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《オペレーション・ゴルディアス》 XⅥ : 昇天
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「タイニー・タイド、各地の《ニルヴァーナ》がほとんど潰されているな」
「カルマ」様は驚いておられなかった。
御機嫌が良いわけでもないが。
もう終わりが近付いていることが分かる。
「予想外の反撃ですね」
「お前の予言では、あれで人類が滅びるはずだったな」
「はい、そうでした」
「5000万カ所もの《ニルヴァーナ》には、石神も対応出来ないはずではなかったのか」
「そうですね」
「カルマ」様は落ち着いていらっしゃる。
むしろ微笑みさえ浮かんでいるようにも見えた。
「どうした、お前には何も言い訳は無いのか」
「「カルマ」様が負けるわけはありませんので」
「カルマ」様のご質問の答えにはなっていなかったが、「カルマ」様は別に私を責めなかった。
「お前は予言を俺に伝えて来た」
「はい」
「お前の予言は全て的中して来たな」
「はい」
「だが、石神を殺すことは出来なかった」
「はい」
「カルマ」様が笑われた。
「お前は俺が負けると思っているか」
「そんなことはございません。「カルマ」様は偉大な方ですので」
「そうだ、俺は石神を殺す権能を与えられた」
「はい、伺っております」
私は「カルマ」様の言葉を肯定しなかった。
「カルマ」様もそれに気付いていたはずだったが、私を咎めなかった。
私が「カルマ」様に絶対的な忠誠を捧げていることは間違いない。
「カルマ」様によって、そうされている。
ウラもミハイルもキリールも他の側近たちも全てそうだ。
逃れる方法は無い。
「カルマ」様はただ、私を見詰めている。
「でも、お前は俺が負けることを確信しているな」
「……」
お答え出来なかった。
「カルマ」様が負けるなどとは、絶対に口に出来ない。
「カルマ」様がザハ・ハディドの巨大な椅子から立ち上がられた。
そんなお姿は初めて見た。
「タイニー・タイド、お前が俺の側にいることは間違いない」
「その通りでございます」
「しかし、お前は違うな。まるでお前がもう一人いるかのようだ」
「……」
「予言者としてのお前の力は、確かに俺のために使われていた。だが同時にお前は俺を敗北に導いている」
「……」
「答えよ。もう良いだろう」
「カルマ」様は流石にもうお気づきになったようだ。
私は最後の予言を示す時が来た。
「予言とは未来を見ることではございません」
「なんだと?」
「未来を引き寄せるのでございます。過去、現在から収束された未来を引き寄せるため、あたかも未来を予知したかのように見えるのです」
「そういうものなのか」
「はい。「カルマ」様は偉大なお方でありますが、未来視については能力はあられませんでした」
「確かにな。だからお前が来たことで俺の力とした。しかしお前は俺に従うしかなかったはずだ」
その通りだ。
私は話を少々変えた。
「イシガミ様にも未来視をする者がおるようです」
「知っている。百家の血筋だな」
「さようでございます。初めは自分たちが滅びる未来を。そしてそこから何度も別な未来を引き寄せるように念じたようです。それは幾つかは叶いませんでしたが、何とか一つの未来を引き寄せることに成功しました」
「俺が負ける未来か?」
「いいえ、「カルマ」様が本当に負けることなどございません。この戦争で「カルマ」様が滅んだとしても、「カルマ」様は永遠に存在し続けるのです」
「俺はこの戦争に勝つことを約束されていたのだぞ」
「それは一つの収束した未来のことでございます。神がそのようにされたのでしょうが、イシガミ様にも神がついておりますゆえ」
「ふん、そういうことか。ノスフェラトゥの女王が憎らしいことを言っていたな。俺は過去に一度も勝ったことが無いのだと」
「それも永遠の流れの中ではうたかたです。「カルマ」様とイシガミ様が邂逅し、戦うことだけが真実なのでございます」
「カルマ」様が腕を組んで私を見ていた。
「俺が過去に何度も負けたことは確かだろう。だが、石神が負けたことはあるのか?」
それは理屈だ。
イシガミ様が負けたとしても、この世界はまた「カルマ」様とイシガミ様との戦争を続けるのだ。
しかし……
「それはございません」
「石神が負けたことは無いのか!」
「はい、一度たりとも」
「どういうことだ! それでは俺は未来永劫負け続けるということか!」
「カルマ」様が激高なさっている。
無理も無い。
「それは分かりません。今回とて、また過去のいずれの戦いに於いても、勝敗が決していたことはございません」
「ならば何故石神は負けぬのだ!」
「それは私などの小さき存在には分かりかねます」
「カルマ」様の全身から黒い噴煙が湧き、周囲に満ちて行った。
これで終わるのだ。
「最後の予言です。「カルマ」様はイシガミ様のことをお知りになるでしょう。そして次の戦いに備えられることでしょう」
「なんだと?」
言いながら「カルマ」様は私が黒い霧に覆われたのを知られた。
既に私の意識はなく、その存在すらこの世界にはいなくなったと知るだろう。
私は他の側近たちと同じく、遙かな過去から「カルマ」様に付いた者たちがそうであったように、「カルマ」様の一部となるのだ。
輪廻の輪に戻ることは出来ず、永劫の時を「カルマ」様と共に在るようになる。
意識は無く、何も感じないただのたゆとうものだけになるのだ。
「タイニー・タイド、お前は一体……」
私は遙かな場所から、「カルマ」様が孤独になられたことを観ていた。
あの日、《ライブラの魔女》に見出された私の長い旅路が終わった。
