3 / 3,215
受け入れ準備 まだ、あんまり始まってません。
しおりを挟む
葬儀の翌日は、弁護士に連絡をしたり、子どもたちを引き取るにあたって必要な家具や雑貨を思いつく限り手配した。
休日の部下たちにも協力を仰いだが、これはなかなかに大変な作業だった。
突然の俺の決意で、部下たちに反対された。
「部長! 無茶ですよ。部長は多忙もいいとこじゃないですか!」
電話で俺の右腕の副部長である一江がそう言った。
院長の蓼科文学にも報告すると、同様なことを言われる。
「お前のような人間が、子育てなどできるわけないだろう!」
全員の反対を押し切った。
無理を言って、部下の何人か、そして大学時代からの友人である花岡さんに家に来てもらった。
一江も文句を言いながらも来てくれた。
「一江、もう決まったことだ。グダグダ言うな」
「部長! お金はある人ですけど、愛が無いじゃないですか!」
「お前! 言っていいことと悪いことがあるだろう!」
「私たちみたいに殴ってたら、子どもの性格ひねくれますよ!」
「俺はいつも優しくしてるだろう」
「前に便器に顔突っ込まれましたけど!」
「アハハハハハ!」
「……」
酷いことをする奴がいるもんだ。
どうでもいいことだが、うちの病院は普通の会社のように「部長」という役職がある。
第一外科部長というのが現在の俺の肩書きだ。
実際にはもう20個ほどもあるが、理事以外には病院外の肩書きだからあまり使う機会もない。
「石神くん、ダニエルの担当者が午後に来てくれるって」
家具の手配を頼んでいるのは、薬剤部の花岡さんだ。
薄い茶髪の長いストレートの女性で、170センチを超える高身長と整った顔立ちはスーパーモデルと周囲から評されている。
胸が大きい。
すごい。
病院内でもファンは多い。
大学時代からの友人であり、何度か彼女の自宅に行ったことがある。
実家が裕福だろうことはすぐに分かるが、部屋の落ち着いた家具のセンスに感心した覚えがある。
だから彼女に頼んだ。
ダニエルというのは、横浜に本店を置く高級家具メーカーだ。
俺が勤める病院の近くに支店ができてから、結構利用している。
欧風の気品のある風合いが気に入っているのだ。
この家を建てた時は別の調度品を入れているが、今回は子どもたち用に、ダニエルを使うつもりだった。
「石神くんの家ってすごいよね。一体何億円使ったの?」
「どうでもいいでしょう」
俺は苦笑いで応えた。
俺の寝室兼書斎の家具はもっと凄い。
地下の音響装置なども見せたことはないが、この家と同じくらい金を使っている。
「玄関の下駄箱なんかはスチールですけど、なんかカッコイイですよね」
第一外科部の部下・斎藤が花岡さんに言った。
斎藤はまだ医者になって間もない二十代の男だ。
「あれはUSMという、世界的に有名なスイス製の高級家具なのね」
花岡さんはよく知っている。
「食器なんかは必要ないでしょうね。もう山ほどありますから」
ベテランの部下の大森が食器棚をいくつか確認してそう言った。
彼女は斎藤と同じ大阪大学医学部卒で、斎藤の先輩に当たる。
「でも大森先生、今度来るのは小学生と中学生の子どもたちでしょう。石神くんの家のウェッジウッドとかクリストフルなんかでいいのかしら」
「そういえばそうですね。部長はどう思います?」
「そうだな。まあ、ちょっと子ども用に買い足すか。大森、三越の外商に連絡して、適当に見繕ってもらってくれ」
「分かりました!」
「ああ、あまりきちんと揃える必要はないぞ。子どもたちが来たら一緒に買い物に行って、好きなものを選ばせてもやりたいからな」
「おーけーです」
大森は165センチほどの身長で、大分太い。
体重は90キロ程度か。
柔道部だったそうで、左右に揺れるような歩き方のせいもあって、迫力がある。
一江の親友でもある。
医者としての能力はすこぶる優秀で、斎藤の教育係を任命したのは彼女を信頼しているためだ。
外商の件も、問題なく説明してくれるだろう。
「ところで部長、腹が減りませんか?」
斎藤が遠慮なく言ってきたので、一江が頭を引っぱたいた。
俺はニコリと笑う。
俺の隣で外商と電話している大森の顔が、若干青くなった。
「そうだな。鰻でもとるか?」
「いいっすねぇ!」
大森の顔が更に青くなる。
目線で斎藤に何か訴えていた。
「花岡さんも鰻でいいかな」
「ええ、お願いします」
電話をしていた大森が後ろ向きのまま、震える指でOKサインをしてきた。
電話が終わったら注文するということだ。
やはり大森は優秀だ。
「ああ、俺と斎藤は二重天井にしてくれ」
注文を終えた大森が、スマホの画面をいじくりだした斎藤の耳を持って、どこかへ連れ去った。
バスン、バスンと音が聞こえる。
斎藤が俺の前に来た。
「調子に乗ってすみません」
俺が獰猛に笑うと、斎藤の顔が引き攣った。
斎藤には主に荷物の移動をやらせた。
うちは13LDKという一人暮らしでは考えられない広い家だが、その分俺の様々な大量の物品で、ややもすると手狭になりかけている。
