3,190 / 3,202
《オペレーション・ゴルディアス》 Ⅷ : 宇羅堕流
しおりを挟む
「ここだよな」
「はい」
虎白さんが「常世渡理」を持った私に確認した。
もうここにいる全員が分かっているが、一応神剣を持つ私に正確な位置を聞いたのだ。
とんでもない奴がいる。
「虎蘭、分かるか?」
「ええ、はっきりと。前方2キロ地点に確実にいますね」
私が答えると、虎白さんが不敵に笑った。
神剣を持たない虎白さんも、敵の位置を把握している。
私に尋ねたのは、その感覚を確認したということだろう。
そしてその笑いは、獲物を私と争うつもりの笑顔だ。
一緒にいる斬さんは黙っているが、同じ思いだと確信した。
もうこのロシアには多くの敵は残っていない。
亜紀ちゃんや妖魔の王たちの攻撃で、ほとんどの敵は駆逐されている。
まあ、本来は誰も生き残れない攻撃だったのだ。
ロシアの大地は数百メートルに亘ってめくれ上がり、更には強力なエネルギーが貫通しているのだ。
今残っているのは、そういう甚大な破壊をレジストする強大な者たちだ。
「業」は確実に生き残っているだろう。
後は「業」の側近の宇羅とミハイル、キリール、それと他はいても数人だろう。
もちろん、「業」の有する膨大な妖魔たちもいる。
高虎さんが「ボルーチ・バロータ」を捕らえて得た情報から、「業」は数人の側近を持っていることが分かっていた。
それらは最後まで「業」が従えるために、堅牢な守りがあるのだろうと思われた。
その守りは妖魔たちであり、その中でも恐らくは《青い剣士》の使う「界離」だろう。
つまり、これからの戦闘は《青い剣士》を中心としたものになる。
もちろん私たちは《青い剣士》に十分に対抗出来る人間たちだ。
石神家の剣聖と斬さん、それに亜紀ちゃん。
「虎酔会」のみなさんは御影隊長と伊庭さんは余裕で相手が出来、他の隊員たちも数人掛かりで対抗できる。
高虎さんがそういう人間を、この作戦《オペレーション・ゴルディアス》に選んでいる。
「虎酔会」のみなさんが湧いて出た妖魔たちの迎撃を始めたのが分かる。
私たちが途中から同行したのは、進行方向に「敵」がいたためだ。
亜紀ちゃんたちには別な「敵」を頼んでいた。
「虎蘭、来るぜ」
虎白さんが言い、私たちは《ジャガーノート》から飛び出した。
斬さんももちろん一緒に来る。
「波動が黒いぜ。下種の中でも相当な奴だ」
「はい」
私にも分かる。
妖魔の波動は暗いが決して醜くはない。
それは存在が純粋だからだ。
人間とは違った暗さなので明確に区別はつくのだが、私はそれほど嫌ではない。
敵は妖魔、人間の区別なく斬り伏せるだけのことだ。
だが、今ここに感じている波動は恐ろしく醜い。
人であることを辞めただけではない、何か存在として汚れてしまったものの波動だ。
人間だけが可能な、どす黒い汚れ。
至高な存在を目指すことが出来る人間だからこそ、恐ろしく穢れることが出来るのだ。
欲望のままに進む者はまだいい。
それは愚かではあれど、それほどには醜くはない。
動物本能に根付いた行動だからだ。
存在の汚れとは、高度に穢れを自ら生み出して溺れて行くことだ。
自ら存在の在り方に逆らい、その反対を求め堕ちて行く者。
この穢れは「業」に連なった者のみにまとわりつくものだ。
ならばこいつは……
1キロまで近づいた時、土砂が積もった地面が盛り上がった。
強大なプレッシャーを感じる。
その瞬間、全員が飛び出して行った。
虎白さん、虎豪さん、虎水、斬さん、そして私。
後ろから「虎酔会」の支援砲撃がある。
流石にあの方たちはやることが早い。
敵の出現を知った途端に行動してくれる。
私は笑いながら突っ込んだ。
虎白さんたちも同じだ。
斬さんだけは変わらない。
あの人は戦闘で何かが変わることは無い。
5人で一斉に大技を放つ。
同時に「霊素観測レーダー」からの解析が耳に聞こえる。
「敵」の他に《地獄の悪魔》120億、《青い剣士》130万。
やはり「業」は《青い剣士》をそれだけ用意できるのだ。
高虎さんは「数億」と言っていたが、多くは「業」の傍に控えているのだろう。
だが、これほどの数がいるということは、やはり側近の拠点なのだ。
私たちは「魔方陣」を使っての攻撃で、どんどん敵を削っていく。
何度か《青い剣士》がレジストするが、何度も撃っている間に斃されていく。
私たちの方が圧倒的に強い。
「虎蘭、一気に行けぇ!」
「はい!」
虎白さんが戦況の流れを読んで叫んだ。
もちろん私もその流れで動き始めている。
私は「常世渡理」で「星躯」を撃った。
一挙に《青い剣士》と《地獄の悪魔》が消えていく。
「常世渡理」の固有技であり、広範囲の妖魔を駆逐出来るものだ。
虎白さんたちが開けた前方を駆け抜け、空中に上がって地面に大技を撃ち込んで行く。
「敵」がまだ地中にいることが分かっているのだ。
私にも、間違いなく虎豪さんも虎水も斬さんも感じている。
虎白さんは私に露払いをさせ、自分が初撃を撃とうと先んじたのだ。
ずるい人だ。
私たちも少し遅れて攻撃を始めた。
