英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン

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第十二章:図書館の邂逅と騒動

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「ガ○プラ!?」

ヴァンの声が図書館に響いた瞬間、少女がビクッと震えた。 サファイアのような瞳が驚愕に見開かれ、ヴァンと視線が交差する。

彼女は慌てて組み立て中の模型を両手で隠そうとしたが、既に遅い。

ヴァンは自分の失言に気づき、咳払いをした。

(まずい、つい前世の記憶で……)

周囲を見回す。幸い、図書館には他に誰もいないようだ。
ヴァンは深呼吸をして、少し冷静になった。

(……落ち着け。焦るな)

今、自分はシンカクからの連絡待ちだ。
あの徽章バッジの調査と、ビリィの救出作戦。
どちらも重要だが、自分が焦って動けば、軍情局や監視役の目を引いてしまう。
だからこそ、あえて人目を避けて図書館に来たのだ。「普通の学生」として振る舞うために。

(まさか、こんな場所で……)

ヴァンは再び、少女の手元に視線を落とした。
鈍い銀色に輝く重厚な板金鎧。
背中には天使の翼を模した放熱翼。

(こんな『とんでもないもの』を作ってる奴に遭遇するとはな)

彼は落ち着いた声で言い直した。

「いや、その……魔導機兵マギ・フレーム、か?」
「……っ」

少女は固まったまま、小さく頷いた。その手は震えている。まるで、何か悪いことをしているところを見つかった子供のように。

(……これ、もしかして)
ヴァンは内心で驚いた。
(前世のガ○プラに似てる……いや、違う。これは、この世界独自の魔導技術で作られたものだ)

彼は少し考えた後、冗談めかして聞いてみた。

「なぁ、お前……もしかして異世界人か?」

「……え?」
少女は小さく首を傾げた。
「て、異世界……人……?」

「ああ、その……別の世界から来たとか」
ヴァンは適当に説明した。
「まぁ、冗談だけど」

「た、多分……違います……」

少女は小さな声で答えた。

「わ、私は……ずっと、この世界に……」

「そっか」ヴァンは安堵した。(良かった、ただの偶然か)

少女は相変わらず緊張したまま、ヴァンを見ている。
その目には、恐怖と、わずかな期待が混じっていた。ヴァンは椅子を引いて座り、模型を指差した。

「これ、見せてもらってもいいか?」

(シンカクからの連絡待ちで暇だし……それに)

彼女の技術力、見ておいて損はない。

「……え」

「触ってもいい? あと、ちょっと組み立て手伝ってもいいか?」

少女は目を見開いた。
まるで、予想外の言葉を聞いたかのように。
彼女は何度か口を開こうとしたが、言葉が出てこない。

そして、小さく、頷いた。

「ありがとな」ヴァンは未組み立てのパーツを手に取った。「どこから手伝おうか?」

「あ、あの……左腕の、装甲板を……」少女は震える指で、パーツを指差した。

「これか」
ヴァンは慣れた手つきでパーツを取り、組み立て始めた。
前世でガ○プラを作っていた経験が蘇る。
パーツの合わせ目を確認し、丁寧に接合していく。

少女は黙ってその様子を見ていた。

数分後、左腕が完成した。
ヴァンはそれを本体に取り付け、可動部を確認する。
「……よし、完璧だ」

「す、すごい」 少女は小さく呟いた。
「あ、あの……慣れてますね」

「まぁな」

ヴァンは笑った。

「昔、よくこういうの作ってたんだ」

「そ、そうなんですか……」
 
少女は少しだけ表情を緩めた。

「あの……塗装も、できますか?」

「塗装? ああ、できるぞ」

少女は机の引き出しから、小さな筆と塗料を取り出した。「じゃあ……お願いできますか?」

ヴァンは懐かしさを感じていた。

前世でガ○プラを組んでいた時の、あの無心になれる時間。

(……悪くないな)
シンカクからの連絡を待つ間の、束の間の休息。

数十分後。

完成した『魔導機兵』が、机の上に立った。



塗装が終わり、模型が完成した。ヴァンはそれを手に取り、光にかざす。「……いいな、これ」

「ありがとうございます」少女は嬉しそうに笑った。その笑顔は、先ほどまでの怯えた表情とは全く違う。「あの……あなたも、魔導機兵の、お好きなんですか?」

「いや、そこまでじゃないけど」ヴァンは肩をすくめた。「ただ、こういうカッコいいもの、好きなんだ」

「カッコいい」少女は模型を見つめた。「そう、言ってくれる人……初めて、です」

「え?」

「みんな、変だって、言うんです」少女は小さく呟いた。「女の子が、こんなもの作るなんて、おかしいって」

「そんなことないだろ」ヴァンは首を振った。「趣味に性別なんて関係ない」

「……」少女は黙って、ヴァンを見つめた。その目には、涙が滲んでいた。

でも、次の瞬間――

「そうですよね!」
 
少女の目が、突然輝いた。
 さっきまでの怯えた様子が嘘のように、声のトーンが上がる。

「魔導機兵の可能性は無限大です! 戦術的価値、技術的革新、ロマン――全てが詰まっているのに、誰も理解してくれないんです!」
彼女の口調が、熱を帯びて早口になる。
 
ヴァンは思わず笑った。

(ああ、こいつ……技術の話になると人が変わるタイプか)

