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第10話:異動先の告白
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一週間後。
営業部の席に、もう柊の姿はなかった。
机の上には、誰も座っていない。
いつも置かれていたマグカップの輪染みだけが残っている。
(……本当に、いなくなっちゃったんだ)
朝礼の声が遠くで響く中、真由は上を向いた。
涙がこぼれそうで、視界を誤魔化した。
「真由~、大丈夫か?」
成田が気を遣うように声をかけてくる。
「だいじょ……ぶ」
「ムリしてんな。課長の異動、急だったしな」
「……うん」
(“風が届く距離なら、まだ伝えられる”)
柊の最後の投稿が頭をよぎる。
風なんて、いらない。
直接、会って話したい。
⸻
昼。
営業部と広報部の間にある共有スペース。
偶然、見覚えのある後ろ姿を見つけた。
(……課長!)
呼び止めようとしたが、
周囲の視線が怖くて声が出なかった。
“社内恋愛禁止令”の紙が
掲示板に大きく貼られている。
(……今、話しかけたらダメだ)
その瞬間、柊が振り返った。
視線がぶつかる。
彼は何も言わず、
ただ、軽く頷いた。
たったそれだけで、
心臓が跳ねる音が聞こえそうだった。
⸻
午後。
営業フロアに来た美咲が、さりげなく声をかけてきた。
「広報部の柊課長、すっかり人気よ」
「人気……?」
「“クールなのに優しい”って後輩女子たちが騒いでる」
その一言で、
胸の奥がじんわり痛くなった。
「……そっか」
美咲は真由の顔を覗き込み、
少し柔らかく笑う。
「でもね、あの人、今もスマホをよく見てる」
「え?」
「仕事中に少しだけ。
画面、黒地に白い“X”アイコンだった」
(……やっぱり)
「真由ちゃん」
「はい?」
「もし気持ちがまだあるなら、
ちゃんと伝えた方がいいと思う」
「……でも、“禁止令”が」
「恋は、誰かの命令で止まるもんじゃないわ」
美咲の声が、やけに優しく響いた。
⸻
夜。
仕事を終えた真由は、会社の前で立ち止まっていた。
スマホを開く。
通知。
《@WORK_LIFE_BALANCE》
「“距離”は罰じゃない。
試されているのは、言葉より本心だ。」
(……やっぱり、課長の言葉だ)
画面を見つめるうちに、
涙がこぼれそうになった。
(もう、黙ってるの嫌だ)
指が勝手に動いた。
《@mayu_worklife》
「“距離”があっても、私は信じています。
あなたの言葉に、何度も救われたから。」
送信。
すぐに心臓が跳ねる。
(また、見てくれるかな……)
⸻
翌日。
昼休み。
広報部から呼び出しメッセージが届いた。
『柊課長が、藤原さんを会議室へ』
(……え?)
恐る恐るドアを開けると、
そこには柊が立っていた。
「来てくれたか」
「はい……」
静かな空間。
外のざわめきが遠くに聞こえる。
「昨日の投稿、見た」
「……っ」
「“信じています”って言葉。……嬉しかった」
彼は少しだけ視線を逸らした。
「俺も、答えを出す時が来たと思った」
「……答え?」
「“禁止令”がある。
だから、立場上どうしようもないこともある」
「でも……」
「けど、気持ちは止められない」
(……やっぱり)
彼がゆっくり近づく。
距離が、ほんの少し縮まる。
「この部署を離れても、
君を見ていることだけは、誰にも止められない」
「……課長」
「いや、今は名前で呼んでくれ」
「……誠さん」
(やっと、言えた)
「……この距離でも、
まだ“好き”って言っていいですか?」
彼の目が一瞬、優しく細まった。
「“好き”って言葉は、
どんなルールより強い」
一拍の間。
静かな空気の中で、二人の笑顔だけが残った。
営業部の席に、もう柊の姿はなかった。
机の上には、誰も座っていない。
いつも置かれていたマグカップの輪染みだけが残っている。
(……本当に、いなくなっちゃったんだ)
朝礼の声が遠くで響く中、真由は上を向いた。
涙がこぼれそうで、視界を誤魔化した。
「真由~、大丈夫か?」
成田が気を遣うように声をかけてくる。
「だいじょ……ぶ」
「ムリしてんな。課長の異動、急だったしな」
「……うん」
(“風が届く距離なら、まだ伝えられる”)
柊の最後の投稿が頭をよぎる。
風なんて、いらない。
直接、会って話したい。
⸻
昼。
営業部と広報部の間にある共有スペース。
偶然、見覚えのある後ろ姿を見つけた。
(……課長!)
呼び止めようとしたが、
周囲の視線が怖くて声が出なかった。
“社内恋愛禁止令”の紙が
掲示板に大きく貼られている。
(……今、話しかけたらダメだ)
その瞬間、柊が振り返った。
視線がぶつかる。
彼は何も言わず、
ただ、軽く頷いた。
たったそれだけで、
心臓が跳ねる音が聞こえそうだった。
⸻
午後。
営業フロアに来た美咲が、さりげなく声をかけてきた。
「広報部の柊課長、すっかり人気よ」
「人気……?」
「“クールなのに優しい”って後輩女子たちが騒いでる」
その一言で、
胸の奥がじんわり痛くなった。
「……そっか」
美咲は真由の顔を覗き込み、
少し柔らかく笑う。
「でもね、あの人、今もスマホをよく見てる」
「え?」
「仕事中に少しだけ。
画面、黒地に白い“X”アイコンだった」
(……やっぱり)
「真由ちゃん」
「はい?」
「もし気持ちがまだあるなら、
ちゃんと伝えた方がいいと思う」
「……でも、“禁止令”が」
「恋は、誰かの命令で止まるもんじゃないわ」
美咲の声が、やけに優しく響いた。
⸻
夜。
仕事を終えた真由は、会社の前で立ち止まっていた。
スマホを開く。
通知。
《@WORK_LIFE_BALANCE》
「“距離”は罰じゃない。
試されているのは、言葉より本心だ。」
(……やっぱり、課長の言葉だ)
画面を見つめるうちに、
涙がこぼれそうになった。
(もう、黙ってるの嫌だ)
指が勝手に動いた。
《@mayu_worklife》
「“距離”があっても、私は信じています。
あなたの言葉に、何度も救われたから。」
送信。
すぐに心臓が跳ねる。
(また、見てくれるかな……)
⸻
翌日。
昼休み。
広報部から呼び出しメッセージが届いた。
『柊課長が、藤原さんを会議室へ』
(……え?)
恐る恐るドアを開けると、
そこには柊が立っていた。
「来てくれたか」
「はい……」
静かな空間。
外のざわめきが遠くに聞こえる。
「昨日の投稿、見た」
「……っ」
「“信じています”って言葉。……嬉しかった」
彼は少しだけ視線を逸らした。
「俺も、答えを出す時が来たと思った」
「……答え?」
「“禁止令”がある。
だから、立場上どうしようもないこともある」
「でも……」
「けど、気持ちは止められない」
(……やっぱり)
彼がゆっくり近づく。
距離が、ほんの少し縮まる。
「この部署を離れても、
君を見ていることだけは、誰にも止められない」
「……課長」
「いや、今は名前で呼んでくれ」
「……誠さん」
(やっと、言えた)
「……この距離でも、
まだ“好き”って言っていいですか?」
彼の目が一瞬、優しく細まった。
「“好き”って言葉は、
どんなルールより強い」
一拍の間。
静かな空気の中で、二人の笑顔だけが残った。
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