虎白さんの攻撃で再び地表が荒れ狂い、削れていく。
また削りながら高熱で焼き尽くし、更に妖魔特効の破壊エネルギーを撒き散らして行く。
それらが地面に穿たれて、やがて地下深くが抉られていった。
もちろん、虎白さんたちがそうなるように技を放っている。
やがて斬さんはその作業を任せ、空中で監視していた。
私もそうだ。
戦場に慣れた者たちなので、自然にそういう分担が出来ていた。
私と斬さんはこれから出て来る何かに備えているのだ。
虎白さんと虎豪さんと虎水は、地面を抉る技を撃ちながら、咄嗟の事態に対応出来る。
「おい、娘」
「はい!」
斬さんが私に声を掛けた。
私も分かっている。
次の瞬間、超高温で抉られた中から、何かが上がって来た。
随分と大きい。
それは、黒い巨大な鱗に覆われた牛のような顔だった。
もちろん牛ではなく、牛よりも大きな角が前方に伸び、大きく割れた口が頭の半ばまで達して巨大な牙が並んでいる。
3つに割れた長い舌が、その狂暴な口から出てうごめいている。
鼻と口が突き出した顔の両側に目があるが、額にも縦に巨大な瞳が開いている。
身体のフォルムは人間のそれだが、体長は30メートルにも上る。
それに筋肉は異常に逞しいし、両手と両足の爪は太く長い、
下半身は長く黒い体毛に覆われていた。
(間違いなく「業」の側近だ)
恐ろしく強烈な闘気を放っている。
これまで誰も対峙していない強敵だ。
自然に笑いが込み上げて来るのを感じた。
こいつを狩る。
「はい」
虎白さんが「常世渡理」を持った私に確認した。
もうここにいる全員が分かっているが、一応神剣を持つ私に正確な位置を聞いたのだ。
とんでもない奴がいる。
「虎蘭、分かるか?」
「ええ、はっきりと。前方2キロ地点に確実にいますね」
私が答えると、虎白さんが不敵に笑った。
神剣を持たない虎白さんも、敵の位置を把握している。
私に尋ねたのは、その感覚を確認したということだろう。
そしてその笑いは、獲物を私と争うつもりの笑顔だ。
一緒にいる斬さんは黙っているが、同じ思いだと確信した。
もうこのロシアには多くの敵は残っていない。
亜紀ちゃんや妖魔の王たちの攻撃で、ほとんどの敵は駆逐されている。
まあ、本来は誰も生き残れない攻撃だったのだ。
ロシアの大地は数百メートルに亘ってめくれ上がり、更には強力なエネルギーが貫通しているのだ。
今残っているのは、そういう甚大な破壊をレジストする強大な者たちだ。
「業」は確実に生き残っているだろう。
後は「業」の側近の宇羅とミハイル、キリール、それと他はいても数人だろう。
もちろん、「業」の有する膨大な妖魔たちもいる。
高虎さんが「ボルーチ・バロータ」を捕らえて得た情報から、「業」は数人の側近を持っていることが分かっていた。
それらは最後まで「業」が従えるために、堅牢な守りがあるのだろうと思われた。
その守りは妖魔たちであり、その中でも恐らくは《青い剣士》の使う「界離」だろう。
つまり、これからの戦闘は《青い剣士》を中心としたものになる。
もちろん私たちは《青い剣士》に十分に対抗出来る人間たちだ。
石神家の剣聖と斬さん、それに亜紀ちゃん。
「虎酔会」のみなさんは御影隊長と伊庭さんは余裕で相手が出来、他の隊員たちも数人掛かりで対抗できる。
高虎さんがそういう人間を、この作戦《オペレーション・ゴルディアス》に選んでいる。
「虎酔会」のみなさんが湧いて出た妖魔たちの迎撃を始めたのが分かる。
私たちが途中から同行したのは、進行方向に「敵」がいたためだ。
亜紀ちゃんたちには別な「敵」を頼んでいた。
「虎蘭、来るぜ」
虎白さんが言い、私たちは《ジャガーノート》から飛び出した。
斬さんももちろん一緒に来る。
「波動が黒いぜ。下種の中でも相当な奴だ」
「はい」
私にも分かる。
妖魔の波動は暗いが決して醜くはない。
それは存在が純粋だからだ。
人間とは違った暗さなので明確に区別はつくのだが、私はそれほど嫌ではない。
敵は妖魔、人間の区別なく斬り伏せるだけのことだ。
だが、今ここに感じている波動は恐ろしく醜い。
人であることを辞めただけではない、何か存在として汚れてしまったものの波動だ。
人間だけが可能な、どす黒い汚れ。
至高な存在を目指すことが出来る人間だからこそ、恐ろしく穢れることが出来るのだ。
欲望のままに進む者はまだいい。
それは愚かではあれど、それほどには醜くはない。
動物本能に根付いた行動だからだ。
存在の汚れとは、高度に穢れを自ら生み出して溺れて行くことだ。
自ら存在の在り方に逆らい、その反対を求め堕ちて行く者。
この穢れは「業」に連なった者のみにまとわりつくものだ。
ならばこいつは……
1キロまで近づいた時、土砂が積もった地面が盛り上がった。
強大なプレッシャーを感じる。
その瞬間、全員が飛び出して行った。
虎白さん、虎豪さん、虎水、斬さん、そして私。
後ろから「虎酔会」の支援砲撃がある。
流石にあの方たちはやることが早い。
敵の出現を知った途端に行動してくれる。
