富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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ショッピングモールの戦闘

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 地下で早乙女からもう一つの報告を聞いた。

 「磯良のことだ。彼のお陰で、幾つものテロが収まった」
 「ああ、流石だな」
 「ずっと一緒にいたんだ。磯良には怪物を斃してもらっていたんだが、人間を三人殺させてしまった」
 「そうか」
 「済まない! 俺を守るためにやったんだ」
 「そうか」

 早乙女は、その時の状況を話した。

 郊外のショッピングモールに立て籠った連中だったらしい。
 「デミウルゴス」で怪物化した相手を磯良が倒した瞬間、物陰に潜んでいた「太陽界」の人間が銃で早乙女を襲ったらしい。
 瞬時に磯良が斬った。

 「離れた三カ所にいたんだがな。磯良は一切躊躇せずに同時に殺した」
 「初めてでは無かったということだな」
 「そうだ。磯良は、過去に人間を斬っている。それも多分、一度や二度ではない」
 「そうだろうな」

 普通の人間は、人間を殺すことに躊躇する。
 最初の殺しは、特にそうだ。
 遺体がめった刺しにされたということがよく聞かれるが、それは恐怖のためだ。
 自分に思い知らせる必要があるために、執拗に殺そうとする。
 言い換えれば、そこまで自分を追い詰めなければ、人間は人間を殺せないということだ。

 集団の場合はまた話は違ってくる。
 集団の中の「正しさ」また、自分の拠り所となる必要性のために、殺人のハードルがぐっと下がる。
 戦場での戦いや、今回のような狂信者の集団が殺人を抵抗なく行わせる理由だ。
 しかし、独りの場合は違う。
 それは「反社会的」行為となるためだ。
 自分が属する社会からはみ出る覚悟がいる。
 犯罪者になる。

 磯良はそれを踏み越えていた。

 「俺はな、磯良が何のショックも受けていないことに驚き、涙が出そうになった」
 「あいつは想像以上に深いな」
 「ああ。磯良は一体どういう人生を生きて来たんだ。まだあんな子どもなのに」
 「親を突然殺されたそうだな。誰にやられたのかは知らんが。恐らくは、そこからだろう」
 「そうか」
 「あいつを狙って来た奴もいるのかもしれない。それと戦わなければならなかったんだろう」
 「石神、俺は磯良を何とかしたいよ」
 「ああ、やれよ」
 「でも、どうすれば……」

 早乙女は重苦しい顔をしていた。
 俺も重苦しくさせる顔だ。

 「お前が何でもやれ。それがお前の一番大事なことだ」
 「石神……」

 「正しい答えなんか無い。だから何でもやれ。失敗しても何とかしろ。お前はそれだけ決意すればいい」
 「分かった」

 俺は笑って、大好きな親友の肩を叩いた。




 「俺もな、前は悩んでいたんだ」
 「お前が?」
 「おい! 俺を何だと思ってやがる! 傷つきやすい人間なんだからもっと大事にしろ!」
 「アハハハハ!」

 やっと笑った。

 「俺はこんなだからな。山中の子どもたちを引き取ったはいいけど、ついに化け物と戦わせるろくでなしになってしまった」
 「石神……」
 「随分と悩んだよ。何度も子どもたちに謝った」
 「そうなのか」
 「でもな、あいつらは逆に謝る俺に怒るんだよ。自分たちはこれで良かったって。俺のために一緒に戦いたいんだってな」
 「ああ、そうだよな」
 「だから俺も悩むのは辞めた。あいつらは俺と一緒に戦って死ぬ。それでいいじゃないか」
 「でも、レイさんの時は随分と……」

 「だからぁ! お前は俺をどんな人間だと思ってんだぁ!」

 俺たちは笑った。
 
 「そりゃそうだよ。何よりも大事な仲間なんだからな。今回だって、俺の大事なオロチを傷つけやがったから、頭に来て出さなくてもいい大技をぶっ込んじまった。でもな、それでいいだろうよ」
 「そうだな」

 早乙女が少し心が軽くなった顔をした。

 「磯良がな。その時に俺に言ったんだ」
 「なんて言った?」
 「大丈夫ですかって。本当に心配する顔だった」
 「そうか」
 「俺はな、それが辛かった。俺のために人を殺させてしまったんだからな」
 
 「早乙女」
 「なんだ」
 「お前は、自分が磯良を守ると言っただろう」
 「あ、ああ言った。今でもそのつもりだ」
 「だからだろうよ。磯良もお前を守りたかった」
 「そうなのか?」

 「そうに決まってる。あいつは普通とは違う生き方だったのかもしれないが、ちゃんと愛を知っている奴だ」
 「お前はそう思うんだな」
 「ああ。あいつは何だか俺に似てると思ったよ。無茶苦茶な所はあるけど、何か大事なものを持っている。俺は常識人だけどな!」
 「アハハハハハ!」

 早乙女が明るく笑った。
 俺も安心した。

 一緒に上に上がり、三時のお茶を飲んだ。
 蟻地獄な俺は、また二人に泊って行くように命じた。
 二人とも、一瞬の遠慮もなく、笑ってそうすると言った。





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 三鷹市のショッピングモール。
 俺は磯良とそこへ向かった。

 「磯良、大丈夫か?」
 「早乙女さん、それ聞き過ぎですよ。大丈夫ですって」
 「そうか、でもな、ちょっとでも疲れたなら言ってくれな。本当は君のような……」
 「大丈夫ですよ。でも分かりました。無理そうなら必ず言いますから」
 「ああ、ほんとだぞ!」

