富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

文字の大きさ
3,137 / 3,215

真剣 大おヒラメ会 Ⅵ

しおりを挟む
 酒のつまみを作り始める。
 刺身は「おヒラメ様」、マグロの赤身と中トロ、それにボタンエビ。
 雪野ナスとアスパラベーコン、薄めの牛カツ(おヒラメ様が多かったので、奇跡的に牛肉が余った!)。
 巾着タマゴ、揚げ出汁豆腐。
 唐揚げ大量。
 それにふかし芋。
 いつも通りのものだ。
 亜紀ちゃんが刺身を担当する。

 「あれ?」
 
 冷蔵庫から柵を出しながら、亜紀ちゃんが首を傾げた。

 「どした?」
 「タカさん、「おヒラメ様」、こんなに残しましたっけ?」
 「ん?」

 俺が見に行くと、確かに多い。
 30キロを受け取ったはずで、刺身用に3キロくらいを分けた記憶がある。

 「おい、どう見ても10キロはあるよな?」
 「ですよね?」
 
 おかしい。
 最初にでかい塊でもらったから勘違いか?
 まあ、俺たちに喰えないことはない。
 亜紀ちゃんは先にマグロなどを切って行く。
 ルーとハーが揚げ物、皇紀がカプレーゼと炒め物、俺が煮物を担当した。
 
 「あ! なんだこりゃ!」

 亜紀ちゃんが叫ぶ。

 「タカさん! 大変ですよ!」
 「あんだ?」

 亜紀ちゃんはマグロなどを切り分けて、「おヒラメ様」に取り掛かったようだ。
 それを指差している。
 他の子どもたちも見た。

 「「「「!」」」」

 明らかにまた大きくなっている。
 まるで完全に元の30キロのサイズだ。

 「おい、どうなってんだ!」
 「分かりません! でも、増えてますよね!」

 ルーが重さを量った。

 「30キロだよ!」
 「「「「!」」」」
 「にゃ!」

 ロボは付き合い。
 もう間違いない。
 こいつは増殖している!

 「すぐにエイダン漁業組合長に連絡しろ!」
 「はい!」

 亜紀ちゃんが電話を掛けた。

 「はい、エイダンです」
 「あの、「おヒラメ様」が増えてるんですけど!」
 「え?」
 「3キロばかり残しておいたんですよ!」
 「はい」
 「30キロに戻りました!」
 「なんです?」

 俺が電話を替わった。

 「おい、「おヒラメ様」って増えるのかよ!」
 「あの、すいません。意味が分からないんですが?」
 「お前ぇ!」

 興奮していたが、落ち着いてちゃんと経緯を話した。
 エイダンもようやく事態を呑み込む。

 「お話は分かりましたが、私も以前にイヌイットの伝承を聞いていただけですので。漁業を真面目にやっていると、数百年に一度海神様から褒美の「おヒラメ様」が贈られるのだと。そのお姿は見たこともない巨大なサイズであること。そして食すとそれは美味なのだということだけです」
 「増えねぇのか!」
 「そういう話は。でも今回はイシガミ様のことですから、何かあるかもしれないと思っておりました」
 「お前はどうして大事なことを話さねぇんだよ!」

 こいつは18メートルというサイズも口にしなかった。 
 まあ、エイダンを怒っても仕方がない。
 とにかく、誰か詳しい人間に聞けと言って電話を切った。

 「タカさん、これ、どうしましょう」
 「喰うな。何があるか分からねぇからな」
 「でもこのまま大きくなっては」
 「いざとなれば「花岡」で吹き飛ばす。なんなら俺の「虎王」もあるしな」
 「はい」

 双子がモジモジしていた。

 「タカさん、さっき美味しかったよ?」
 「狩人の血が騒いでるよ!」
 「お前らが狩ったわけじゃねぇだろう!」

 ただ美味いものを喰いたいだけだ。
 まあ、さっきも喰ったしなぁ。
 今更食べると不味いということはないだろう。
 体調に全く変化はない。
 むしろ快調だ。
 「おヒラメ様」は確実に人体へ良い効能をもたらしている。
 それは俺にも確信出来た。
 問題は、そいつが無秩序に増えることだ。
 双子が尚も喰いたそうな顔で俺を見ている。
 ロボもねだって来た。

 「分かったよ! じゃあ、刺身で喰うぞ!」
 「「「「わーい!」」」」

 刺身だけでは多いので、俺はカツレツも作った。
 揚げ物は子どもたちが大好きだからだ。
 準備が終わり、俺たちはガラス張りのテラスへ移動した。
 林に面して、いい雰囲気の場所だ。
 ここを建築した奴らは、相当腕がいい。

 みんなで楽しんでいると、エイダンから電話があった。

 「イヌイットの長老から話が聴けました!」
 「ああ、あいつかー」

 前に「柱」を貰った奴だ。

 「それでですね、イヌイットの伝承で、一度だけ「おヒラメ様」が増えたということがあったそうです!」
 「そうなのか!」
 「はい! 一度に食べずに残すと、また元の大きさに戻るのだと。もう数百年も前のことで、黒髪の大きな男が漂着してからだそうです!」
 「黒髪の大男?」
 「はい、白人では無かったようですが」
 「そいつの記録はあるのか?」
 「はい、口伝での伝承なのですが、その大柄な黒髪の男が海辺で「柱」を拾ったのだと」
 「そいつかぁ!」
 「はい?」

 まあ、悪いものではなかったのだが、結構怖かった奴だ。
 黒髪の大男かぁ。
 一般にイヌイットはそれほど体格は大柄ではないので、大男というのはどれほどのものか分からん。

 「その男は刀剣を持っていて、クジラでもセイウチでも、また狼でも熊でも一撃で斃したと。スゴイですね」
 「ん?」

 何か引っ掛かるものがあったが、今はそれどこじゃねぇ。

 「もうそこはいいよ。でもその時にサイズが戻ったということなんだな?」
 「そうなんです! だからしばらくはその一族は食べ物に困らなかったのだと」
 「ほう」
 
 聖書にある《マナ》のようなものか。
 《マナ》はどんなに多くの人間が集まっても不足することはなく、逆に少ない人間が集まっても余ることはなかったと言う。
 まあ、こいつがそんな精妙な調整までするかは分からんが。
 取り敢えずガンガンでかくなる奴だ。
 
 「そうか! 食い切らなきゃいけないってことかぁ!」
 「はい?」
 「まあ、とにかく分かった。ありがとうな」
 「とんでもございません!」

 エイダンの電話を切った。

 「おい、「おヒラメ様」は全部喰い切れ! そうしないと元に戻るぞ!」
 「え? どういうことです?」

 俺は聖書にある《マナ》の話をしてやった。
 まあ、聖書の《マナ》は放っておくと腐るのだが。
 「おヒラメ様」はちょっと違うっぽいが、いつまでも無くならないのは同じだ。
 俺たちは焦って30キロの「おヒラメ様」を喰って行った。
 先ほど食事を済ませたので結構満腹だが、頑張って喰った。
 もしかしたら、明日になると腐るのかもしれない。
 でもそれは石神家として頂いた食物に対する無礼だ。
 もう飲み会と言うよりも、真剣に「おヒラメ様」を食べることに集中した。
 腹は一杯だったのだが、食い残しは絶対にいかん。
 ロボもまた食べたがったので、刺身と日本酒をやると嬉しそうに食べた。

 まあ、俺たちが本気になれば、30キロといえども何とでもなる。
 30分も格闘して、刺身もカツレツも無くなった。
 ロボはもう俺の後ろのクッションで満足そうに毛づくろいを始めた。
 流石に満腹なのだろう。
 俺たちもちょっと苦しかった。

 「一安心だな!」
 「「「「はい!」」」」

 まあ、とにかく美味いので何とか食い切った。

 「喰ったなー」
 「そうですね」
 「美味しいけど、もういいですね」
 「でもまた食べたいね」
 「あたし、もうちょっと食べれる」

 みんなで笑って終わった。

 「まあ、なんだか「おヒラメ会」って感じだったな」
 「「「「ワハハハハハハハハ!」」」」
 「ニャハハハ!」

 ゆっくりと酒を飲み始めた。
 しばらく楽しく話していると、何かさっぱりしたものが喰いたくなった。
 腹は空いていないが、口直しのような感覚だ。
 双子に、カプレーゼのチーズを薄くしてくれと頼んだ。
 ついでにナスの煮びたしも作って来た。

 「「アァァァァァァーーー!」」
 「どうした!」
 
 双子が床を指差している。
 全員で観た。

 「「「……」」」

 ロボの喰い残しがまた増えてた。
 しかもさっきよりもでかい。
 50キロはありそうだ。

 「おい、やるぞ!」
 「「「「はい……」」」」

 必死に喰った。
 石神家の全力を振るった。
 ロボは寝てた……
 こいつぅー。

 「絶対に欠片も残すな!」
 「「「「はい!」」」」

 子どもたちに喰わせながら、俺は他に残りが無いかを厨房などに行って真剣に探した。
 戻ると言われた。

 「タカさんも!」
 「おう!」

 しかし、数切れがまた異常な速さで増殖した。

 「おい、喰え!」
 「さっきとスピードが違うよ!」
 「夜中になると早くなるんじゃ!」
 「いいから喰え! 急げ! 手が付けられなくなるぞ!」
 「もうちょっとだったのにぃー!」
 「言ってる間に呑み込め!」

 必死に喰って、なんとか全て無くなった。
 ふぅー。
 もう余計なものを腹に入れる余裕はなく、刺身で全部食べた。
 やっと片付けて、酒の入る隙間もなくなったので寝ることにした。
 大部屋で全員一緒に寝た。
 ちょっと慌てることもあったが、また楽しい「石神家会」だった。




 翌朝、とんでもないことになった。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

付喪神狩

やまだごんた
キャラ文芸
古い道具には年月と共に人の情念が蓄積され、それが意思を持ったものが付喪神と呼ばれる。 容姿端麗だが口も性格も女癖も悪い大和御門は日本で唯一の付喪神狩として、付喪神を祓う能力者。 自分に取り憑いた大口真神を引き連れ、同居中の相方・棚橋亨と繰り広げる現代異能バトル

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

『続・聖パラダイス病院』

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...