一番多いのは書籍だ。ここに引っ越す際に引越し業者が面白半分に数えてくれたら、8万冊もあったらしい。その後もどんどん買い漁っているので、今では10万冊を超えている。
その他に映画も好きなので、DVDやブルーレイなどのソフトが1万ほど、音楽CDとレコードが合わせて5万ほど。クラシックが多いが、ジャズも数千はあるだろう。
また服も多い。
服の専用の部屋があり、玄関のUSMの特注シューボックスには、200足の靴が収められている。
さらに美術品も数多くある。リャドとブラマンクの絵画を中心に、平野遼やその他の日本の画家。
またエミール・ガレなどのアールヌーボーの作家たちの作品や、マイセンの人形も結構ある。
菊池契月などの日本画や、山岡鉄舟の書画もある。
ある程度は整理して置いているつもりだが、何しろ一人暮らしで好き勝手に配置していたのだから、これから子どもたちと暮らすにあたって大移動は必至だった。
ちょっとは隠さなければならないものもあったりする。
早く四人を呼んでやりたい。もうちょっと待っていてくれ。
亜紀ちゃんの泣き顔と笑顔がちらつく。
休日の部下たちにも協力を仰いだが、これはなかなかに大変な作業だった。
突然の俺の決意で、部下たちに反対された。
「部長! 無茶ですよ。部長は多忙もいいとこじゃないですか!」
電話で俺の右腕の副部長である一江がそう言った。
院長の蓼科文学にも報告すると、同様なことを言われる。
「お前のような人間が、子育てなどできるわけないだろう!」
全員の反対を押し切った。
無理を言って、部下の何人か、そして大学時代からの友人である花岡さんに家に来てもらった。
一江も文句を言いながらも来てくれた。
「一江、もう決まったことだ。グダグダ言うな」
「部長! お金はある人ですけど、愛が無いじゃないですか!」
「お前! 言っていいことと悪いことがあるだろう!」
「私たちみたいに殴ってたら、子どもの性格ひねくれますよ!」
「俺はいつも優しくしてるだろう」
「前に便器に顔突っ込まれましたけど!」
「アハハハハハ!」
「……」
酷いことをする奴がいるもんだ。
どうでもいいことだが、うちの病院は普通の会社のように「部長」という役職がある。
第一外科部長というのが現在の俺の肩書きだ。
実際にはもう20個ほどもあるが、理事以外には病院外の肩書きだからあまり使う機会もない。
「石神くん、ダニエルの担当者が午後に来てくれるって」
家具の手配を頼んでいるのは、薬剤部の花岡さんだ。
薄い茶髪の長いストレートの女性で、170センチを超える高身長と整った顔立ちはスーパーモデルと周囲から評されている。
胸が大きい。
すごい。
病院内でもファンは多い。
大学時代からの友人であり、何度か彼女の自宅に行ったことがある。
実家が裕福だろうことはすぐに分かるが、部屋の落ち着いた家具のセンスに感心した覚えがある。
だから彼女に頼んだ。
ダニエルというのは、横浜に本店を置く高級家具メーカーだ。
俺が勤める病院の近くに支店ができてから、結構利用している。
欧風の気品のある風合いが気に入っているのだ。
この家を建てた時は別の調度品を入れているが、今回は子どもたち用に、ダニエルを使うつもりだった。
「石神くんの家ってすごいよね。一体何億円使ったの?」
「どうでもいいでしょう」
俺は苦笑いで応えた。
俺の寝室兼書斎の家具はもっと凄い。
地下の音響装置なども見せたことはないが、この家と同じくらい金を使っている。
「玄関の下駄箱なんかはスチールですけど、なんかカッコイイですよね」
第一外科部の部下・斎藤が花岡さんに言った。
斎藤はまだ医者になって間もない二十代の男だ。
「あれはUSMという、世界的に有名なスイス製の高級家具なのね」
花岡さんはよく知っている。
「食器なんかは必要ないでしょうね。もう山ほどありますから」
ベテランの部下の大森が食器棚をいくつか確認してそう言った。
彼女は斎藤と同じ大阪大学医学部卒で、斎藤の先輩に当たる。
「でも大森先生、今度来るのは小学生と中学生の子どもたちでしょう。石神くんの家のウェッジウッドとかクリストフルなんかでいいのかしら」
「そういえばそうですね。部長はどう思います?」
「そうだな。まあ、ちょっと子ども用に買い足すか。大森、三越の外商に連絡して、適当に見繕ってもらってくれ」
「分かりました!」
「ああ、あまりきちんと揃える必要はないぞ。子どもたちが来たら一緒に買い物に行って、好きなものを選ばせてもやりたいからな」
「おーけーです」
大森は165センチほどの身長で、大分太い。
体重は90キロ程度か。
柔道部だったそうで、左右に揺れるような歩き方のせいもあって、迫力がある。
一江の親友でもある。
医者としての能力はすこぶる優秀で、斎藤の教育係を任命したのは彼女を信頼しているためだ。
外商の件も、問題なく説明してくれるだろう。