 俺の隣で磯良が笑っていた。
 良かった、まだ大丈夫そうだ。
 あともう少しだ。
 石神の亜紀ちゃんが物凄い早さで現場を鎮圧してくれている。
 磯良が辛いようなら、悪いが亜紀ちゃんに任せることも出来る。

 「次のショッピングモールは、8体の怪物が確認されているんだ」
 「そうですか。でも広い場所でしょうから、もっといるかもしれませんね」
 「そうだね。気を付けて行こう」
 「はい」

 磯良が自分以上に戦闘に慣れているのはもう分かっていた。
 でも、何しろまだ小学生の子どもだ。
 自分がしっかりしなければいけない。

 


 ショッピングモールの前では、また大勢の警官が出入り口を封鎖していた。
 ビルのオーナーから、簡単な建物の構造を説明された。

 「最初は銃声も聞こえました」
 「じゃあ、教団の武装した人間もいるんだな」
 「そう考えて下さい。何人か同行しますか?」
 「いや、いい。俺たちで行く」
 「分かりました! 御気を付け下さい!」

 警視庁のトップから、絶対に俺の命令に従うようにと通達されている。
 公安の特殊部隊という説明だ。

 実際に、俺の部隊とされている石神の子どもたちが、目覚ましい働きで幾つもの現場を鎮圧してくれている。
 その情報も逐一通達されているのだろう。
 彼らの実績が、俺への信頼感になってくれている。

 それに、石神が鎮圧のルートを考えてくれた。
 皇紀君が現場の進捗を常に管理し、次に誰がどこへ行けばいいのかを指示してくれる。
 磯良が他の石神の子どもたちと会わないように管理されている。
 
 何より石神に感謝したいのは、磯良に一番凄惨な現場を避けてくれたことだ。
 竹下通りは、恐らく地獄絵図のような惨状だっただろう。
 サンシャイン通りもそうだ。
 そして、最も怪物の数の多い高層マンションを磯良に任せた。
 俺が一緒にいる功績を考えてくれたのだろう。

 俺はH&K MP5を持って、磯良と入り口を潜った。
 サブマシンガンだ。
 怪物に通用するかは分からないが、人間相手であれば大きな戦力になる。
 一般の警官は持てないが、俺には特別な権限が与えられている。



 3階までは、異常は無かった。
 しかし、4階に8体が集まっていた。
 両手が鎌のようになっている。
 体長は2メートルくらいで、顔は口が前に飛び出したような異様なものだった。
 身体は細い。

 「大丈夫かい?」
 「はい」

 磯良は短く応え、次々に怪物を斬り倒していった。
 俺が磯良を見ていて安心するのは、磯良が「戦わない」からだ。
 敵の攻撃を受けることなく、一方的に全て斬り去って行く。
 磯良が危険な目に遭うことは、これまで一度も無かった。

 突然、背後に気配を感じた。
 銃声がした。
 マシンガンだ。
 俺は間に合わないと思った。

 しかし、俺には何も起こらず、振り返ると後ろにいた数人の「太陽界」の男たちが胴を斬り離されていた。

 「!」

 磯良はそのまま前の敵を全て斃し、俺に声を掛けて来た。

 「大丈夫ですか?」
 「あ、ああ。君が助けてくれたんだね」
 「ええ。すみませんでした。少し前に夢中になっていました」
 「そんなことは! ありがとう。お陰で妻と子を置き去りにしないで済んだ」
 「え? 奥さんと御子さんがいるんですね」
 「ああ、そうだ。子どもはまだお腹の中だけどね」
 「そうですか。良かった」

 磯良が微笑んでいた。
 俺はその顔を見て、悲しくなった。

 


 俺と磯良は外に出て、次の現場へ移動した。

 「早乙女さん、大丈夫ですか?」

 磯良が、俺の顔を見て言った。
 俺は磯良に人を殺させてしまったことを悔やんでいた。

 「磯良、済まない」
 「はい?」
 「君には怪物の始末を頼んでいたのに」
 「はい、ちゃんとやってますよ?」
 「いや、君に俺は人間まで」
 「ああ、そういうことですか。早乙女さんが危なかったんですから」
 「でも、君に人間を殺させてしまった。済まない」
 「……」

 磯良は何も言わなかった。
 でも、その顔がまた微笑んでいた。

 「早乙女さん」
 「うん」
 「もっと注意して下さいね」
 「ああ、本当に気を付けるよ」
 「俺がいつも傍にいるわけじゃないですからね」
 「え、ああ。そうだね」
 「俺がいれば、安心してて下さい。早乙女さんは、絶対に守りますから」
 「いや、俺が気を付けるから、君は自分の身を守ってくれよ」
 
 磯良が俺を見て笑っていた。

 「奥さんと子どものためにもね」
 「ああ。あ! でもな、俺にもしものことがあっても、親友がちゃんと妻と子どもは引き受けてくれるんだ」
 「ダメですよ、そんなの!」
 「いやぁ、いい奴なんだよ。本当に俺なんかよりも、あいつの世話になった方が幸せなんじゃないかとも思うんだ」
 「ダメですって! 早乙女さんは、ちゃんと生きて帰って下さい!」
 「え、うん」
 「もう、何を考えてんですか」
 「でも、本当にいい奴なんだよ。俺なんかよりも楽しいし。いつも妻を笑わせてくれるんだ」
 「早乙女さん! 本当に怒りますよ!」
 「え、ごめん」

 磯良は人間を殺した。
 でもそれは自分が正しいと思っていることで、一切の迷いが無い。
 俺のことも、本気で案じてくれている。

 「磯良」
 「はい」
 「君って、いい奴なんだな」
 「はぁ? 早乙女さんも大概いい人ですよね?」
 「アハハハハハ!」





 俺が笑うと、磯良がまた微笑んでいた。
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