富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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アドヴェロス(Adveros)

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 都内での「太陽界」のテロは1日で終息した。
 6割を亜紀ちゃんが対応し、途中で抜けた双子と磯良で残り3割、警官隊と自衛隊で残りを鎮圧した。
 日本中が大規模なテロ攻撃に震撼している中、御堂家を襲った大規模な戦闘が報道された。
 ロシアから来た輸送船団から、世界中で見たことも無い巨獣が運ばれ、大暴れした。
 
 それを防いだ超戦闘軍団が徐々にマスコミに浸透して行った。

 もちろんオロチの存在は隠され、また御堂家の庭に設置した防衛装置などは、上手く超戦闘軍団の攻撃と映るように編集された。
 変装した俺の攻撃はそのまま流され、超戦闘軍団が超常の能力を有することが全世界に知られた。

 御堂は戦場となった土地の持ち主としてマスコミに出た。
 
 「僕はある組織から接触を受けました。以前にアメリカを襲った「業」のテロリストたちが、今度は日本を襲う可能性があることを知らされました。僕は日本を救うためにその組織に協力することを約束しました」
 〈それは、どのような組織なのですか?〉
 「まだ詳しいことはお話し出来ません。ですが、以前より「業」の活動を察知し、独自に戦力を高めて行った組織です。人類を守るために立ち上がった人たちです」
 〈その「業」のテロリストたちというのは?〉
 「人間を滅ぼそうとする者たちです。巨大で凶悪な獣を操り、また人間を改造して自分の兵士にしているそうです。先日の東京で起きたテロリズムも、「業」たちが裏で操作していたと聞きました」
 〈え! あの事件も!〉
 「はい。「デミウルゴス」という麻薬を「太陽界」に流したのは「業」の組織です。そしてそれを救ったのは超戦闘軍団と、警察組織の中で超戦闘軍団と協力して設置された特殊部隊と聞きました」
 〈あの! その超戦闘軍団は名称は無いんでしょうか!〉
 「「虎」の軍と呼ばれているようです」
 〈虎の軍!〉
 「はい。孤高に戦う虎にちなんだ組織だそうです。相手がどんなに強くても、一歩も退かずに戦う軍団です」

 御堂が声を大きくして語った。

 「僕は、「虎」の軍に協力して、この日本を守りたいと思います。だから自分の家、家族のいるこの土地で彼らに戦ってもらいました。僕も命を懸けて、彼らと戦いたい。人類を滅ぼそうとする「業」の軍は、絶対に止めなければならない!」
 〈幾つか映像は入手していますが、「虎」の軍は本当に特別な力を持った軍団なんですね!〉
 「はい。僕もその一部しか知りませんが、「業」の軍のあの信じられないほどの力に対抗できる、唯一の組織と思います」

 御堂は本当に良くやってくれている。
 全国で御堂を知らない者はいなくなった。
 そして全国民が御堂を賞賛し、日本を守る鍵となる人間であると認識した。

 後に、アメリカから情報が公開され、先日のアメリカでの大規模テロと、それ以前にも洋上で「ジェヴォーダン」との戦闘があったことが全世界に知られた。
 洋上戦ではアメリカの艦隊がなす術も無く撃沈され、その戦闘を救ったのも「虎」の軍であることが明かされた。
 アメリカでは大統領が直接「虎」の軍と同盟を結んだことを話し、「虎」の軍の盟友としてロックハート財閥が全面的に協力する旨をアルジャーノンが語った。
 日本であまり報道されなかった、レイチェル・コシノの英雄的活動と、その悲劇の最期が詳細に語られた。
 レイを救おうとした「虎」の軍の存在は、日本国内でも話題となった。

 御堂正嗣、レイチェル・コシノ、ロックハート財閥が、日本中はおろか、世界中で賞賛され知らない人間がいないほど有名になった。





 「石神、大変だよ!」
 「アハハハハ!」
 「毎日うちにいろんな人間が来るんだ!」
 「そうだろうなー」
 「親父も澪も死にそうだよ!」
 「そうだろうなー」

 「石神!」

 御堂がまた珍しく焦っていた。

 「一夜にして、世界的有名人になっちゃったもんな!」
 「おい、何とかしてくれよ」
 「まあ、早く総理大臣になることだな。そうすればマスコミもいろんな人間もシャットアウトできるさ」
 「いしがみぃー」

 「まあ、もうちょっと我慢してくれ。今一江にいろいろやらせてるから」
 「どんな?」
 「お前が「虎」の軍との活動で忙しいってことだよ。だから邪魔するなってことだな。もう一つ、ジェイたちを表に出す。「虎」の軍の人間としてな。だから今後はジェイたちを通さなければお前の家に押し掛けることはなくなる」
 「ありがとう!」
 「でも、お前は今は人気が必要だからな。マスコミへは露出してもらうぞ」
 「そ、それは、まあ何とかするよ」
 「それとな、今アラスカから適任者を回す手配をしているから」
 「適任者?」
 「情報操作の専門家だ。「ジャングル・マスター」というな」
 「なんだ?」
 「天才だよ。スターの売り出しから国家レベルの世論操作までな。あいつのお陰でアラスカの基地は何の問題も無く進んだ」
 「え?」
 「もう一人、こっちはもうちょっと後になるけどな。「パピヨン」という男もそのうちにそっちへ行くぞ」
 「ぱぴよん?」
 「そいつは都市建設の天才だ。お前の周辺は要塞都市になるからな」
 「え?」
 「「御堂帝国」の建設だ。お前は世界的な有名人であり、「業」と戦う日本の拠点になるんだからなぁ!」
 「何だって! お、おい、石神!」
 「アハハハハハ! まあ、来週俺がそっちに行ったらゆっくり話そう」
 「おい、いしがみぃー」

