12 / 50
第12話:バズの代償
しおりを挟む
翌朝。
出社すると、フロア全体の空気がいつもと違った。
ひそひそ声、スマホの光。
みんなが何かを見ている。
「……何かあったんですか?」
成田が顔をしかめながらスマホを差し出した。
『理想の上司=柊誠(広告代理店営業部→広報部)で確定か』
『投稿の一部に“部下との恋愛”を示唆する内容も!?』
(――やっぱり……)
画面の下には、
柊のアカウント《@WORK_LIFE_BALANCE》の投稿スクショ。
昨日の「隠れない」という言葉が、
もう“告白”として拡散されていた。
⸻
「……柊課長、会社に来てる?」
「いや、朝から本社に呼ばれてるっぽい」
「そりゃそうだよな。炎上レベルだぞこれ」
真由の指先が冷たくなっていく。
(どうしよう……課長、絶対に一人で責任取ろうとしてる)
⸻
昼。
広報部の会議室前。
ドアの向こうから、怒鳴り声が聞こえる。
「SNSは会社の顔でもあるんだぞ!」
「申し訳ありません」
「“理想の上司”の名前で発信していたとは――」
中の声は柊のもの。
静かで、でも揺るぎない。
(止めなきゃ……でも、私が出たら余計に……)
胸の奥で、何かがぎゅっと締めつけられた。
⸻
午後。
ようやく柊が戻ってきた。
その顔は、少しだけ疲れて見えた。
「課長……!」
「藤原、仕事に戻れ」
「でも!」
「心配いらない」
「嘘です」
柊は一瞬だけ目を閉じ、
そして笑った。
「……嘘が下手になったな」
「課長にだけ、です」
その返しに、彼の口元が少し緩む。
「……後で、話そう」
⸻
夕方。
屋上。
風が強い。
いつもの場所で、二人は並んで立っていた。
「……本当に言っちゃったんですね」
「ああ」
「後悔、してませんか?」
「してたら、ここに立ってない」
短く、それだけ言って空を見上げる。
「世間がどう言おうと、
“理想の上司”の言葉は、俺の言葉だ。
君が笑ってくれた日々を、嘘にしたくない」
「……課長」
風が頬を打つ。
真由の目から、涙がひと筋落ちた。
「でも、会社が……」
「今日、人事から呼び出された」
「え……!」
「処分はまだわからない。
だが、“部下との関係”についても調査が入るらしい」
「私のせいです!」
「違う」
「違くないです!」
彼は少し笑って首を振る。
「君は、俺の言葉を信じてくれた。
その事実が、俺に勇気をくれたんだ」
「……勇気?」
「“誰かを想う気持ち”を、隠さない勇気だ」
沈黙。
夕日が二人の影を重ねる。
⸻
その夜。
真由のスマホが震えた。
《@WORK_LIFE_BALANCE》
「“理想”は壊れた。
けれど、守りたい“現実”ができた。」
画面の下に、
無数のコメント。
「本当の上司だ」
「会社のために声を上げる姿、尊敬します」
「恋愛も仕事も本音で生きていい」
そして――
《@mayu_worklife:理想より、あなたが好きです。》
送信ボタンを押した瞬間、
心臓が高鳴った。
(もう、誰にも隠さない)
⸻
翌朝。
出社すると、デスクの上に一枚の封筒があった。
“出向命令書 柊誠 関連子会社へ出向”
「……そんな……」
指先が震える。
その下に、小さなメモ。
『君の投稿、見た。ありがとう。
ここからでも、風は届く。――誠』
「課長……」
涙が滲んだ視界の中で、
スマホが震える。
《@WORK_LIFE_BALANCE》
「“場所”が変わっても、想いは届く。
俺は今日も、君の笑顔を願っている。」
(離れても、ちゃんと繋がってる……)
出社すると、フロア全体の空気がいつもと違った。
ひそひそ声、スマホの光。
みんなが何かを見ている。
「……何かあったんですか?」
成田が顔をしかめながらスマホを差し出した。
『理想の上司=柊誠(広告代理店営業部→広報部)で確定か』
『投稿の一部に“部下との恋愛”を示唆する内容も!?』
(――やっぱり……)
画面の下には、
柊のアカウント《@WORK_LIFE_BALANCE》の投稿スクショ。
昨日の「隠れない」という言葉が、
もう“告白”として拡散されていた。
⸻
「……柊課長、会社に来てる?」
「いや、朝から本社に呼ばれてるっぽい」
「そりゃそうだよな。炎上レベルだぞこれ」
真由の指先が冷たくなっていく。
(どうしよう……課長、絶対に一人で責任取ろうとしてる)
⸻
昼。
広報部の会議室前。
ドアの向こうから、怒鳴り声が聞こえる。
「SNSは会社の顔でもあるんだぞ!」
「申し訳ありません」
「“理想の上司”の名前で発信していたとは――」
中の声は柊のもの。
静かで、でも揺るぎない。
(止めなきゃ……でも、私が出たら余計に……)
胸の奥で、何かがぎゅっと締めつけられた。
⸻
午後。
ようやく柊が戻ってきた。
その顔は、少しだけ疲れて見えた。
「課長……!」
「藤原、仕事に戻れ」
「でも!」
「心配いらない」
「嘘です」
柊は一瞬だけ目を閉じ、
そして笑った。
「……嘘が下手になったな」
「課長にだけ、です」
その返しに、彼の口元が少し緩む。
「……後で、話そう」
⸻
夕方。
屋上。
風が強い。
いつもの場所で、二人は並んで立っていた。
「……本当に言っちゃったんですね」
「ああ」
「後悔、してませんか?」
「してたら、ここに立ってない」
短く、それだけ言って空を見上げる。
「世間がどう言おうと、
“理想の上司”の言葉は、俺の言葉だ。
君が笑ってくれた日々を、嘘にしたくない」
「……課長」
風が頬を打つ。
真由の目から、涙がひと筋落ちた。
「でも、会社が……」
「今日、人事から呼び出された」