私は私のいるべき場所へ戻ったのだ。
最後の予言は成した。
もう私には何もすることが無くなった。
「カルマ」様は驚いておられなかった。
御機嫌が良いわけでもないが。
もう終わりが近付いていることが分かる。
「予想外の反撃ですね」
「お前の予言では、あれで人類が滅びるはずだったな」
「はい、そうでした」
「5000万カ所もの《ニルヴァーナ》には、石神も対応出来ないはずではなかったのか」
「そうですね」
「カルマ」様は落ち着いていらっしゃる。
むしろ微笑みさえ浮かんでいるようにも見えた。
「どうした、お前には何も言い訳は無いのか」
「「カルマ」様が負けるわけはありませんので」
「カルマ」様のご質問の答えにはなっていなかったが、「カルマ」様は別に私を責めなかった。
「お前は予言を俺に伝えて来た」
「はい」
「お前の予言は全て的中して来たな」
「はい」
「だが、石神を殺すことは出来なかった」
「はい」
「カルマ」様が笑われた。
「お前は俺が負けると思っているか」
「そんなことはございません。「カルマ」様は偉大な方ですので」
「そうだ、俺は石神を殺す権能を与えられた」
「はい、伺っております」
私は「カルマ」様の言葉を肯定しなかった。
「カルマ」様もそれに気付いていたはずだったが、私を咎めなかった。
私が「カルマ」様に絶対的な忠誠を捧げていることは間違いない。
「カルマ」様によって、そうされている。
ウラもミハイルもキリールも他の側近たちも全てそうだ。
逃れる方法は無い。
「カルマ」様はただ、私を見詰めている。
「でも、お前は俺が負けることを確信しているな」
「……」
お答え出来なかった。
「カルマ」様が負けるなどとは、絶対に口に出来ない。
「カルマ」様がザハ・ハディドの巨大な椅子から立ち上がられた。
そんなお姿は初めて見た。
「タイニー・タイド、お前が俺の側にいることは間違いない」
「その通りでございます」
「しかし、お前は違うな。まるでお前がもう一人いるかのようだ」
「……」
「予言者としてのお前の力は、確かに俺のために使われていた。だが同時にお前は俺を敗北に導いている」
「……」
「答えよ。もう良いだろう」
「カルマ」様は流石にもうお気づきになったようだ。
私は最後の予言を示す時が来た。
「予言とは未来を見ることではございません」
「なんだと?」
「未来を引き寄せるのでございます。過去、現在から収束された未来を引き寄せるため、あたかも未来を予知したかのように見えるのです」
「そういうものなのか」
「はい。「カルマ」様は偉大なお方でありますが、未来視については能力はあられませんでした」
「確かにな。だからお前が来たことで俺の力とした。しかしお前は俺に従うしかなかったはずだ」
その通りだ。
私は話を少々変えた。
「イシガミ様にも未来視をする者がおるようです」
「知っている。百家の血筋だな」
「さようでございます。初めは自分たちが滅びる未来を。そしてそこから何度も別な未来を引き寄せるように念じたようです。それは幾つかは叶いませんでしたが、何とか一つの未来を引き寄せることに成功しました」
「俺が負ける未来か?」
「いいえ、「カルマ」様が本当に負けることなどございません。この戦争で「カルマ」様が滅んだとしても、「カルマ」様は永遠に存在し続けるのです」
「俺はこの戦争に勝つことを約束されていたのだぞ」
「それは一つの収束した未来のことでございます。神がそのようにされたのでしょうが、イシガミ様にも神がついておりますゆえ」
「ふん、そういうことか。ノスフェラトゥの女王が憎らしいことを言っていたな。俺は過去に一度も勝ったことが無いのだと」
「それも永遠の流れの中ではうたかたです。「カルマ」様とイシガミ様が邂逅し、戦うことだけが真実なのでございます」
「カルマ」様が腕を組んで私を見ていた。
「俺が過去に何度も負けたことは確かだろう。だが、石神が負けたことはあるのか?」
それは理屈だ。
イシガミ様が負けたとしても、この世界はまた「カルマ」様とイシガミ様との戦争を続けるのだ。
しかし……
「それはございません」
「石神が負けたことは無いのか!」
「はい、一度たりとも」
「どういうことだ! それでは俺は未来永劫負け続けるということか!」
「カルマ」様が激高なさっている。
無理も無い。
「それは分かりません。今回とて、また過去のいずれの戦いに於いても、勝敗が決していたことはございません」
「ならば何故石神は負けぬのだ!」
「それは私などの小さき存在には分かりかねます」
「カルマ」様の全身から黒い噴煙が湧き、周囲に満ちて行った。
これで終わるのだ。
「最後の予言です。「カルマ」様はイシガミ様のことをお知りになるでしょう。そして次の戦いに備えられることでしょう」
「なんだと?」
言いながら「カルマ」様は私が黒い霧に覆われたのを知られた。
既に私の意識はなく、その存在すらこの世界にはいなくなったと知るだろう。
私は他の側近たちと同じく、遙かな過去から「カルマ」様に付いた者たちがそうであったように、「カルマ」様の一部となるのだ。
輪廻の輪に戻ることは出来ず、永劫の時を「カルマ」様と共に在るようになる。
意識は無く、何も感じないただのたゆとうものだけになるのだ。
「タイニー・タイド、お前は一体……」
私は遙かな場所から、「カルマ」様が孤独になられたことを観ていた。
あの日、《ライブラの魔女》に見出された私の長い旅路が終わった。
私は私のいるべき場所へ戻ったのだ。
最後の予言は成した。
もう私には何もすることが無くなった。
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