富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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《オペレーション・ゴルディアス》 Ⅷ : 宇羅堕流

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 「ここだよな」
 「はい」

 虎白さんが「常世渡理」を持った私に確認した。
 もうここにいる全員が分かっているが、一応神剣を持つ私に正確な位置を聞いたのだ。
 とんでもない奴がいる。

 「虎蘭、分かるか?」
 「ええ、はっきりと。前方2キロ地点に確実にいますね」
 
 私が答えると、虎白さんが不敵に笑った。
 神剣を持たない虎白さんも、敵の位置を把握している。
 私に尋ねたのは、その感覚を確認したということだろう。
 そしてその笑いは、獲物を私と争うつもりの笑顔だ。
 一緒にいる斬さんは黙っているが、同じ思いだと確信した。
 もうこのロシアには多くの敵は残っていない。
 亜紀ちゃんや妖魔の王たちの攻撃で、ほとんどの敵は駆逐されている。
 まあ、本来は誰も生き残れない攻撃だったのだ。
 ロシアの大地は数百メートルに亘ってめくれ上がり、更には強力なエネルギーが貫通しているのだ。
 今残っているのは、そういう甚大な破壊をレジストする強大な者たちだ。
 「業」は確実に生き残っているだろう。
 後は「業」の側近の宇羅とミハイル、キリール、それと他はいても数人だろう。
 もちろん、「業」の有する膨大な妖魔たちもいる。

 高虎さんが「ボルーチ・バロータ」を捕らえて得た情報から、「業」は数人の側近を持っていることが分かっていた。
 それらは最後まで「業」が従えるために、堅牢な守りがあるのだろうと思われた。
 その守りは妖魔たちであり、その中でも恐らくは《青い剣士》の使う「界離」だろう。
 つまり、これからの戦闘は《青い剣士》を中心としたものになる。
 もちろん私たちは《青い剣士》に十分に対抗出来る人間たちだ。
 石神家の剣聖と斬さん、それに亜紀ちゃん。
 「虎酔会」のみなさんは御影隊長と伊庭さんは余裕で相手が出来、他の隊員たちも数人掛かりで対抗できる。
 高虎さんがそういう人間を、この作戦《オペレーション・ゴルディアス》に選んでいる。

 「虎酔会」のみなさんが湧いて出た妖魔たちの迎撃を始めたのが分かる。
 私たちが途中から同行したのは、進行方向に「敵」がいたためだ。
 亜紀ちゃんたちには別な「敵」を頼んでいた。

 「虎蘭、来るぜ」

 虎白さんが言い、私たちは《ジャガーノート》から飛び出した。
 斬さんももちろん一緒に来る。

 「波動が黒いぜ。下種の中でも相当な奴だ」
 「はい」

 私にも分かる。
 妖魔の波動は暗いが決して醜くはない。
 それは存在が純粋だからだ。
 人間とは違った暗さなので明確に区別はつくのだが、私はそれほど嫌ではない。
 敵は妖魔、人間の区別なく斬り伏せるだけのことだ。

 だが、今ここに感じている波動は恐ろしく醜い。
 人であることを辞めただけではない、何か存在として汚れてしまったものの波動だ。
 人間だけが可能な、どす黒い汚れ。
 至高な存在を目指すことが出来る人間だからこそ、恐ろしく穢れることが出来るのだ。
 欲望のままに進む者はまだいい。
 それは愚かではあれど、それほどには醜くはない。
 動物本能に根付いた行動だからだ。
 存在の汚れとは、高度に穢れを自ら生み出して溺れて行くことだ。
 自ら存在の在り方に逆らい、その反対を求め堕ちて行く者。
 この穢れは「業」に連なった者のみにまとわりつくものだ。
 ならばこいつは……

 1キロまで近づいた時、土砂が積もった地面が盛り上がった。
 強大なプレッシャーを感じる。
 その瞬間、全員が飛び出して行った。
 虎白さん、虎豪さん、虎水、斬さん、そして私。
 後ろから「虎酔会」の支援砲撃がある。
 流石にあの方たちはやることが早い。
 敵の出現を知った途端に行動してくれる。
 私は笑いながら突っ込んだ。
 虎白さんたちも同じだ。
 斬さんだけは変わらない。
 あの人は戦闘で何かが変わることは無い。
 5人で一斉に大技を放つ。
 同時に「霊素観測レーダー」からの解析が耳に聞こえる。
 「敵」の他に《地獄の悪魔》120億、《青い剣士》130万。
 やはり「業」は《青い剣士》をそれだけ用意できるのだ。
 高虎さんは「数億」と言っていたが、多くは「業」の傍に控えているのだろう。
 だが、これほどの数がいるということは、やはり側近の拠点なのだ。
 私たちは「魔方陣」を使っての攻撃で、どんどん敵を削っていく。
 何度か《青い剣士》がレジストするが、何度も撃っている間に斃されていく。
 私たちの方が圧倒的に強い。

 「虎蘭、一気に行けぇ!」
 「はい!」

 虎白さんが戦況の流れを読んで叫んだ。
 もちろん私もその流れで動き始めている。
 私は「常世渡理」で「星躯」を撃った。
 一挙に《青い剣士》と《地獄の悪魔》が消えていく。
 「常世渡理」の固有技であり、広範囲の妖魔を駆逐出来るものだ。
 虎白さんたちが開けた前方を駆け抜け、空中に上がって地面に大技を撃ち込んで行く。
 「敵」がまだ地中にいることが分かっているのだ。
 私にも、間違いなく虎豪さんも虎水も斬さんも感じている。
 虎白さんは私に露払いをさせ、自分が初撃を撃とうと先んじたのだ。
 ずるい人だ。
 私たちも少し遅れて攻撃を始めた。

 虎白さんの攻撃で再び地表が荒れ狂い、削れていく。
 また削りながら高熱で焼き尽くし、更に妖魔特効の破壊エネルギーを撒き散らして行く。
 それらが地面に穿たれて、やがて地下深くが抉られていった。
 もちろん、虎白さんたちがそうなるように技を放っている。
 
 やがて斬さんはその作業を任せ、空中で監視していた。
 私もそうだ。
 戦場に慣れた者たちなので、自然にそういう分担が出来ていた。
 私と斬さんはこれから出て来る何かに備えているのだ。
 虎白さんと虎豪さんと虎水は、地面を抉る技を撃ちながら、咄嗟の事態に対応出来る。

 「おい、娘」
 「はい!」

 斬さんが私に声を掛けた。
 私も分かっている。
 次の瞬間、超高温で抉られた中から、何かが上がって来た。
 随分と大きい。
 それは、黒い巨大な鱗に覆われた牛のような顔だった。
 もちろん牛ではなく、牛よりも大きな角が前方に伸び、大きく割れた口が頭の半ばまで達して巨大な牙が並んでいる。
 3つに割れた長い舌が、その狂暴な口から出てうごめいている。
 鼻と口が突き出した顔の両側に目があるが、額にも縦に巨大な瞳が開いている。
 身体のフォルムは人間のそれだが、体長は30メートルにも上る。
 それに筋肉は異常に逞しいし、両手と両足の爪は太く長い、
 下半身は長く黒い体毛に覆われていた。
 
 (間違いなく「業」の側近だ)

 恐ろしく強烈な闘気を放っている。
 これまで誰も対峙していない強敵だ。
 自然に笑いが込み上げて来るのを感じた。




 こいつを狩る。
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