私は笑いながら突っ込んだ。
虎白さんたちも同じだ。
斬さんだけは変わらない。
あの人は戦闘で何かが変わることは無い。
5人で一斉に大技を放つ。
同時に「霊素観測レーダー」からの解析が耳に聞こえる。
「敵」の他に《地獄の悪魔》120億、《青い剣士》130万。
やはり「業」は《青い剣士》をそれだけ用意できるのだ。
高虎さんは「数億」と言っていたが、多くは「業」の傍に控えているのだろう。
だが、これほどの数がいるということは、やはり側近の拠点なのだ。
私たちは「魔方陣」を使っての攻撃で、どんどん敵を削っていく。
何度か《青い剣士》がレジストするが、何度も撃っている間に斃されていく。
私たちの方が圧倒的に強い。
「虎蘭、一気に行けぇ!」
「はい!」
虎白さんが戦況の流れを読んで叫んだ。
もちろん私もその流れで動き始めている。
私は「常世渡理」で「星躯」を撃った。
一挙に《青い剣士》と《地獄の悪魔》が消えていく。
「常世渡理」の固有技であり、広範囲の妖魔を駆逐出来るものだ。
虎白さんたちが開けた前方を駆け抜け、空中に上がって地面に大技を撃ち込んで行く。
「敵」がまだ地中にいることが分かっているのだ。
私にも、間違いなく虎豪さんも虎水も斬さんも感じている。
虎白さんは私に露払いをさせ、自分が初撃を撃とうと先んじたのだ。
ずるい人だ。
私たちも少し遅れて攻撃を始めた。
虎白さんの攻撃で再び地表が荒れ狂い、削れていく。
また削りながら高熱で焼き尽くし、更に妖魔特効の破壊エネルギーを撒き散らして行く。
それらが地面に穿たれて、やがて地下深くが抉られていった。
もちろん、虎白さんたちがそうなるように技を放っている。
やがて斬さんはその作業を任せ、空中で監視していた。
私もそうだ。
戦場に慣れた者たちなので、自然にそういう分担が出来ていた。
私と斬さんはこれから出て来る何かに備えているのだ。
虎白さんと虎豪さんと虎水は、地面を抉る技を撃ちながら、咄嗟の事態に対応出来る。
「おい、娘」
「はい!」
斬さんが私に声を掛けた。
私も分かっている。
次の瞬間、超高温で抉られた中から、何かが上がって来た。
随分と大きい。
それは、黒い巨大な鱗に覆われた牛のような顔だった。
もちろん牛ではなく、牛よりも大きな角が前方に伸び、大きく割れた口が頭の半ばまで達して巨大な牙が並んでいる。
3つに割れた長い舌が、その狂暴な口から出てうごめいている。
鼻と口が突き出した顔の両側に目があるが、額にも縦に巨大な瞳が開いている。
身体のフォルムは人間のそれだが、体長は30メートルにも上る。
それに筋肉は異常に逞しいし、両手と両足の爪は太く長い、
下半身は長く黒い体毛に覆われていた。
(間違いなく「業」の側近だ)
恐ろしく強烈な闘気を放っている。
これまで誰も対峙していない強敵だ。
自然に笑いが込み上げて来るのを感じた。
こいつを狩る。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】狡い人
ジュレヌク
恋愛
双子のライラは、言う。
レイラは、狡い。
レイラの功績を盗み、賞を受賞し、母の愛も全て自分のものにしたくせに、事あるごとに、レイラを責める。
双子のライラに狡いと責められ、レイラは、黙る。
口に出して言いたいことは山ほどあるのに、おし黙る。
そこには、人それぞれの『狡さ』があった。
そんな二人の関係が、ある一つの出来事で大きく変わっていく。
恋を知り、大きく羽ばたくレイラと、地に落ちていくライラ。
2人の違いは、一体なんだったのか?
芙蓉は後宮で花開く
速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。
借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー
カクヨムでも連載しております。
【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。
文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。
父王に一番愛される姫。
ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。
優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。
しかし、彼は居なくなった。
聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。
そして、二年後。
レティシアナは、大国の王の妻となっていた。
※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。
小説家になろうにも投稿しています。
エールありがとうございます!
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる