英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン

文字の大きさ
6 / 20

第五章:監視者と損得勘定

しおりを挟む
「なぁ、シンカク」

石造りの階段を降りきったところで、ヴァンは足を止めた。
背後には、能面のような無表情で従うメイド、シンカクがいる。

「俺たち、尾けられてるよな」

「はい。軍情局の人間です」

間髪入れず、涼やかな声が返ってきた。 あまりに即答だったため、ヴァンは思わず振り返る。

「……は?」

「正門を通過した時点から、計三名。継続して監視されています」

「い、いや待て」

ヴァンはこめかみを押さえた。
頭痛が痛い、というのはこういうことか。

「気づいてたなら、なんで言わない?」

「聞かれていませんでしたので」

シンカクは首を傾げることもなく、淡々と述べた。悪気? ゼロだ。だからたちが悪い。

「あのな……こういうのは『報告・連絡・相談ホウ・レン・ソウ』が基本だろ」

「特に問題ないと判断しました。あの程度では、ヴァン様の害にはなりません」

「放置って……」

ヴァンは深く息を吐いた。
この生真面目すぎる護衛に常識を説いても無駄だろう。

「つまりあれか? 俺が路地裏で刺されそうになるまで、お前は棒立ちで見物ってことか?」

「いいえ」

シンカクの瞳が、暗がりの中で冷たく光った気がした。

「ヴァン様に手を出す者は、私が殺します」

抑揚のない声。
まるで「明日の天気は晴れです」と言うような気軽さで、彼女は殺戮を断言した。

「……そうかよ」

ヴァンは苦笑いするしかなかった。
頼もしいというか、恐ろしいというか。

「まあいい。監視がいるってことは、逆に言えば『護衛』が増えたようなもんだ」

ヴァンは歩き出す。

「タダで使えるものは、軍情局でも使ってやるさ」


帝国軍事学院の学生寮。
そう聞いていたが、目の前にあるのは要塞だった。

飾り気のない灰色の石壁。
鉄格子のハマった小さな窓。
廊下には冷たい空気が漂い、どこかカビ臭い。

「……刑務所かよ」

ヴァンは呆れたように呟き、指定された303号室の重い鉄扉を開けた。

「おや、新入りかい?」

部屋の中で待ち構えていたのは、金髪の優男だった。
質素な軍用ベッドの上で、優雅に足を組んでいる。

「僕はローラン。よろしく頼むよ、ルームメイト」

人懐っこい笑顔。
だが、目が笑っていない。
典型的な「食えない奴」だ。

「ヴァン・ラーク・ヴァレリアンだ」

ヴァンは短く名乗り、荷物を放り投げた。

「ヴァレリアン?」

ローランの眉がピクリと動く。

「あの『ベルンハルト将軍』の親戚かい? ラークなんてミドルネーム、聞いたことないけど」

「隠し子だからな」

ヴァンはあっさりと言い放ち、シンカクへ視線を向けた。

「シンカク、アイリの様子を見てきてくれ」

「了解」

シンカクは無言で頷くと、同室のローランを一瞥いちべつした。

(……弱い。問題ない)

彼女の瞳がそう語っていた。

そして次の瞬間、彼女は窓を開け放ち、

ヒュッ!

三階の窓から、ためらいなく飛び降りた。

「うわああああっ!?」

ローランが素っ頓狂な悲鳴を上げ、窓に駆け寄る。
下を覗き込んだ瞬間、 シンカクは何事もなかったように、地面に着地していた。 まるで重力を無視したかのような、優雅な動き。 

