富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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亜蘭、骨折

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 7月初旬。
 亜蘭がうちの現場で右手の手首を骨折した。
 東雲から連絡を受け、俺の病院へ連れてくるように言った。
 亜蘭の不注意で足元の建材に躓いて転んだようだ。
 俺は一緒に来た東雲を怒鳴った。

 「てめぇがついていながら、どういうことだぁ!」
 「申し訳ありません!」

 レントゲン待ちの亜蘭が必死で俺に謝った。

 「僕が悪いんです! 石神さん、どうか!」

 亜蘭は右手の舟状骨のひび割れと分かった。
 転んで地面に手を着いた時に、腕の撓骨に圧迫されたのだろう。
 手首には小さな骨が密集している。
 全治凡そ一ヶ月という形成外科の判断だった。

 小さな骨だが、激痛はある。
 利き手だから、動かす機会は多い。
 その度に激痛が走る。

 「これじゃオナニーも辛いな」
 「い、いいえ!」
 「ルーとハーを呼ぶか?」
 「ほんとですかぁー!」

 東雲が言った。

 「いや、亜蘭。もちろん石神さんの冗談だから」
 「……」

 相変わらず、純粋な奴だった。




 亜蘭はしばらく休みとし、俺はバイト代は全額払うと言った。
 亜蘭は固辞していたが、うちの不注意だからと納得させた。
 その日は家に帰らせた。
 俺はうちにある「蜂花粉」を、夕方に双子に亜蘭の家に届けさせた。

 「蜂花粉」は、骨の再生に有効だという臨床の論文を読んだことがあるからだ。
 常備していたが、うちでは誰も骨折しないので、使う機会は無かった。

 300gの瓶を持って行かせ、毎日50gずつ食べるように伝えさせた。

 「美味いものじゃないからな。ヨーグルトに混ぜろと言ってやれ。ああ、ヨーグルトも買ってってやれよ」
 「「はーい!」」

 家に帰って二人に聞くと、涙を流して感動していたそうだ。

 「手首にチュってしてやったか?」
 「「うん!」」

 

 三日後、亜蘭が現場に来た。

 「おい、まだ休んでろよ」

 俺が言うと、キラキラした目で笑った。

 「石神さん! それがですね、最初はボタンも外せないほど痛かったんですよ! それが、石神さんに言われた通り、花粉を食べたんですね。そうしたら翌朝には痛みが無くなってて!」
 「ほんとかよ」
 「はい! もうどう動かしても全然痛くありません!」
 「でもなぁ」

 俺は病院へ来いと言った。
 レントゲンを形成外科の人間と一緒に確認した。
 前の画像と並べて二人で見る。

 「癒着してますねー」
 「ほんとだな」

 亜蘭を帰し、現場に出ていいと言った。
 東雲には念のために軽作業をやらせるように指示した。



 その夜、金曜日なので亜紀ちゃん、レイ、柳と一緒に酒を飲んだ。
 柳もビールを飲めるようになっていた。
 バドワイザーを飲んでいる。

 「お前ら毛だらけ人間には何の関係もない話なんだけどよ」
 「なんなんですか!」

 亜紀ちゃんが言う。
 俺は亜蘭の骨折の話を三人にした。

 「医学的にはあり得ないスピードの治癒だったんだけどな」
 「「蜂花粉」って、そんなにスゴイんですか?」
 「分からん。俺が読んだ論文ではスペインのシスタスとかの蜂花粉の臨床実験だったんだけどな。骨粗鬆症に有効だという統計的な有意差のものだったから」
 「そうなんですか」

 「ちょっと興味が出たけどな。でもうちじゃあ、誰も骨を折らねぇから追試のしようもねぇ」
 「「「アハハハハハ!」」」

 「「蜂花粉」の力なのか、愛の力なのかなぁ。亜蘭は純粋だからなぁ」

 俺は「蜂花粉(bee pollen:ビーポーレン)の説明をした。

 「日本じゃ蜂蜜しか知られていないけどな。欧米じゃ養蜂者は必ず蜜と一緒に回収するんだ」
 「へー」
 「働きバチは花の花粉を足にくっつけていくのな。それを口から酵素を出して固めて団子みたいにしてくんだよ」
 「へー」
 「巣の中に貯蔵して、エサになるのな。それでその「蜂花粉」というのは、完全栄養食と言われているんだ」
 「そうなんですか!」

 「ああ、誰でも必ず栄養素は偏りがある。だから「蜂花粉」を食べると、それが平衡に戻って健康になる、というな」
 「凄いですね」

 俺たちはちょっと興味が出て、ヨーグルトに「蜂花粉」を入れて食べてみた。
 
 「そのままだと不味いけど、これならいけるよな」
 「はい、いいアクセントになってる気も」
 「明日が楽しみですね」
 「肌が綺麗なるとか?」

 ワイワイ言い合って楽しんだ。



 翌朝の土曜日。
 俺は気分よく目が覚めた。
 身体が自然に覚醒し、非常に調子がいい。
 起きて来た亜紀ちゃん、レイ、柳もいい感じだと言った。

 「何か、本当に肌も綺麗になってる気が」
 「ちょっと走りたくなってきたような」
 「最近疲れをちょっと感じてたんですが、スッキリと」

 自己暗示のようなこともあり得るので、それ以上は追及しなかった。
 何かあった時に試してみよう。


 その日の午後、俺は亜蘭を家に呼んだ。
 詫びと快気祝いを兼ねてのような感じだ。

 三時ごろに来るように言い、一緒にお茶を飲んだ。
 亜蘭は双子に挟まれて、終始ニコニコしていた。
 亜紀ちゃんがお茶を置くと、ちょっと怖がった。

 「亜蘭、お前もうちょっと運動しておけよ」
 「はい。でも現場で結構身体を動かすんで、筋肉も付いてきましたよ」
 「ああ、そういうのじゃなくてな。もっと全般的に身体を動かすことをしろ。別に何かスポーツとかジムに行くとかじゃなくてな」
 「はぁ」

 俺は思いついて、双子に「花岡」の基礎を教えさせた。
 庭で三人でやる。
 夕飯を食べさせるつもりで準備していると、三人が戻って来た。
 双子が俺を部屋の外へ連れ出す。

 「タカさん! 亜蘭ちゃん、天才だよ!」
 「なんだと?」
 「凄いの! 亜紀ちゃんにはもちろん及ばないけど、亜蘭ちゃんスゴイんだよ!」
 「そうなのか?」

 「ねえ、このまま教えてもいい?」
 「うーん、ちょっと考えさせろ」
 「お願いね!」

 亜蘭ならば悪いことには使わないだろうが。
 俺はほとんど許可するつもりになっていた。





 その後、亜蘭が「紅六花財団『暁園』(孤児院)」の園長になり、子どもたちを守り指導する男になることは、その時は誰も思ってもいなかった。  
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