富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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《オペレーション・ゴルディアス》 Ⅶ : 予言

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 石神たちがロシア全土で救出作戦を展開した後日。
 私たちは「業」様の居室へ呼ばれた。
 私、ミハイル、キリール、そしてタイニー・タイドだ。
 「業」様が「ゲート」を開き、招集されたのだ。
 私たちが「業」様に呼ばれるのはいつものことではあるが、四人の側近が同時に集められるのは滅多に無い。
 私たちは「業」様の下でそれぞれに重要な拠点を担って来た者たちであり、独自の戦略をお預かりしているためだ。
 特にキリールは巨大な身体になっているので、「業」様のお力で分体になって来ている。
 他にも側近はいるが、我々四人が最重要の拠点と御命令を頂いている。
 私たちが「業」様の居室に集まると同時に、轟音が響き渡り、この堅固な場所ですら激しく揺らいだ。
 偶然、石神たちの攻撃が近くにあったようだ。
 それに驚いている間は無く、私たちは居室へ急いだ。
 「業」様の前でタイニー・タイドが私たちに言った。

 「このイシガミたちの作戦は、いずれ来る大侵攻作戦の前哨戦だったようです」
 「あいつらは何をしていたのだ?」
 
 ミハイルが問うので、タイニー・タイドに替わって私がミハイルに説明した。
 ロシア全土に散らばった妖魔たちから報告を受けている。

 「ロシアで生き残った者の救出作戦のようです。だから積極的な戦闘を避けながら、アラスカへ運んでいたようですね」
 「ふん、無駄なことを」

 「業」様が口を開かれた。

 「ミハイルの言う通りだ。タイニー・タイドが今回のことも予言しているが、石神たちの戦力を測ることが出来た。あの女だけの軍団を潰してみたかったが、《リェーズヴィエ》を殺すことが出来る実力と知れた」
 「ですが《リェーズヴィエ》はまだ未完成です!」
 「そうだ。だからこそ石神たちも思い上がっていることだろう。タイニー・タイドはそういうことも含めて本格的な反撃を控えるように進言して来たのだ」
 「なるほど! 「業」様の素晴らしい御英断です!」

 ミハイルはタイニー・タイドの手柄ではなくしたい思いでそう言った。
 
 「この後、大規模な侵攻作戦が来る。お前たちはそれに備えよ。その時が来れば、俺がお前たちに力を与えてやる」
 「おお、「業」様!」

 私は歓喜に震えた。
 ついにその時が来るのだ。




 年が明け、再び「業」様に呼ばれ、四人で居室へ急いだ。
 途中でタイニー・タイドが、石神たちの総攻撃が始まることを告げた。
 いずれ石神たちの総攻撃が来ることを既に予言により全員が知っていたが、想像以上にこれまでにない大規模な攻撃だった。
 歩いて行く間に妖魔たちからの報告があり、既に大半の《ウーリッヒ(=ハイヴ)》と拠点が喪われてしまったことが分かった。
 当然「業」様も御存知になっているはずだ。
 緊張しながら巨大な扉を開くと、「業」様が微笑んで待っておられた。
 あの「業」様が笑うことなど滅多には無い。
 それに、あの黒い霧が部屋に蔓延している。
 「業」様は上機嫌なのだ。 
 巨大なザハ・ハディドの椅子に座られた「業」様が、私たちに言った。 

 「いよいよ石神が総攻撃を仕掛けて来た」
 「「「「はい」」」」

 「業」様は少しも慌ててはいらっしゃらない。
 石神が何をしようと、「業」様の偉大さは決して揺らぐことは無い。
 そして私はいよいよこの時が来たことに歓喜していた。
 ついに「業」様のためにこの身を捧げる時が来たのだと分かった。
 ああ、待ち焦がれた日がようやくやって来た。

 「またもタイニー・タイドが予言が的中していた」

 「業」様の言葉に、私は感嘆の声を挙げた。
 これまでもタイニー・タイドの予言により私たちは石神たちを苦しめて来た。
 石神が密かに準備した作戦などもタイニー・タイドによって予言され、「業」様はその度に反撃の御準備をなさった。
 予想外のことに、石神たちはさぞ驚いていただろう。
 反対にタイニー・タイドの予知によって、石神たちの意表を衝く攻撃もあった。
 私たちの力不足によって思うような結果が出なかったこともあったが、石神をもう一歩で殺すようなこともあったのだ。
 今回の総攻撃もタイニー・タイドが予言していたということは、「業」様は既に手を打っているということだった。
 ならば何も慌てることは無い。
 「業」様が御言葉を続けられた。

 「今回は大規模な攻撃だ。ロシアの全土に対するもので、石神は最大戦力を仕向けて来るようだ」
 「「業」様、重要な場所は隠されております。イシガミたちにも見つけ出すことは出来ないでしょう」
 「そうです。《リェーズヴィエ(=青い剣士)》が拠点を護っております。石神たちがどんな特殊なレーダーを持っていても発見できないはずです。それに万一露見しても《リェーズヴィエ》が揃っておれば負けることはありません」
 
 ミハイルと私が奏上した。

 「安心するな。先日、死王を攫ったが、幼いあいつでさえも既に《リェーズヴィエ》を撃破出来る実力を持っていることが判明した。数を揃えれば話は別だが、まだ一億にも満たない。石神を侮るな。あいつは強い」
 「「「「はい!」」」」

 「業」様が私たちを見てまた微笑まれた。

 「だがもう遅い。石神が何をしようと、俺たちの勝利は絶対に揺るがない。既に人類を滅ぼす準備は整っている」
 「「「「はい!」」」」
 「石神たちは間に合わない。もう終わったのだ」
 「「「「はい!」」」」

 そうだ、「業」様はついに勝ったのだ。
 石神たちはこれからそのことを知り、絶望に嘆くだろう。

 「宇羅、ミハイル、キリール、お前たちに最後の力を与える」
 「おお、「業」様!」

 私は思わず叫んでしまった。
 この栄誉のために私は「業」様に尽くして来たのだ。
 私は「業」様のために大いなる力を振るいたかった。
 人間の身では決して宿せない強大な力を得て、「業」様のために人類を滅ぼす。
 人類がこれまで絶対に成し得なかった無比の力。
 道間家の長い歴史でも、誰も得られなかった。
 先祖が制御出来ず自滅した、あの「大堕陀王」すら遙かに凌ぐほどの大いなる力。
 「業」様だからこそお与え下さる巨大な力。
 私は歓喜に震えた。
 キリールも同じく喜んでいたが、ミハイルは脅えていた。
 この日が来ることは分かっていただろうに、あいつは器が小さすぎる。
 だが何にしても「業」様に逆らうわけもなく、大人しくしていた。
 
 「業」様が立ち上がり、その瞬間私は自分の中に凄まじい噴流が流れ込んで来たのを感じた。
 意識が何層にも重なり変容し、もはや小さな「私」などは広大な領土の片隅に追いやられた。
 同時に私の意識も全ての層に貫通し、私がそこに君臨する。
 もはや自分が何者であるかを見失いながら、「私」が存在した。
 私は「約束」を得た。
 この先、私は「業」様の中で永劫になる未来が確定したのだ。
 魂が「業」様に呑み込まれる約束。
 これほどの栄光は無い。
 ついに私は手に入れたのだ。

 私は自分のいるべき戦場へ「業」様によって送られた。
 全てを蹂躙する力を持った私は、小さな敵たちを待った。

 そして、あやつらは現われた。


















 一瞬だが、京都の道間家で見たあの女の顔が過った。
 私はそれを無視し、栄光の力に身を震わせた。
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