた槍穂を回収し、掌で溶かし合わせる。「《リサイクル・編纂》!」
 瞬時に組み直されたのは、蔓のように柔軟で、衝撃で硬化する拘束具。
 「縛れ!」
 連合兵が飛びかかり、殺さずに押さえ込む。

 教会の神官長が歯噛みした。「罪なき者らよ、迷いの森より離れよ! 女神は秩序を欲する!」
 蓮が顔を上げる。「秩序のために、何人殺した?」
 神官長は言葉に詰まる。
 「答えられない秩序なら――そんなもの、俺は直す」



 火は収まりつつあった。だが、森は深い。奥から新手の気配。
 リュシオンが短く合図を出すと、純血派の弓兵が枝上に移動し、教会側へ矢を放った。
 「……お前ら、裏切ったのか!」聖騎士が怒号する。
 「違う。俺たちは森に従う。森は“誰も捨てない”者を選ぶ」
 リュシオンは蓮を一瞬だけ見る。その目に、さっきまでなかった色が差していた。
 「勘違いするな。貴様は敵だ。だが――民を守る手段があるなら、今はそれを使う」
 「敵のままで構わない」蓮は頷く。「終わったら、もう一度話そう」
 兄妹が視線を交わす。セリナは微かに笑った。



 午後、戦場の中心は大樹の根元へ移った。教会は“森の心臓”を狙っている。
 「世界樹の副幹《オルドの根》」セリナが声を落とす。「ここが焼かれたら、森は死ぬ」
 丘の上に、聖印陣が組まれていた。円環の中で神官たちが唱和する。「《聖刻・浄界》」――森そのものを異端認定し、根から切断する禁式。
 「やめろ!」セリナが走る。
 だが結界に跳ね返され、膝をつく。
 蓮は結界の縁に手を置いた。熱でも冷でもない、無機の拒絶が掌を刺す。
 「……これは“捨てる式”だ」
 彼は目を閉じ、静かに言葉を紡いだ。「《リサイクル・反転(リバース)》」

 緑光が結界の文様へ滲み、捨象の紋章が“回収”の図形へと反転する。
 「浄界」だったはずの陣は、森から力を奪うのではなく、森へ力を戻す循環陣へ書き換わった。
 神官たちが悲鳴を上げる。「術式が……逆流……!」
 次の瞬間、根が大地を撫でるように鼓動した。腐蝕していた組織に若芽が走り、地面のひびに緑が溢れる。
 谷の空気が一変した。
 見ていたエルフの子どもが呟く。「森が、息をしてる……」

 リュシオンが剣先を下げる。
 「……それが、お前の“再生”か」
 蓮は答えない。ただ、掌のひらで土を撫でた。
 「返すだけだ。奪われたものを」



 日が傾く頃、教会軍は撤退を開始した。
 聖騎士たちは殿を務めながら退き、神官長は遠くから憎悪を投げた。
 「異端者ども。神は見ている」
 リアが牙を見せる。「見てろ。直すところを」
 最後の矢が空に消え、鋼の足音が森の外へ消えた。

 静寂。
 燃え跡からはもう煙が上がらない。湿り気を帯びた土が、火の記憶を抱いたまま温かい。

 セリナが膝をつき、根に額を当てた。「……ただいま」
 リュシオンはしばらく彼女を見つめ、それからゆっくりと片膝をついた。
 「セリナ。私は、間違っていたのかもしれぬ」
 「私も、間違ったことはある。――でも、やり直せるのが森の時間よ」
 兄は苦笑した。厳格な顔に、年相応の疲れが滲む。
 「人と共に来るとは思わなかった。だが、今日の民の顔を見た。彼らは救われた。……それだけは事実だ」
 蓮を見る眼に、敵意と別の情が同居する。「私は誓いを曲げない。貴様は敵だ。だが、今だけは刃を納める」
 「十分だ」蓮は言う。「敵のまま、民を守ればいい」



 夜。
 森の臨時野営地。樹上に灯がともり、壊れた橋が蓮の手で繕われていく。
 セリナが枝の上から降りてきた。「避難者の収容、完了。負傷者は軽傷が大半。……ありがとう」
 「礼は要らない。俺たちの誓いだ」
 リアが串焼きを振ってきた。「食え。セリナ、痩せた」
 「あなたに言われたくない」セリナが珍しく笑った。
 真司が焚き火の向こうで腕を組む。「教会、次は本隊だな。森での負けをそのままにしない」
 蓮は頷く。「来る。……でも、今日みたいな“捨てる式”はもう通じない」
 「なんでだ?」リアが首を傾げる。
 「森が見たからだよ。俺たちが“返した”のを」
 セリナが静かに付け加える。「森は忘れない。誰が奪い、誰が繋いだかを」

 少しの沈黙。焚き火が枝を弾き、小さな火花が舞い上がる。
 蓮は火を見つめながら言った。「セリナ。……戻るか?」
 「どこへ?」
 「故郷へ。籍を。君が望むなら」
 セリナは首を横に振る。「今は、あなたのそばにいる。森が“あなたを見に行け”と言っている気がするの。……それに、ね」
 「ね?」
 「“誰も捨てない”って言ったでしょ。じゃあ、私もあなたを捨てない」
 リアが口の端を上げる。「へぇ」
 「なに」
「いや、いいじゃん。そういうの」
 焚き火の向こうで真司が咳払いした。「おい、俺を捨てるなよ」
 「捨てないよ、真司」蓮が笑う。「お前の炎、借りが多すぎる」



 翌朝。
 森の奥の聖域から、使いの光鳥が舞い降りた。羽には古い紋章。封蝋には“長老会”の印。
 セリナが封を切る。
 「……長老会が“会談”を望んでいる。森の未来について、そして“再生”について話したいって」
 リアが伸びをする。「いいじゃん。殴らずに進むなら、そっちが楽だ」
 真司が首を鳴らす。「殴る準備はしておくけどな」
 蓮は短く息を吸った。「行こう。話して、繋ぎ直す」

 樹冠を渡る風が、昨夜よりも柔らかかった。
 葉の裏で光が跳ね、森はまるで、遠い昔からの友の帰還を祝うようにざわめいた。

 ――この日の出来事は、後に“森の再生の第一歩”として語られる。
 だが同時に、それは聖教会が本気で牙を剥く前触れでもあった。
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