「……嘘だろ。人間じゃねぇ……Aランク? まさかSか……?」

「知らない、あいつは強いからな」

ヴァンはベッドに寝転がり、天井を見上げた。

「さて、ローラン。お前、商人か?」

ローランは振り返り、目を丸くした。

「なんでわかった?」

「部屋に入った瞬間、俺の荷物の価値を目算もくさんしてただろ」

「……へえ」

ローランはニヤリと笑った。
その顔から、軽薄さが消える。

「鋭いね。ご名答。実家は商会をやってるよ。今はちょっと『ワケあり』で、僕が再起を図ってる最中だけどね」

彼は椅子に座り直し、探るような視線をヴァンに向けた。

「で、君さ。辺境で『とんでもない勝ち方』をしたって噂、本当かい?」

「とんでもない?」

「被害ゼロで敵を撃退したって話さ。普通、帝国軍なら『魔導回路』を全開にして突撃チャージだろ? なのに君は、罠と心理戦だけで勝ったとか」

ローランは肩をすくめた。

「正直、信じられないね。帝国じゃ『力こそ正義』だ。そんな臆病な戦い方、評価されないよ?」

「臆病、か」

ヴァンは半身を起こした。
「じゃあ、計算してみようか。商人さん」


「計算?」

「ああ。例えば、正面から敵と殴り合ったとする」

ヴァンは指を折り始めた。

「兵士の治療費。破損した武器の補充。使い潰した魔導回路のメンテナンス費。戦死者への弔慰金ちょういきん。それに、消費した食料と弾薬」

ヴァンは冷淡に続ける。

「一回の戦闘で、どれくらい金が飛ぶと思う?」

ローランは眉をひそめ、空中で指を動かし始めた。
商人の血が騒ぐのか、ブツブツと計算を始める。

「……正規軍の装備なら、一人当たりの損耗率が……治療費が……輸送コストも馬鹿にならないし……」

数秒後。
ローランの顔色が変わった。

「……おいおい。小規模な紛争でも、軽く50万ゴールドは下らないぞ」

「正解だ」

ヴァンはニヤリと笑った。
「で、俺がやった『臆病な戦い方』の経費は?」

「……油樽数個と、情報操作のための工作員……」

ローランの声が震えた。

「……1000ゴールド、いかない……?」

「その通り」

ヴァンは指を鳴らした。

「1000ゴールドで、50万ゴールド分の戦果を上げた。利益率は500倍だ」

「……っ!!」

「俺は臆病なんじゃない。費用対効果が高いだけだ」

静寂。

ローランは口を半開きにして、ヴァンを凝視していた。
まるで、未知の生物を見るような目だ。

「……化け物か、君は」

「ただの貧乏性だよ」

「いや、違う!」

ガタッ!
ローランは椅子を蹴倒す勢いで立ち上がった。

「君、すごいよ! 戦争を『損得』だけで考えるなんて、そんな発想、帝国の軍人には絶対にない!」

彼は興奮気味にまくし立てる。

「君、本当は何者なんだ!? ただの私生子じゃないだろ!?」

「だから言っただろ。ヴァン・ラーク・ヴァレリアンだ」

ヴァンは面倒くさそうに手を振った。

「俺は俺が得するために動く。それだけだ」


その夜。
ヴァンは一人、中庭に出ていた。

冷たい夜風が吹く。
頭上には満月。

だが、ヴァンの意識はそこにはない。

(……まだ見てやがるな)

視線がある。
夕方からずっと張り付いている、粘着質な視線だ。

ヴァンは溜息をつき、暗がりに向かって声を張り上げた。

「おい! いつまでコソコソ見てるんだ!」

返事はない。
ただ、風の音だけ。

「軍情局だろ? わかってんだよ」

ヴァンは懐に手を入れ、わざとらしく何かを取り出す仕草をした。

「出てこないなら、ここで大声で叫ぶぞ。『軍情局が学生をストーキングしてる!』ってな」

カツン。

足音がした。

建物の影から、一人の男が姿を現す。

目深に帽子を被った、特徴のない男だ。

「……勘がいいな、学生」

「お前らが下手くそなだけだ」

ヴァンは鼻で笑った。

「で? なんで俺を監視してる?」

「上の命令だ」

男は無機質に答えた。

「『ヴァレリアンの私生子』が、帝国に害をなす存在かどうか。見極めろとな」

「害ねぇ……」

ヴァンは肩をすくめた。

「俺が害になるかどうか、こんな遠くから見ててわかるのか?」

「……何が言いたい」

「効率が悪いって言ってんだよ」

ヴァンは男に歩み寄った。

「お前らが俺を疑ってるなら、俺も疑わせてもらう。俺は、自分にメリットのない監視は受け入れない主義でな」

ヴァンは男の目の前で立ち止まり、不敵に笑った。

「局長に伝えろ」

「……は?」

「『コソコソ嗅ぎ回るくらいなら、直接値踏みしに来い』とな」

男は目を見開いた。

「……本気か? 我らが局長、クラウス公爵に会いたいと?」

「ああ。どうせ逃げられないならトップと話を通しておきたい」

ヴァンは指先で男の胸を突いた。

「俺は取引がしたいんだよ。」

男はしばらく呆気にとられていたが、やがて低く笑った。

「……いい度胸だ、小僧」

男はきびすを返した。

「伝えてやる。だが、後悔するなよ」

「後悔? するわけないだろ」

ヴァンは去りゆく背中に向かって呟いた。

「これも『投資』だ」


翌日、思いがけない『招待状』が届くことになる

【第五章・終】




***


読んでくださりありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけましたら、ブクマ・評価・いいね等で応援していただけると嬉しいです!
PVが増えるたびに、PCの前で小躍りして喜んでいます。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主

雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。 荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。 十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、 ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。 ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、 領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。 魔物被害、経済不安、流通の断絶── 没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。 新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。

転生貴族の領地経営〜現代知識で領地を豊かにして成り上がる

ファンタジー
ネーデル王国の北のリーディア辺境伯家には天才的な少年レイトがいた。しかしその少年の正体は現代日本から転生してきた転生者だった。 レイトが洗礼を受けた際、圧倒的な量の魔力やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のレイトを辺境伯領の北の異種族の住むハーデミア領を治める領主とした。しかしハーデミア領は貧困に喘いだ貧乏領地だった。 これはそんなレイトが異世界の領地を経営し、領地を豊かにして成り上がる物語である。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

処理中です...