上司がSNSでバズってる件

KABU.

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第49話:会えなかった夜のぶんだけ素直になる朝

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目覚ましが鳴る前に、目が覚めた。

(……寝た気がしない)

昨日の“会えなかった夜”が胸に残ったままで、
スマホを手に取るのが怖かった。

でも、見たい。
見たいけど……また短い“忙しい”だけのメッセージだったらどうしよう。

覚悟して画面を見る。

通知はひとつ。

《誠:おはよう。無理をさせた。昨日の返事、嬉しかった》

(……っ)

胸がきゅっとなった。

“昨日の返事”って、あれ。

《真由:大丈夫です。無理しないでくださいね》

ほんとは“会いたい”って言いたかったのに。
負担になりたくなくて、強がって……。

でも、読んでくれてた。

(なんでこんな……優しいの……)

返信しようとして、手が止まる。

“会いたいです”って……言えるかな。

昨日の自分みたいに迷ってる暇はない。
美咲の言葉がまた浮かぶ。

『“言えないとき”こそ、言えるかどうか』

深呼吸して――打った。

《真由:昨日、本当は会いたかったです》

送信ボタンを押した瞬間。

心臓が、跳ねた。



オフィスに着くと、成田が駆け寄ってきた。

「真由、なんか今日……目の下にクマできてね?」

「き、気のせいです!」

「いや完全に恋人と“連絡すれ違い”の顔だぞ!」

「やめてぇぇぇ!」

美咲もコーヒー片手にひょいっと来た。

「昨日、会えなかったのね?」

「……なんでわかるんですか……」

「顔。あと空気」

「空気!?!?」

「恋してる人はね、会えない日の翌日、
 “頑張って明るくしてる雰囲気”が漏れ出るのよ」

(……そう見えてるんだ……それはそれで恥ずかしい)

美咲は真由の肩をぽんっと軽く叩く。

「でもね、真由ちゃん。“寂しい”って言える人は強いのよ」

(……言った。やっと言えた。
 『会いたかった』って)

「今日は、ちゃんと素直でいなさい」

「……はい」



午前中の仕事。
机に向かってるのに、スマホが気になって仕方ない。

(返信……来ないな……)

忙しいのはわかってる。
昨日も“今月で一番の激務”って聞いた。

でも、待ってしまう。

そこへ――スマホが震えた。

《誠:今日、昼に一度オフィスに戻る。少しだけ話せる時間を作る》

(……!)

胸がじんわり温かくなる。

(誠さん……ちゃんと、時間作ってくれるんだ……)

隣の成田が小声で囁く。

「おっ、絶対わかりやすい顔してるぞ今」

「無視してください……!」

「昼だな? 昼、決戦だな?」

「決戦じゃない……!」

「いや、決戦だろ。“言えない気持ち、今日ぶつけます”って顔してる」

「やめてぇぇぇぇ!」

(でも……たぶん、当たってる)

今日はちゃんと向き合いたい。
昨日言えなかった分も。



昼休み。

社内の小さな休憩スペース。
いつもより静かで、空気が柔らかい。

誠さんが来た。

(……息、止まる……)

スーツ姿。
少しだけ疲れてるのに、目の奥は優しい。

「藤原。昨日は……すまなかった」

「いえ、その……私こそ……強がってしまって」

向き合って座ると、
昨日の夜の気持ちが全部こみ上げてくる。

「本当は……会いたかったです。昨日」

誠さんの手が止まった。
驚いたみたいに、まっすぐ目を見る。

「……藤原」

「いや、その……言ったら、誠さんの負担になるかもと思って……」

「負担なわけがない」

即答だった。

息が詰まるほどのまっすぐさで。

「むしろ……言ってほしかった」

「……っ」

「君が“会いたい”と思ってくれるなら、
 俺はどれだけ忙しくても……その気持ちに応えたい」

言い切る声が静かで、強くて、優しい。

涙が出そうになった。

「……でも、誠さんの方がもっと忙しくて……」

「関係ない」

(か、関係ない!?)

「忙しいからこそ……君の言葉が欲しくなる。
 昨日は……正直、かなり堪えた」

「堪えた……?」

「“今日は会えない”と言っても、
 君から“会いたかった”が聞けなかったのが……さみしかった」

胸が熱くなった。

(……私だけじゃなかったんだ……)

「だから、藤原」

誠さんは、少し前に身を乗り出した。

「これからは迷わず言ってくれ。
 “会いたい”も、“寂しい”も、全部」

目の奥がじんわり滲む。

(なんでこんな……胸が苦しくなるほど優しく言うの……)

「……はい。言います。ちゃんと」

「“言える人”になってくれ。
 俺は……全部受け止める」

(……誠さん……)

ほんとに好きだ。

ほんとに、ちゃんと、恋してる。



休憩の終わり。
誠さんが帰る前、ひと言だけ言った。

「あと2日だな。部署が離れるまで」

「はい……」

「寂しくなる」

「……っ」

「でも、その分――
 会える日を増やせばいい」

「……!」

「週1と言ったが……増やしていいか?」

「増やしてください……!」

「そう言うと思った」

小さく笑う。

その笑顔を見た瞬間、
昨日の寂しさが全部ふっと消えた。

(大丈夫だ……誠さんがいる。
 離れても、この人がいるなら……平気だ)



夕方。
仕事も終わる頃、スマホに通知。

《@WORK_LIFE_BALANCE》
「“会えない”のあとに、“会いたい”が言える人は強い。
 心がすれ違わないのは、そんな人のおかげだ。」

(……昨日のことだ。絶対。)

胸に手を当てて、そっと返す。

《@mayu_worklife》
「すれ違いたくない人がいるから、言えるんです。」

すぐに返ってきた。

《@WORK_LIFE_BALANCE》
「なら、その想いを大事にして。」

誠さんの横顔が浮かぶ。

(……明日は、もっと素直になれる)

そして、いよいよ――
別々の部署になる前日が来る。
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