富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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響子のマシン

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 「愛が足りません」

 響子が言った。
 ベッドの上で仁王立ちだ。

 「おい、久しぶりに出たな」
 「愛が足りないのです。全然。まったく」

 俺は響子をベッドから抱き上げ、俺に前を向かせて膝に乗せてやる。
 響子が胸に顔を押し付け、俺の匂いを嗅いでくる。

 「タカトラー!」

 六花が笑って見ていた。

 「なんだよ、またどっかに行きたいのか?」

 クリスマスと正月にうちに連れてきたが、それからしばらく外には出ていない。
 多少は六花が近所に車椅子に乗せて、連れ出してはいるが。

 「こないだね。六花に聞いたの」
 「何をだ?」
 俺は六花の方を向いた。

 「今度タカトラと一緒に、バイクを買うんだって」
 「ああ」
 俺は六花を睨む。

 「ちょっと花瓶の水を換えてきますね」
 逃げやがった。






 「そうなんだよ。六花の友達がこないだ来たじゃないか。バイクのチームの仲間だから、話しているうちにそういう話が出たのな」

 「私も欲しいのです」
 「いや、だってお前には無理だよ」
 「絶対に欲しいのです」
 「……」

 「三人で一緒に走りたいよー!」
 響子が泣き出した。

 そうだ。
 最初にこいつが言い出したんだ。

 「じゃあ、バイクを買ったら、俺の後ろに乗っけてやるよ」
 「うん。でも三人で一緒に」

 困った。
 
 俺は洗い場に行った。
 花瓶を洗っている六花の尻を蹴る。

 「イタイ」
 「お前! 響子に余計なことを」
 「すいません。つい嬉しくなって」
 「どうすんだよ。あいつ本気で乗りたがってるぞ」
 「すいません」







 午後にアビゲイルに電話した。

 「タカトラ! 久しぶりだな!」
 「あんたも元気そうじゃないか」
 俺たちは互いの近況などを話した。
 俺は響子の経過の順調さを。
 アビゲイルは詳細は伏せながらも、ロックハート一族の対外的な問題が徐々に沈静化していることを。

 「もうすぐ、日本に来れるかもしれないよ」
 誰が、とは言わない。

 「そうか、きっと喜ぶだろうな」
 お互いに固有名詞は伏せながら、話した。

 「ところでな。ちょっとお願いがあるんだよ」
 「タカトラのお願いなら、大抵大丈夫だ。何でも言ってくれ」

 俺は響子のための買い物を頼んだ。
 図々しくも、俺と六花の分も頼む。
 
 「分かった。喜んで手配するよ。いつもいろいろと考えてくれて感謝する」
 「いや。愛するヨメのためだからな」

 俺たちは少し雑談をして電話を切った。






 二週間後。
 響子の荷物が届いた。
 俺は六花と一緒に響子の病室へ運ぶ。

 「あれ、それはなーに?」

 大きな三つの荷物に、響子が驚く。
 俺と六花はニヤニヤと笑って梱包を解いた。
 真っ白な二台。
 一台は特注で塗装した、真っ赤なもの。

 この短期間で用意したアビゲイルに感謝する。
 真っ赤なものを響子に見せる。

 「これが、お前のマシンだ!」

 セグウェイのキックスターターだった。
 響子が叫びながらセグウェイに触れる。
 充電は、先ほど済ませてある。





 俺と六花で使い方を説明し、ヘルメットをかぶせ、手足にガードを装着してから響子に運転させた。

 「スゴイよ! これ、スゴイ!」

 響子は大喜びで部屋を回った。
 気を付けるように注意して、廊下に出る。
 俺と六花も一緒にセグウェイを出した。
 横に三台が並ぶ。

 「よし、行け!」
 響子が動き出した。
 俺と六花も走り出す。

 一緒に何度も廊下を走った。



 「タカトラ! ありがとう!」
 「ああ、これはアビゲイルに頼んで買ってもらったんだ」

 響子は自分のスマホでアビゲイルに電話した。
 響子のスマホは特製で、完全な暗号化のモジュールが入っている。
 嬉しそうに礼を述べ、いろいろと話していた。

 「タカトラ! もうちょっと乗ってもいい?」
 「ああ、ここの廊下ならな。気を付けてな」
 「うん!」


 響子が楽しそうに廊下を往復している。
 通りかかったナースに声をかけられ、嬉しそうに手を振った。


 「石神先生、良かったですね」
 「そうだな」

 俺と六花はベッドに腰かけて、響子を見ていた。

 「明日は屋上に行こう。敷地内なら俺かお前がついていればいいからな」
 「はい、分かりました」

 


 「響子ちゃん!」
 「院長先生、こんにちは!」
 「楽しそうなのに乗ってるね」
 「はい! タカトラにもらいました」
 「そうか」

 院長が来た。

 「楽しそうで良かったな」
 「はい、許可をいただき、ありがとうございました」
 「ああ、少し考えたけどな。響子ちゃんは入院生活も長いしな」
 「ありがとうございます」
 
 「院長も乗ってみますか?」
 「いや、俺はいいよ」
 「そんなこと言わずに」

 六花が廊下に一台を出す。

 「大丈夫か、これ?」

 恐る恐るハンドルを握る。
 少し蹴り出して、後ろのパネルを踏む。
 ゆっくりと動き出した。

 「おい、石神! 動いたぞ」

 楽しそうだ。





 「響子ちゃーん!」
 「きゃー!」

 響子が笑いながら逃げた。

 「おい、ちょっと待ってくれ!」
 「きゃー」

 「響子! 捕まったら服を脱がされて、身体をいっぱい触られちゃうぞ!」

 「きゃー」

 「グッワッハッハー! 脱がすぞー! 身体をいじらせろー!」

 「きゃー」








 後日、変態ロリコンゴリラとの噂が広まった。 
 もちろん、俺が広めた。
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