「それに」ヴァンは続けた。「これ、よくできてるぞ。細部まで丁寧だし、塗装も綺麗だ」

「本当ですか?」

「ああ、本当だ」

少女は嬉しそうに微笑んだ。そして、少しずつ、話し始めた。「あの、この魔導機兵、『守護騎士』って、名前なんです」

「守護騎士?」

「はい……盾で仲間を守る、そういうコンセプトで……」少女は模型の盾を指差した。「この盾は、魔力障壁を展開できて……理論上は、S級の攻撃も、防げるんです……」

「へぇ、すごいな」ヴァンは興味深そうに聞いた。「他の武装は?」

「左手には魔力剣……」少女は次々と説明していく。「装甲も二重構造になっていて、外装は物理防御、内装は魔力防御……」

ヴァンは感心した。「よく考えられてるな」

「あ、ありがとうございます……」少女は顔を赤らめた。「でも……実戦では、多分……使えないと、思います……」

「なんで?」

「だって……」少女は少し悲しそうに笑った。「こんなに大きくて、重くて動かすのに、すごく魔力が必要で非効率、ですから」

「ああ、確かに」ヴァンは頷いた。「人型である必要性も、正直ないよな。二本足はバランスが悪いし、接地面積も広すぎる」

「で、でも……!」

少女は少しだけ抵抗するように、模型を胸に抱きしめた。

「お兄様は、よく言っていました。『人型こそが、騎士の誇りだ』と……! 『堂々と二本足で立ち、敵を見下ろしてこそ、帝国の威光を示せる』」

(お兄様……)
 少女の目に、わずかな寂しさが浮かんだ。

「……ロマンね」
ヴァンは苦笑した。その気持ちは痛いほど分かる。前世の自分もそうだったからだ。だが、今は違う。

「戦場じゃ、ロマンで人は守れない。背が高いってだけで『私を撃ってください』って言ってるようなもんだ」

ヴァンは冷徹に、しかし諭すように告げた。

「いいか? 必要なのは飾り気のある足じゃない。地面を這うような低い姿勢と、圧倒的な火力だ」

「……低い姿勢……圧倒的な、火力……?」

少女は呆然と呟いた。
今まで父や周囲から聞かされてきた『騎士道』とは真逆の論理。
だが――それは、恐ろしいほどに合理的で、何より『強そう』だった。

「だから、脚なんて取っ払っちまえ」
ヴァンは模型の脚を指差した。

「代わりに『車輪』をつけるんだ。四つ、いや六つか八つ。荷馬車のように安定させて、その分、魔導ランチャーを搭載する。火球や氷柱を連射できるやつ」

「しゃ、車輪……!?」
少女の目が、カッと見開かれた。
さっきまでの迷いは消え失せ、技術者としての狂気がその瞳に宿る。

「そうです……! 車輪なら魔力消費は歩行の十分の一以下……! その余剰魔力を全て火力に回せば……!」

「そうだ。一発の威力は低くても、数で圧倒する」
ヴァンは笑った。
「これなら、コストも抑えられるし、運用も楽だ」

「すごいです!」
少女は目を輝かせた。
「そ、それなら運用も楽だし、補給線も――」

「ただ」
ヴァンは人型の模型を指差した。
「これはこれで、別の使い道がある」

「別の?」

魔導装甲マギ・アーマーにするんだ」ヴァンは説明した。「人が直接装着する、全身覆う型の。単独戦闘用だ」

「ま、魔導装甲!? 」少女の目が、さらに輝いた。「それって、つまり人間が魔導機兵になるってことですか!?」

「そういうこと」

「すごいです! そ、それなら魔力消費も抑えられて……」少女は立ち上がった。

「ああ。大型機を作るより、よっぽど実用的だ」

二人はそのまま、しばらく議論を続けた。戦術論。装備論。魔導技術の応用。少女は最初の怯えた様子など忘れ、目を輝かせながら話していた。ヴァンもまた、前世の知識を思い出しながら、様々なアイデアを出していく。