「え……!」
「処分はまだわからない。
だが、“部下との関係”についても調査が入るらしい」
「私のせいです!」
「違う」
「違くないです!」
彼は少し笑って首を振る。
「君は、俺の言葉を信じてくれた。
その事実が、俺に勇気をくれたんだ」
「……勇気?」
「“誰かを想う気持ち”を、隠さない勇気だ」
沈黙。
夕日が二人の影を重ねる。
⸻
その夜。
真由のスマホが震えた。
《@WORK_LIFE_BALANCE》
「“理想”は壊れた。
けれど、守りたい“現実”ができた。」
画面の下に、
無数のコメント。
「本当の上司だ」
「会社のために声を上げる姿、尊敬します」
「恋愛も仕事も本音で生きていい」
そして――
《@mayu_worklife:理想より、あなたが好きです。》
送信ボタンを押した瞬間、
心臓が高鳴った。
(もう、誰にも隠さない)
⸻
翌朝。
出社すると、デスクの上に一枚の封筒があった。
“出向命令書 柊誠 関連子会社へ出向”
「……そんな……」
指先が震える。
その下に、小さなメモ。
『君の投稿、見た。ありがとう。
ここからでも、風は届く。――誠』
「課長……」
涙が滲んだ視界の中で、
スマホが震える。
《@WORK_LIFE_BALANCE》
「“場所”が変わっても、想いは届く。
俺は今日も、君の笑顔を願っている。」
(離れても、ちゃんと繋がってる……)
12
あなたにおすすめの小説
出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜
泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。
ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。
モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた
ひよりの上司だった。
彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。
彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
可愛い女性の作られ方
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
風邪をひいて倒れた日。
起きたらなぜか、七つ年下の部下が家に。
なんだかわからないまま看病され。
「優里。
おやすみなさい」
額に落ちた唇。
いったいどういうコトデスカー!?
篠崎優里
32歳
独身
3人編成の小さな班の班長さん
周囲から中身がおっさん、といわれる人
自分も女を捨てている
×
加久田貴尋
25歳
篠崎さんの部下
有能
仕事、できる
もしかして、ハンター……?
7つも年下のハンターに狙われ、どうなる!?
******
2014年に書いた作品を都合により、ほとんど手をつけずにアップしたものになります。
いろいろあれな部分も多いですが、目をつぶっていただけると嬉しいです。
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
*全28話完結
*辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
*他誌にも掲載中です。
甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・
希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!?
『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』
小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。
ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。
しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。
彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!?
過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。
*導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。
<表紙イラスト>
男女:わかめサロンパス様
背景:アート宇都宮様
10 sweet wedding
國樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ワケあり上司とヒミツの共有
咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。
でも、社内で有名な津田部長。
ハンサム&クールな出で立ちが、
女子社員のハートを鷲掴みにしている。
接点なんて、何もない。
社内の廊下で、2、3度すれ違った位。
だから、
私が津田部長のヒミツを知ったのは、
偶然。
社内の誰も気が付いていないヒミツを
私は知ってしまった。
「どどど、どうしよう……!!」
私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる