上司がSNSでバズってる件

KABU.

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第9話:社内恋愛禁止令

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朝。
出社直後、オフィスがざわついていた。

「ねぇ聞いた? “社内恋愛、全面禁止”だって!」
「え、マジで!?」
「上から通達きたらしい」

(……えっ!?)

プリンターの前で真由は固まる。
昨日、自分が“課長が好きです”と告白したばかり。
まさかタイミングがこんなことになるなんて。

成田が駆け寄ってくる。

「なぁ真由、やばくね? なんか昨日から妙にピリピリしてるぞ」
「し、知らないよそんなの……」
「しかも、“理想の上司”の投稿が社外ニュースに載ったんだって!
 “部下に恋する上司説”とか書かれてる!」

「――っ!」

スマホを開く。
確かに記事が出ていた。

『人気SNSアカウント《@WORK_LIFE_BALANCE》、
 投稿に恋愛的な示唆? “彼女が笑う、それが答え”の真意とは』

(終わった……)



午前。
会議室。
部長の声が響く。

「というわけで、社内のイメージ管理のため、
 恋愛関係、特に上司部下間は厳禁とする」

(なぜ今日……!)

柊は沈黙したまま座っていた。
いつも通り冷静に見えるけど、
拳がテーブルの下でわずかに握られている。

(……怒ってる?)

「以上、全員徹底するように」

会議が終わっても、誰もすぐには席を立たなかった。



昼休み。
休憩スペースで真由が水を飲んでいると、
美咲が隣に座ってきた。

「大変ね、藤原さん」
「……え?」
「“社内恋愛禁止令”、完全にあなたたち狙いじゃない?」
「わ、私たち!?」
「昨日、あの投稿が出た後に通達。偶然だと思う?」

「……」

「柊、何も言ってこなかった?」
「まだ何も……」
「彼、昔からそう。自分が悪者になるの、慣れてるのよ」

その言葉が胸に突き刺さる。

(また、私を守って……黙ってるんだ)



午後。
部署の中が妙に静かだった。
みんながスマホを見ている。
その中で柊だけがいつも通り資料を整えていた。

「……課長」
「なんだ」
「さっきの件……」
「仕事に支障は出すな」
「でも……!」
「大丈夫だ」
「嘘です」

その言葉に、彼の指が止まる。

「課長、昨日あんなに言ってたじゃないですか。
 “君が笑う、それが答えだ”って!」
「……藤原」
「私、笑えません!」

一瞬、彼の瞳に何かが揺れた。
でもすぐに、静かな声で言う。

「……だから、守らなきゃいけない」
「なにを?」
「君を」

(また、そうやって……)

「私は守られたいわけじゃありません。
 隣に立ちたいんです」

そう言って、席を立った。
誰もいない廊下で、
こみ上げてくる涙を押し殺した。



夜。
残業のフロア。
スマホの通知が鳴る。

《@WORK_LIFE_BALANCE》
「“距離を取る”のは終わりじゃない。
 君を想っていることに変わりはない。」

「……課長」

画面の向こうで、彼も同じ時間に投稿している。
その事実だけで、涙が滲んだ。



翌朝。
出社すると、机の上に一枚の封筒が置かれていた。

“人事異動通知書 営業部 柊誠
 異動先:広報部 来週付”

(――そんな……)

ドクンと心臓が鳴る。
視界が少し滲んだ。

後ろから、成田の声。
「課長、異動なんだって……」

(やっぱり、私たちのせい……?)

スマホが震える。

《@WORK_LIFE_BALANCE》
「離れても、見ている。
 風が届く距離なら、まだ伝えられる。」

もう我慢できなかった。
廊下を駆け抜け、エレベーターのボタンを叩く。



屋上。
冷たい風。
そこに立っていたのは、
いつも通りのスーツ姿の柊だった。

「……異動、聞きました」
「そうか」
「なんで黙ってたんですか!」
「君に、余計な負担をかけたくなかった」
「そんなの……もう、意味ないです」

真由は涙を拭って、顔を上げた。

「私、課長がどこにいても好きです」

沈黙。
風の音だけが聞こえる。

「……藤原」
「はい」
「この気持ちは、社内規定に反してるかもしれない」
「そんなの関係ありません」

一瞬、笑ったように見えた。

「君は本当に……危なっかしい」
「もうそれ、褒め言葉に聞こえます」

二人の間を、夜風が通り抜けた。
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