上司がSNSでバズってる件

KABU.

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第11話:オフィスの裏アカ騒動

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午前。
営業部フロア。

「ねぇ、また変なアカウント出てきたって知ってる?」
「え、なに?」
「“理想の上司の裏側”とかいうやつ! 
 『あの上司、表では完璧でも裏では……』みたいな暴露系!」

(……え!?)

コピー用紙を抱えたまま、真由は固まった。

「どこの誰かわかんないけど、
 フォロワー一気に増えてるらしいよ」
「“理想の上司”タグ使ってるの、絶対狙ってるよな~」

(そんな……課長の名前、また出るかもしれない)



昼休み。
休憩スペース。
成田がスマホを見せてきた。

「これ、見て!」

《@shadow_balance》
「理想の上司なんて幻想。
 本当は誰だって、誰かを傷つけてる。」

「……これ、“WORK_LIFE_BALANCE”に似せてる……」
「な? しかも“shadow”って……影? 
 明らかに意図的だろ」
「誰がこんな……」

(まさか、社内の誰か?)



午後。
柊のデスクの前に、人が集まっていた。

「課長、あのアカウントの件、見ました?」
「見た。……放っておけ」
「でも、“社内の人物が理想の上司の中の人だ”って噂が」
「くだらない。噂で動くな」

いつも通りの冷静な声。
だけど、真由にはわかる。
ほんの少し、拳が震えていた。

(……課長、怒ってる)



夕方。
広報部のフロア。
呼び出された真由は、会議室のドアを開けた。

「来てくれてありがとう」
柊が静かに立っていた。

「例の“裏アカ”の件だが」
「……見ました」
「社内でも騒ぎになっている。
 今、“理想の上司”の投稿が全部調査対象だ」
「そんな……」

「俺は、もう黙ってはいられない」

柊の目が真っ直ぐだった。
氷のように冷たい視線の奥に、
決意の光が宿っている。

「“理想の上司”は、俺だ」

「……!」

「これ以上、誰かが傷つくのは見たくない」
「でも、それを言ったら――!」
「構わない」

彼はゆっくりと息を吐く。

「俺が書いてきた言葉に嘘はない。
 けど、“君の存在”だけは、守らせてくれ」

「課長……」

その瞬間、扉がノックされた。
美咲が入ってくる。

「やっぱり、そうだったのね」
「美咲……」
「記者から問い合わせが来てた。“理想の上司”が誰なのかって」
「……そうか」
「でも、私、答えてない。
 あのアカウントの中に“嘘”がないって、知ってるから」

柊の表情が一瞬だけ緩む。
美咲は小さく笑った。

「……藤原さん、あの人は本当に不器用よ。
 自分より他人を守ることしか知らないの」

「はい……知ってます」



夜。
オフィスを出ると、風が冷たい。
真由はスマホを開いた。

《@WORK_LIFE_BALANCE》
「“影”が生まれるのは、光があるから。
 俺はもう、隠れない。」

(――課長、言っちゃった)

画面を見つめる指が震える。
通知が一気に流れていく。

『理想の上司=柊誠?』
『社内関係者が認めた!』

(まずい……!)

その時、DMの通知。

《@WORK_LIFE_BALANCE》
「外に出たら、風が強い。……でも、まだ立っている。」

(課長……!)

真由は走り出した。
夜の街へ。



屋上。
風が髪をなびかせる中、柊が立っていた。
スマホを見つめたまま、呟く。

「……これでいい」

「よくないです!」

振り向いた彼の目が驚く。

「藤原」
「全部、自分で背負おうとしないでください!」
「……俺はもう隠さない。君を巻き込むわけにはいかない」
「もう巻き込まれてます!」

風の音が強くなった。
泣きそうな声で、真由が叫ぶ。

「課長が言葉で救った人、たくさんいるんですよ!
 その人たちまで“影”にしないでください!」

一瞬の沈黙。

柊がふっと笑った。
その目に、ほんの少しの光。

「……やっぱり、君は危なっかしい」
「褒め言葉です」

二人の笑い声が、夜風に溶けた。
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