「ところで部長、腹が減りませんか?」
斎藤が遠慮なく言ってきたので、一江が頭を引っぱたいた。
俺はニコリと笑う。
俺の隣で外商と電話している大森の顔が、若干青くなった。
「そうだな。鰻でもとるか?」
「いいっすねぇ!」
大森の顔が更に青くなる。
目線で斎藤に何か訴えていた。
「花岡さんも鰻でいいかな」
「ええ、お願いします」
電話をしていた大森が後ろ向きのまま、震える指でOKサインをしてきた。
電話が終わったら注文するということだ。
やはり大森は優秀だ。
「ああ、俺と斎藤は二重天井にしてくれ」
注文を終えた大森が、スマホの画面をいじくりだした斎藤の耳を持って、どこかへ連れ去った。
バスン、バスンと音が聞こえる。
斎藤が俺の前に来た。
「調子に乗ってすみません」
俺が獰猛に笑うと、斎藤の顔が引き攣った。
斎藤には主に荷物の移動をやらせた。
うちは13LDKという一人暮らしでは考えられない広い家だが、その分俺の様々な大量の物品で、ややもすると手狭になりかけている。
一番多いのは書籍だ。ここに引っ越す際に引越し業者が面白半分に数えてくれたら、8万冊もあったらしい。その後もどんどん買い漁っているので、今では10万冊を超えている。
その他に映画も好きなので、DVDやブルーレイなどのソフトが1万ほど、音楽CDとレコードが合わせて5万ほど。クラシックが多いが、ジャズも数千はあるだろう。
また服も多い。
服の専用の部屋があり、玄関のUSMの特注シューボックスには、200足の靴が収められている。
さらに美術品も数多くある。リャドとブラマンクの絵画を中心に、平野遼やその他の日本の画家。
またエミール・ガレなどのアールヌーボーの作家たちの作品や、マイセンの人形も結構ある。
菊池契月などの日本画や、山岡鉄舟の書画もある。
ある程度は整理して置いているつもりだが、何しろ一人暮らしで好き勝手に配置していたのだから、これから子どもたちと暮らすにあたって大移動は必至だった。
ちょっとは隠さなければならないものもあったりする。
早く四人を呼んでやりたい。もうちょっと待っていてくれ。
亜紀ちゃんの泣き顔と笑顔がちらつく。
12
あなたにおすすめの小説
付喪神狩
やまだごんた
キャラ文芸
古い道具には年月と共に人の情念が蓄積され、それが意思を持ったものが付喪神と呼ばれる。
容姿端麗だが口も性格も女癖も悪い大和御門は日本で唯一の付喪神狩として、付喪神を祓う能力者。
自分に取り憑いた大口真神を引き連れ、同居中の相方・棚橋亨と繰り広げる現代異能バトル
月弥総合病院
御月様(旧名 僕君☽☽︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写はすべて架空です。
あやかし家族 〜五人の兄と愛され末妹〜
南 鈴紀
キャラ文芸
妖狩りにより両親を奪われ、囚われの身となった半妖の少女・鈴音は浄化の狐火を利用するだけの道具のように扱われていた。呪いにより成長は止まり、容姿も思考も幼いまま、感情が消え失せてもなおただ生かされるままに生きていた。
しかし妖保護部隊本部第一部隊との出会いにより、鈴音の止まっていた時間が動き出す。
掴みどころはないが頼れる氏神・雅仁、兄には厳しいが弟妹には優しい狼の妖・千里、人間嫌いだが人当たりの良い振りが得意な人間・遥杜、可愛いもの好きで元気いっぱいの猫又・鴇羽、大人しいが思いやりに溢れる猫又・瑠璃。
五人の兄と過ごす時間の中で、無いものだらけだった鈴音にもやがて大切なものが増えていく。
妖×家族の心温まる和風ファンタジー。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
Lucia(ルシア)変容者たち
おまつり
恋愛
人は、ときに自分の中に「もう一人の自分」を抱えて生きている。
それがもし、感情の揺らぎや、誰かとの触れ合いによって、男女の姿を入れ替える存在だったとしたら――。
カフェ『リベラ』を営むリアと、雑誌編集者の蓮。
二人は、特定の感情を抱くと性別が変わる「性別変容者」だった。
誰にも明かせない秘密を抱えながら生きてきた彼らは、互いの存在に出会い、初めて“同類”として心を通わせていく。
愛が深まるほど、境界は曖昧になる。
身体と心の輪郭は揺らぎ、「自分とは何者なのか」という問いが、静かに迫ってくる。
一方、過去に囚われ、自分自身を強く否定し続けてきたウェディングプランナー・景子と、まっすぐすぎるほど不器用な看護学生・ユウ。
彼らもまた、変容者として「変わること」と「失うこと」の狭間で、避けられない選択を迫られていく。
これは、誰の記憶にも残らないかもしれない“もう一人の自分”と共に生きながら、
それでも確かに残る愛を探し続けた人々の、静かなヒューマンドラマ。
※毎日20時に1章ずつ更新していく予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる