上司がSNSでバズってる件

KABU.

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第12話:バズの代償

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翌朝。
出社すると、フロア全体の空気がいつもと違った。
ひそひそ声、スマホの光。
みんなが何かを見ている。

「……何かあったんですか?」
成田が顔をしかめながらスマホを差し出した。

『理想の上司=柊誠(広告代理店営業部→広報部)で確定か』
『投稿の一部に“部下との恋愛”を示唆する内容も!?』

(――やっぱり……)

画面の下には、
柊のアカウント《@WORK_LIFE_BALANCE》の投稿スクショ。
昨日の「隠れない」という言葉が、
もう“告白”として拡散されていた。



「……柊課長、会社に来てる?」
「いや、朝から本社に呼ばれてるっぽい」
「そりゃそうだよな。炎上レベルだぞこれ」

真由の指先が冷たくなっていく。

(どうしよう……課長、絶対に一人で責任取ろうとしてる)



昼。
広報部の会議室前。
ドアの向こうから、怒鳴り声が聞こえる。

「SNSは会社の顔でもあるんだぞ!」
「申し訳ありません」
「“理想の上司”の名前で発信していたとは――」

中の声は柊のもの。
静かで、でも揺るぎない。

(止めなきゃ……でも、私が出たら余計に……)

胸の奥で、何かがぎゅっと締めつけられた。



午後。
ようやく柊が戻ってきた。
その顔は、少しだけ疲れて見えた。

「課長……!」
「藤原、仕事に戻れ」
「でも!」
「心配いらない」
「嘘です」

柊は一瞬だけ目を閉じ、
そして笑った。

「……嘘が下手になったな」
「課長にだけ、です」

その返しに、彼の口元が少し緩む。

「……後で、話そう」



夕方。
屋上。
風が強い。
いつもの場所で、二人は並んで立っていた。

「……本当に言っちゃったんですね」
「ああ」
「後悔、してませんか?」
「してたら、ここに立ってない」

短く、それだけ言って空を見上げる。

「世間がどう言おうと、
 “理想の上司”の言葉は、俺の言葉だ。
 君が笑ってくれた日々を、嘘にしたくない」

「……課長」

風が頬を打つ。
真由の目から、涙がひと筋落ちた。

「でも、会社が……」
「今日、人事から呼び出された」
「え……!」
「処分はまだわからない。
 だが、“部下との関係”についても調査が入るらしい」

「私のせいです!」
「違う」
「違くないです!」

彼は少し笑って首を振る。

「君は、俺の言葉を信じてくれた。
 その事実が、俺に勇気をくれたんだ」

「……勇気?」
「“誰かを想う気持ち”を、隠さない勇気だ」

沈黙。
夕日が二人の影を重ねる。



その夜。
真由のスマホが震えた。

《@WORK_LIFE_BALANCE》
「“理想”は壊れた。
 けれど、守りたい“現実”ができた。」

画面の下に、
無数のコメント。

「本当の上司だ」
「会社のために声を上げる姿、尊敬します」
「恋愛も仕事も本音で生きていい」

そして――

《@mayu_worklife:理想より、あなたが好きです。》

送信ボタンを押した瞬間、
心臓が高鳴った。

(もう、誰にも隠さない)



翌朝。
出社すると、デスクの上に一枚の封筒があった。

“出向命令書 柊誠 関連子会社へ出向”

「……そんな……」

指先が震える。
その下に、小さなメモ。

『君の投稿、見た。ありがとう。
 ここからでも、風は届く。――誠』

「課長……」

涙が滲んだ視界の中で、
スマホが震える。

《@WORK_LIFE_BALANCE》
「“場所”が変わっても、想いは届く。
 俺は今日も、君の笑顔を願っている。」

(離れても、ちゃんと繋がってる……)
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