 「情けねぇ声を出すな! お前は俺の親友だろう!」
 「あ、ああ!」
 「しっかりしろ。ああ、病院はちゃんと引き継ぎしておけよ。いずれは正利が入るだろうけどな」
 「ああ、分かってる」
 「まあ、その頃には日本有数の大病院になってるけどな!」
 「い、石神!」
 「アハハハハハ!」

 俺は電話を切った。
 御堂はしばらく動揺するだろうが、そのうちに慣れるだろう。
 あいつは俺よりずっと器のでかい男だ。
 正巳さんも協力してくれるだろうし、澪さんもきっと支えてくれる。

 大騒ぎのあった週の土曜日。
 俺は早乙女夫妻を迎えていた。







 「石神、本当に世話になった」
 「いいさ。最初から俺は協力するつもりで、お前に立ってもらったんだからな」
 
 二人はリヴィングのテーブルに座り、亜紀ちゃんと皇紀、双子も一緒にいる。

 「事件の詳細は後で説明するが、「太陽界」はこれで全て消滅した。残党はまだいるだろうけどな」
 「一挙に進み過ぎた感はあるけどな。お前の部隊の活動が無くなっちゃうよなぁ」
 「いや、そうでもない。警察内部でも、「業」の軍の認識が浸透したからな。マスコミに出ていないことも含めてだ」
 「霊的攻撃のことか」
 「ああ。銃器を持ったテロリストへは、また特殊部隊が出来る予定だ。でも、それが通用しない事件の存在が明らかになった」
 「そうだな」
 「自衛隊から届いた映像が決定的だった。奇怪な弓の化け物と、水晶のような化け物。お前との常識を外れた戦闘だ」
 「ああ」
 「俺たちは、これまで誰も考えもしなかった犯罪と戦わなければならない。世界は変わったんだ」
 「そうだ。化け物がいることが明らかになった。東京で膨大な死者が出た。対抗手段は全国民が望むだろうよ」
 「そうだな」

 食事を終え、コーヒーを飲んだ。
 雪野さんは紅茶だ。

 「ところで石神」
 「なんだ?」
 「実は俺のセクションのことなんだがな」
 「ああ」

 何か問題があるのだろうか。

 「実は一つ悩んでいることがあって」
 「なんだ?」
 「あの、名前がな。名称をその」
 「なんだよ?」
 「だから、何かこう、カッコイイ名前はないかなって」
 「……」

 なんだ、こいつ。

 「お前に相談するのがいいって、雪野さんも」
 「ザ・オトメンズでいいじゃんか」
 「いや、それは! 頼むよ、石神」
 「お前なぁ」

 ばかなのか?

 「そんなもの、警察内部で決めればいいだろう」
 「でも、どうせならカッコイイのが」
 「はぁー」

 早乙女がウルウルした眼で見ている。
 雪野さんも頭を下げている。
 いい夫婦になりやがった。

 「「ケルベロス」だ」
 「おお!」
 「お前たちは門番だ。ケルベロスは地獄の門番だが、お前たちはその反対に地獄から日本を守る門番だ」
 「なるほど」
 「ラテン語で「逆」を意味する「adversus(アドウェルサス)」と併せて、「アドヴェロス(Adveros)」というのはどうだ?」
 「おお! いいじゃないか!」
 「音もいいよな。まあ、そっちで通るかどうかは知らん」
 「必ず通すよ!」
 「銀狼部隊よりはいいだろうよ」
 「うん!」

 雪野さんも嬉しそうに微笑んでいた。
 早乙女が喜んでいるのが嬉しいのだ。




 俺はその後で、地下室で早乙女から「太陽界」のテロの被害の詳細を聞いた。
 
 死者1805名、負傷者4533名、行方不明280名。
 
 負傷者はうちの病院でも引き受けている。
 救急車は全台出動し、近県からも応援が来た。
 それでも足りず、千万組や元稲城会の人間が自前で運んだ。
 大混乱だったが、今は落ち着いてきている。
 死んだ者はもう帰らないが。

 警察官にも死傷者が出た。
 身を挺して市民を守った方もいるらしい。
 千万組にも数人の死者が出た。
 同じ理由だった。

 日本中が衝撃を受けた大事件となった。
 未知の戦力が日本を狙って攻撃した。

 そして、それを防いだ「虎」の軍への感謝と共に、警察や自衛隊の対応策が求められた。
 俺たちが、マスコミをそう誘導した。
 アメリカでも同様のことが起きている。
 先に「業」の軍の攻撃を受けたアメリカは、日本での事件を知り、再び世論が騒ぎ出した。
 そちらも俺たちが誘導している。

 対岸の火事と構えていられないことも確かだ。
 ヨーロッパや他の国もいずれ同じ方向へ流れる。

 世界的に、「業」の軍は敵と認識された。
 その強大な戦力が仇になった。



 日本も世界も、変わりつつあった。
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