そして、気づけば、外は暗くなっていた。

「あ」少女は窓の外を見て、驚いた。「も、もう、こんな時間」

「マジか」ヴァンも時計を見た。「結構話し込んだな」

「す、すみません……つい、夢中に」少女は慌てて模型を片付け始めた。

「いや、楽しかったぞ」ヴァンは笑った。「久しぶりに、こういう話ができて良かった」

「わ、私も……です」

少女は名残惜しそうに微笑んだ。

「あの……また、一緒に模型、作ってもいい、ですか?」
「もちろん」ヴァンは立ち上がった。「また図書館で会おう」
「は、はい!」

二人は図書館を出た。
廊下で別れる際、少女は何か言いたげに口を開いたが、結局何も言わずに、小さく頭を下げて去っていった。

(……そういえば、名前聞いてないな)

ヴァンはその背中を見送りながら、小さく呟いた。
まあいい、また会えるだろう。

彼女の佇まいや、あのレースのドレスの質からして、明らかに上流貴族の令嬢だ。しかも、技術への並々ならぬ情熱と知識。
(……面白い人物に出会ったものだ。また会えれば、今度は名前を聞こう。)



一方、少女は廊下を小走りで進んでいた。

(……楽しかった)

胸が高鳴っている。

今まで、誰も分かってくれなかった。
「女の子らしくない」「変わり者」――そう言われ続けてきた。

でも、あの人は違った。

一緒に模型を組み立ててくれた。
戦術を語り合ってくれた。
「カッコいい」と言ってくれた。

(また……会いたい)

少女は胸に手を当てた。

(名前も、聞いてないのに……)
でも、きっと――また会える気がする。
「リヴィア様!」
突然、背後から声がかかった。
振り返ると、そこには侍女のマリアが立っていた。息を切らしている。
「こんな時間まで図書館に? 旦那様がお呼びです。至急、お屋敷へ!」
「あ……は、はい……」
リヴィアは慌てて頷いた。
だが、その胸には――まだ温かな余韻が残っていた

* 

その日の夜。

ヴァンが寮に戻ると、ローランが興奮した様子で待ち構えていた。

「ヴァン! 明日、店に来てくれよ!」
「店?」
「ああ、帝国戦棋:冠位指定の店だ! もう準備が整ったんだ。明日、グランドオープンする!」
「マジか、早いな」

ヴァンは苦笑した。

「エレナにも声かけとけよ。あいつ、この戦棋の第一人者なんだから」
「おう、任せろ!」

この商魂の逞しさは見習うべきだ。
シンカクからの連絡はまだない。焦って動くよりは、表向きの生活を続けた方がいいだろう。

「わかった、行くよ」
「ありがとう!」

翌朝、中庭でエレナに会うと、彼女は既にローランから聞いていたようだ。
「お兄様、今日の午後、お時間ありますの?」
「ああ、暇だぞ」
「では、一緒にあの店に行きましょう。ローランから招待状をいただきましたわ」

エレナは少し嬉しそうに笑った。

「楽しみですわね」

ヴァンはエレナと共に、ローランの店へ向かった。帝都の商業区。賑やかな通り。その一角に、新しい看板が掲げられていた。

『帝国戦棋:冠位指定グランド・オーダー

店の前には、既に人だかりができていた。学生たち、若い貴族たち、さらには軍人の姿も見える。皆、興味津々といった様子で、店の中を覗き込んでいる。

「すごい人ですわね……」
「ああ、予想以上だな」

エレナも驚いた様子だ。
店の中に入ると、ローランが忙しそうに働いていた。

「いらっしゃいませ! ああ、ヴァン! 見てくれよ、この盛況ぶり! もう満席だ!」

確かに、店内は満員だった。
テーブルというテーブルに人が座り、戦棋を楽しんでいる。
二人は店の向かいにある、オープンテラスの茶館に席を取った。 

「ローランから拡張パックを持ってきてもらいましょう」
「そうだな」

エレナは楽しそうにメニューを開いた。
平和な休日。大盛況のビジネス。
だが、その平穏は、唐突に破られた。

「……なんだ、あの騒ぎは?」

ヴァンが顔を上げると、店の前に数人の男たちが現れていた。
旧式クラシックなデザインの軍服。だが、手入れは行き届いている。胸には、鷲と剣をあしらった、しかし現在の帝国軍ではほとんど使われていない古いデザインの階級章。だが、その態度は明らかに攻撃的だった。
リーダー格の男が、戦棋のセットを高く掲げ、大声で叫んだ。

「こんな子供騙しを売りやがって!」

周囲の人々が、驚いて振り返る。
男は続けた。

「高貴なる『帝国戦棋』を、こんな下品な遊びに変えるとは! 帝国の名を汚すにも程があるぞ!」

そして――

バシャン!

男は戦棋のセットを、地面に叩きつけた。
駒が飛び散り、盤が割れる音が響く。

「こんな軟弱なルールを広める店は、営業停止だ! おい、店主を出せ!」 
「そ、そんな……!」

ヴァンは目を細めた。エレナも、冷たい目で男たちを見ている。

(……何だ、あいつら)




【第十二章・終】
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